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1 給与所得から事業所得への流れの加速
コロナウィルス禍の経済ショックの中で、2020年4月からパートタイム有期雇用労働者法が施行されましたが、派遣労働者等の短期雇用労働者の雇用が急減し、経済に対する深刻な危機に陥りました。これに対応し、事業所得者に対する持続化給付金が実施されましたが、これから漏れた給与・雑所得で申告したフリーランス等の事業所得者に対する給付が加えられました。しかし、派遣切り等で収入を絶たれた給与所得者の生活費は、雇用者の雇用調整助成金の対象となる休業手当金の支給がなく、雇用保険の適用がなく失業手当の支給がなく、休業支援金の対象からも漏れた場合、特別定額給付金のみとなり、要件の厳しい生活保護の支給をを受けなければならず、極めて深刻な状況となっています。
持続化給付金の追加対象者となるフリーランスを含む個人事業者は、雇用契約によらない業務委託契約等に基づく事業活動からの収入を主たる収入としている次の方となっています。
①委任契約に基づき、音楽教室や学習塾の講師など「生徒に教える」という役割を委任されている
②請負契約に基づき、成果物を納品されているエンジニアやプログラマー、WEBデザイナー、イラストレーター、ライターなど
③業務委託契約に基づき、化粧品や飲料など、特定取引先の商品を届け、集金する業務を委託されている
他方、これらの職種であっても、会社等に雇用されている方(サラリーマンの方、パート・アルバイト・派遣・日雇い労働者の方を含む)は対象とならないとされています。
こんな中、外出自粛の所謂おうち生活による、ウーバーイーツや楽天・アマゾン等の宅配の需要の増大により、配達員の個人事業化がどんどん拡大しています。
また、テレワーク化の推進により、会社に出社して、上司の直接の指揮監督下の指示による事務から、自宅での事務作業化が進むことにより、当該事務の委任契約による個人外注化も進んでいくと考えられます。
それでは、被雇用者とフリーランスを含む個人事業者とは何が違うのか?
2 給与と事業の所得区分について
この問題については、菊池衛さんの論文「人的役務所得をめぐる若干の考察」(国税庁ホームページの税務大学校の論文集にあります。)で詳しく分析・検討されていますが、以後、給与と事業の判断基準に関しては、裁判所の判例や税務の実務においても、おおむね当該論文の分析・検討を受け、次の点をその判断基準としています。
①その契約に係る役務の提供の内容が他人の代替を容れるかどうか?(代替不可の場合は給与)
②役務の提供にあたり事業者の指揮監督を受けるかどうか?(指揮監督を受けるときは給与)
③まだ引渡しを了しない完成品が不可抗力のため滅失等した場合等においても、当該個人が権利として既に提供した役務に係る報酬の請求をなすことができるかどうか?(報酬の支払い請求権があれば給与)
④役務の提供に係る材料又は用具等を供与されているかどうか?(材料の無償支給、作業用具の供与があれば給与)
消費税法基本通達1-1-1では、「事業者とは自己の計算において独立して事業を行う者をいう」とし、「個人が雇用契約又はこれに準ずる契約に基づき他の者に従属し、かつ、当該他の者の計算により行われる事業に役務を提供する場合は、事業に該当しない」としている。そして、例として、「出来高払いの給与を対価とする役務の提供は事業に該当せず、また、請負による報酬を対価とする役務の提供は事業に該当する」とし、その判断基準は「雇用契約又はこれに準ずる契約に基づく対価」か否かによるが、それでも区分できないときは、上記の①から④の事項を総合勘案して判定するとしています。
これらにより、人的役務の提供が、給与でないと判断され、それが継続、反復しているときは、原則として消費税の課税事業者となり、また個人事業税の対象業種で青色申告特別控除前の所得が事業主控除(290万円)を超えていれば事業税が賦課されます。給与と判断されれば、雇用者に所得税の源泉徴収や社会保険(原則雇用者が2分の1負担)の徴収・納付義務が課されることになります。
所得税の取り扱いでは、その所得計算において、給与でなければ損益計算が基本とされ、給与であれば、その経費は一定の給与所得控除を概算経費控除(例外として特定支出控除をこれに替えることができる)として計算することになります。さらに、通勤手当等の一定の給与(実費弁済的なもの)は非課税とされています。
他方、雇用契約=給与とはならないことがあります。例えば、会社等の法人の役員報酬は委任契約ですが、所得税、住民税、消費税では給与として取扱います。また、社会保険に関して、雇用保険では、暫定任意適用事業等の適用除外並びに1週間20時間未満、31日未満で雇用継続の見込みがない等の短時間労働者等の被雇用者が被保険者から除外されており、健康保険・厚生年金にも適用事業の除外、被保険者の除外規定があり、かつその標準報酬には通勤手当が加算されています(保険料がその分増加します)。
3 帰属所得としての労働・役務提供について
ある人が完全な自給自足生活がができて、その所有物や人的役務による成果物(帰属所得の一部)を商品として経済社会に提供(物象化させ)し、その対価(通貨)を得る必要がないときには、所得税の対象となる所得税法36条の収入金額が生じていないことになります。もっとも、税金(不動産の固定資産税、住民税の頭割り)や社会保険(国民健康保険、国民年金保険料)の負担は生じますので、これを納付するためには、何らかの帰属所得(その成果物)を対価として通貨を取得する必要があります。
現行の所得税法は、その創成期のシャープ税制で、いわゆる所得源泉説・純資産増加説の議論だけではなく、包括所得概念論を基本に構成されましたが、帰属所得や未実現利益(各種みなし譲渡規定は除く)が除外されていることから、完全な形での包括所得税論を採用しているわけではないといわれています。これらについては、前記の論文「人的役務所得をめぐる若干の考察」で分析しており、また、大蔵省でシャープ税制に携わった植松守雄さんの「注解所得税法」でも詳しく検討されているところです。(当ホームページの帰属所得の項目も参照)
帰属所得は「自己の財産の使用もしくは占有から生ずる利益又は自己もしくは家族のためにする役務の提供(自家労働)によって生まれる利益」と一般的に定義づけられていますが、その語源のインピューテッドインカム(imputed income)の語彙から、むしろ「人・モノそれ自体が持つ内在的な価値=所得」と理解すべきものと考えます。したがって、帰属所得は「財産の自己所有(占有)又は自家労働の結果、もしそうでなければ免れ得ない支出をセーブできることによって受ける利得」との考え方は正しい理解ではなく、むしろ帰属所得自体からはprofitである利得(利益=利潤)は生じていないことを理解すべきものと考えます。よって、帰属所得たるモノの消費は利益とはなりませんので、帰属所得の期中消費額が所得に該当するという考え方は妥当ではありません。帰属所得自体には経済的利益はなく、帰属所得もしくはその成果を経済社会に提供(現象)し対価(通貨等交換により取得するモノ)を得たときにprofitである利得が生じると理解すべきです。言い換えますと、モノを持っているだけでは利得を生じないが。それを賃貸すれば賃料という利得が生じ、売却すれば代金という利得が生じ、また、人の役務をその人自身のために使えば利得は生じませんが、他人に提供してその対価を得れば「労賃」という利得が生じるということです。
したがって、各種の帰属所得及びその成果を商品として経済社会に物象化(対価としての通貨等の取得)させるこそことが、所得課税の担税力の把握(収入すべき金額の実現)の基本とすべきと考えられます。
4 人的役務による利得の所得区分について
個人の有する知恵・知識・技術・発想力・技能並びに運動能力等のあらゆる才能(内在的価値)は、その個人の有するimputed income(帰属所得)そのものであり、これを自分のため(生活、趣味、家族・友人のため等)に使うか、経済社会に物象化(現象)させて通貨等の対価を得るかは、その個人の任意の自由な選択(処分)となります。
そして、その有する各種の帰属所得及びその成果がどのような形態で物象化したかによって、所得税法で区分された各種所得にどのように対応させるかが問題となります。(概念論としては、刑法の構成要件に対応した犯罪類型のごとく、課税要件に対応した各種所得類型による判断を要する。)
この考え方によると上記の所得源泉説が妥当するかというと、個人の純資産の増加という面を捨象することになり妥当とはいえないことから、包括所得概念を採らざるを得なくなります。
帰属所得とその成果を所得源泉とする所得類型として所得税法は、その有するモノ、役務提供等を使用した事業による利得を事業所得(所得税法27条及び所得税法施行令63条に掲げられた①農業、②林業及び狩猟業、③漁業及び水産養殖業、④鉱業(土石採取業を含む)、⑤建設業、⑥製造業、⑦卸売業及び小売業(飲食店業及び料理店業を含む)、⑧金融業及び保険業、⑨不動産業、⑩運輸通信業(倉庫業を含む)、⑪医療保険業・著述業その他のサービス業、⑫前各号に掲げるもののほか、対価を得て継続的に行う事業で、不動産の貸付業又は船舶若しくは航空機の貸付業は除く)、その有する不動産等の貸付による利得を不動産所得(所得税法26条、事業所得、譲渡所得に該当するものは除く)、その有する資産の譲渡による利得を譲渡所得、その有する役務の提供による対価として俸給、給料賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与を受領する利得を給与所得、退職に起因して一時に給与を受領する利得を退職所得、その有する公社債・預貯金に係る金融機関等から受領する利子等の利得を利子所得、その有する株式・出資に係る法人からの剰余金等の配当等の利得を配当所得、その有する山林の伐採又は譲渡による利得を山林所得としています。
所得税法は以上のほかに、「利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得」のうち「営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外」の「一時の所得」で「労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しない」ものを一時所得とし、上記の所得のいずれにも該当しない所得を雑所得としています。
よって、営利を目的とする継続的行為でない労務その他の役務の対価の性質があるものは雑所得に該当することになります(営利を目的とする継続的行為は事業所得になります)。
また、一時所得、雑所得には、所得源泉のないものも含まれていることから、所得税法は包括所得概念の考え方を採用しているとの根拠になっているところです。
したがって、人的役務による利得は、その物象化の仕方により、各種類の事業所得、給与所得、雑所得に区分されるにすぎないこととなります。
具体的にいえば、事業所得は、上述のように農業所得以下の各種の業種に分けて定義づけられていますが、おおむね、土地・建物・設備装備・機械装置等の固定資産を使用し、他者から売上原価となるモノの仕入(購入)をして、さらに自己の役務の投入により、サービスを含むその成果物(商品等の産出物)を経済社会に提供(物象化)することになりますが、業種によっては、固定資産をほとんど使用せず、売上原価もほとんどなく、人的役務の提供がそのほとんどとなる事業の形態が認められます。
反面、様々な技能・芸能を創作・表現する芸能等労働者等は、単純な人的役務の提供ではなく、サービスを含むその成果物をその雇用者(使用者)に提供する形態が認められる場合があります。
他方、民法の典型契約での、雇用・請負・委任の区分に応じ、雇用は給与、請負・委任は事業とする考え方もありますが、上記2の通りその区分の仕方は輻輳しています。
さらに、特定の得意先に従属(事実上取引先が一つしかない)してはいるが、必要な固定資産をその得意先からのリースで賄い、売上原価も得意先から有償での供給を受けて、その代金は報酬から差引いて対価を受け取ることにより、上記2の区分を意図的に事業所得にする例が、多数生じています。(これは、税務調査での争点にもなっています。)
5 給与の外注化の遠因と免税業者に対する課税事業者選択の軋轢の始まり
例えば、運送・配送業では、従来、社員(従業員)であった運転手・配送担当者を雇用契約から、外注契約(請負類似の継続的取引の基本契約のようなもの)に切り替え、車両は会社からそのままリースし、ガソリン代・車検費用・修繕費は実費、保険は本人名義で集団契約し、これらの費用を月極めでその月の運賃等の報酬から相殺し、天引きして決済する方法に変更しているが、実体は従来の勤務と変わらず、社員である従業員と同じような業務になっている。また、様々な業種で、従来社員として賄っていたエンジニア、プログラマー、WEBデザイナー、イラストレーター、ライターなどの業務(成果主義で勤務評価されることが多い)で、成果物を納品する形態の外注化が、急速なスピードで進んでいます。(上記持続化給付金の追加対象となった業種のほとんどが、この流れで外注化されていたと考えられます。もっとも、自由な働き方を望むフリーランスの方もいます。)
この原因が、外注化が社員・従業員の社会保険の雇用者負担分(法定福利費)の支出を大幅に減らし、外注費が消費税の課税仕入れに計上できることから消費税を大幅に軽減できることにあることは明らかです。
そして、政府の進める働き方改革で、労働時間の短縮と短時間労働者の正社員化と社会保険の被保険者化が積極的に進めていく結果、社会保険の負担が徐々に増加し、さらに消費税の引上げによる税負担の増加を回避するためには、これもやむを得ない状況となっています。
また、消費税に関しては、10%引き上げと同時に区分記載請求書保存方式が仕入れ税額控除に導入され、それが令和5年10月1日からは適格請求書保存方式(インボイス制度)に移行し、適格請求書発行事業でない者(免税業者を含む)からの課税仕入れは、令和8年9月までは80%、令和11年9月までは50%まで認められますが、令和11年10月からは全く認められなくなります。適格請求書発行事業者になるためには、課税事業者でなければならないので、得意先が課税仕入れを計上したければ免税業者は課税事業者を選択して適格請求書発行事業者にならざるを得ないことになります。
さらに、消費税転嫁対策特別措置法が令和3年3月31日までで廃止され、その適用期限が延長されなかったので、この課税事業者選択圧力が独占禁止法の優越的地位の濫用によるものと認められなければ、令和5年10月以降、免税業者は「消費税を転嫁する義務がない以上、消費税分は請求するな(=値引きしろ)」との得意先からの圧力がかかり、これに応じなければならない事態が生ずる恐れがあります。結局、免税業者は、消費税分の値引きを認めるか、消費税の課税事業者を選択して適格請求書発行事業者になって消費税を納付するかの究極の選択に迫られることになります。(もっとも、その分の益税はなくなるので当然のこととは思いますが?免税業者が、仕入・経費にかかる消費税の転嫁ができず、消費税の最終負担者になります。つまり消費税では、事業者であるにもかかわらず、最終消費者として取扱われるという矛盾が生じます。さらに、従来の国税庁や経産省の免税業者の消費税の適正転嫁の説明とも矛盾することとなります。なお、消費税法第4条で「消費税を課する」としているにもかかわらず、消費税法基本通達1−4−5では、「基準期間である課税期間において免税業者であった事業者が、当該基準期間である課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等については消費税等が課されていない。」としています。この矛盾した解釈が、インボイス制度の導入では顕著に現れてきています。ただし、平成17年2月1日最高裁判決(平成12年(行ヒ)第126号)では、この通達に追随した安易な判決がなされています。この矛盾した解釈を今後も維持し続けるのでしょうか?)
さらにいうなら、免税業者が売り上げに係る消費税を転嫁できなくなるのであれば、消費税の最終負担者となることを避けるため、免税業者の課税仕入れにかかる消費税の還付申告を認める制度が認められるのでしょうか?
6 役務提供に係る所得の計算方法について
役務提供にかかる所得の計算については、有名なサラリーマン減税訴訟の「労働力という商品を売って生計をたてるサラリーマンにとって労働力の再生産に必要な費用すなわち生活費も必要経費である」との生活費必要経費論があります。所得税法45条1項は1号の「家事上の経費及びこれに関連する経費で政令で定めるもの」は必要経費に算入しないとし、所得税法施行令96条で次に掲げる経費以外の家事関連費は必要経費とされないとしています。(必要経費となる家事関連費は次の通り)
①家事上の経費に関連する経費の主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費
②前号に掲げるもののほか、青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者に係る家事上の経費に関連する経費のうち、取引記録等に基づいて、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分に金額に相当する経費
また、所得税法86条の基礎控除(令和2年分から48万円)は最低生活費を課税所得から減額させたものであり、そのほかの所得控除も医療費や社会保険、扶養家族の存在等の担税力の減少に見合った金額を課税所得から減算させていることなどから、生活費必要経費論は妥当ではありません。他方、帰属所得及びその成果を経済社会に物象化させてその対価を取得することに担税力を把握する考え方では、経済社会に物象化していない帰属所得及びその成果に係る経費は、その性質上、所得計算上の必要経費にすることは適切でありません。
所得税法27条2項は「事業所得の金額は、その年中の事業所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とする。」とし、同法35条2項2号は「その年中の雑所得(公的年金等に係るものを除く)に係る総収入金額から必要経費を控除した金額」を雑所得に金額にしていますが、同法28条2項は「給与所得の金額は、その年中の給与等の収入金額から給与所得控除額を控除した残額とする。」同3項で給与所得控除の計算式を定めています。(有名な最低65万円(令和2年分から55万円)控除はこれです。他方、事業所得には青色申告の場合は複式簿記の記帳を条件に青色申告特別控除65万円があります。)
この給与所得控除は、必要経費の概算控除として説明されているところです。
ところで給与所得者には、雇用主である使用者から受ける金銭等の経済的利益の非課税の規定があります。具体的には、所得税法9条1項4号の職務上必要な出張・転任に伴う旅費、同5号の通勤手当(所得税法施行令22条の2の計算式による上限があります)、同6号の職務上必要な給付を受けた所得税法施行令21条1号の船員法等により支給される食糧、2号の職務上使用者から支給される制服その他身の回り品、3号の物品を借り受けることによる利益、所得税法基本通達28-1の宿日直料(4,000円上限)、同28-4の「役員等に支給される交際費等(いわゆる渡切交際費)のうち、使用者の業務のために使用すべきものとして支給されるもので、そのために使用したことの事績の明らかなもの(金額上限なし)、同28-5の雇用契約等に基づいて支給される社会通念上相当と認められる結婚祝い金、出産祝い金、葬祭料、香典、などがあります。また、使用者から受ける経済的利益に関して同通達36-38の2支給された食事の実費の50%以上を徴収していれば残額が月額3500円以内であれば非課税とされ、同36-40から36-48に規定されている住宅の貸与による経済的利益(例えば使用者が賃借した場合の賃料の50%等)の非課税などの取り扱いがあります。
この非課税給付は、事業所得、雑所得となった場合には、すべて収入金額に加算され、費用の実費が必要経費とされることになります。
この給与所得者が、高額な報酬を受けている会社役員の場合はどうなるのか、通勤のための費用は通勤手当が支給され非課税、業務上の出張等に係る運賃宿泊費等の費用は旅費が支給され非課税(日当も非課税)、取引先や社内交際の費用は(渡切交際費を含めて)会社経費で非課税、勤務のための被服費や職務上使用する器具備品は全部支給されその経済的利益は非課税、といった報酬を受けるために必要な経費は全部会社持ちなので、役員報酬を受けるために役員本人が支出する必要経費はほとんどなく、実体のない概算経費控除の給与所得控除が必要経費として計算され、所得税の負担が減額されることになります。(ましてや役員報酬は、雇用契約ではなく、委任契約による報酬です)
他方、パート・アルバイト・派遣職員等で交通費込みの時給(通勤手当なし)、特に制服なしだが勤務のためのスーツ等は自己負担、得意先や上司とのコミュニケーションのために必要な交際費は自己負担、職務に必要な知識技術習得のための研修を会社がやってくれないのでやむ負えず自己負担により書籍を購入・民間研修参加、といった雇用契約はいくらでもあります(まあ、こんなブラック企業はすぐに退職したほうがいいですが)。このような場合は、給与所得控除額以上に必要経費がかかることになります。
このため、所得税法57条の2で給与所得の特定支出控除の特例を規定しています。これは、通勤費、職務遂行に必要な旅費、転任に伴う引っ越し費用、研修費(使用者からの証明がいる)、資格取得費(使用者からの証明がいる)、単身赴任の帰宅旅費、勤務必要経費(使用者からの証明がいる。65万円が最高限度)の合計額(上記の給与の非課税となる経済的利益・給付を除きます)が給与所得控除額の2分の1を超えたら、その超えた金額が給与所得控除後の所得金額から控除されることになっています。
なお、令和2年から給与所得控除額の最低額は、基礎控除の10万円の増額にあわせて、65万円から55万円に減額され、その上限は220万円から195万円に減額されました。
7 役務提供による対価を事業と給与に区分する必要性が本当にあるのか?
上記1の持続化給付金の追加対象に、確定申告で給与所得や雑所得で申告したフリーランス等の「個人事業者」を加えたことは、国税側の指導に従った上記2の所得区分の判断に関する実務に少なからぬ影響を与えると考えられます。特に従来から税務調査で、建設労務者やフリーランス等の勤務形態の取引先を外注費に計上している件について、この判断基準を採用して、消費税の課税仕入れを否認し、給与の源泉所得税の徴収漏れを決定する事例が多数発生しており、所得税の確定申告の実務でも、この判断基準により給与所得もしくは雑所得と判定して、申告指導してきた実態があります。
この問題については、既に上記の各項目で検討しましたが、これから変わる消費税の問題が大きくなると考えられます。
消費税法5条で納税義務者は事業者とされ、同法3条1項4号で事業者は個人事業者及び法人と定義づけられ、同項3号で個人事業者は事業を行う個人と定義づけられています。
それでは、事業とは何か、個人事業税は地方税法72条の2で細かく規定し、その8項で第1種事業、9項で第2種事業、10項で第3種事業を掲げていますが、ここに特掲された事業には上記1のフリーランスの個人事業は含まれないと思われます。消費税法には、事業の定義の規定はありませんが、消費税法基本通達1-1-1では上記2のとおりであることから、上記1のフリーランス等は消費税の事業には該当しないと思われます。所得税法27条の事業所得については上記4で検討したとおりですが、講学上の各種書籍や判例では、「自己の計算と危険において利益を得ることを目的として継続的に行う経済活動」と定義づけられることが多いようです。消費税法基本通達1-1-1はこの所得税法の議論を念頭に置いて規定されたものと考えられますが、所得税法の基本通達ではこのことをあえて追加していませんので、所得税法施行令63条12号の「対価を得て継続的に行う事業」というバスケット概念で解釈せざるを得ないことになります。
したがって、個人事業は、所得税、個人事業税、消費税とでは、その法律概念が違うものと理解することになります。(相続税の小規模宅地等の軽減措置(租税特別措置法69条の4)の事業も)
そうすると、持続化給付金で追加されたフリーランス等の個人事業者は、地方税法では個人事業税の対象となる個人事業者ではなく、消費税でも課税事業者となる個人事業者ではないが、所得税では個人事業者となると解釈すべきことになるのでしょうか。(むしろ、人的役務提供に係る取引=報酬は、給与と同様に、消費税の課税取引ではない不課税取引と解すべきではないでしょうか。)
また、外交員、集金人、電力量計の検針人その他「特定の者に対して継続的に人的役務の提供を行うことを業務とする人」(家内労働者等)に対する事業所得等の所得計算の特例が租税特別措置法27条で認められ、経費がなくとも給与所得控除と合わせて65万円(令和2年からは55万円)までは必要経費(例えば給与収入が30万円の時は家内労働に係る経費がなくても35万円の必要経費が計上できる)として計上できるので、給与収入が65万未満の者にとっては、事業所得者の青色申告特別控除と同様に給与所得控除の最低限の控除金額と同等の効果が認められる形態となっています。なお、家内労働者とは、家内労働法2条2項で「物品の製造、加工等若しくは販売又はこれらの請負を業とする者その他これらの行為に類似する行為を業とする者であって、委託者(厚生労働省令で定めるもの)から、主として労働の対価を得るためにその業務の目的物たる物品(物品の半製品、部品、付属品又は原材料を含む)について委託を受けて、物品の製造又は加工等に従事する者であって、その業務について同居の親族以外の者を使用しないことを常態とするものをいう」と定義づけています。
例えば、上記5の例の特定の運送業者に従属した配送の担当者・運転手は、家内労働者等に該当すると考えますが、ウーバーイーツやウーバータクシーのパートナーである場合は、顧客紹介と代金決済のソフトを利用した不特定多数の顧客の運送業務を請負う形態なので、家内労働者には該当しないと考えられます。また、特定のスポーツクラブのみで従事するインストラクターは家内労働者に該当しますが、有名なスポーツ選手だったインストラクターが、各地の多数のスポーツクラブ等で行う業務は家内労働者には該当しないことになります。
これらのことから、特定の者(雇用者・委託者)に従属する人的役務の提供である被雇用者と家内労働者等を、給与所得と事業所得で厳しく峻別することは妥当でないので、給与の側からは特定支出控除が、事業の側からは家内労働者の特例が、規定されたのではないかと考えられます。
また、テレワークによる在宅勤務が常態化したとき、自宅の業務使用部分の家事関連費(家賃若しくは家屋の減価償却費・固定資産税・損害保険、水道光熱費等)は必要経費とすべきこと等、特定支出控除も収支計算に極めて近くなるものと考えられます。(通勤手当や旅費等は実費弁済として非課税とされていますが住宅手当の支給は非課税とされていない)
したがって、人的役務の提供に係る所得は、給与所得も含め、収支計算を原則とし、例外として給与所得控除等の簡易な概算経費控除の適用が受けられる形態とすべきでがないかと考えます。
なお、給与所得の収支計算については、日本税理士連合会税制審議会の平成13年度諮問に対する答申「給与所得課税のあり方について」では、「給与所得に係る現行の給与所得控除を見直し、事業所得など他の所得と同様に、収入金額から実額による必要経費控除を行って所得金額を算出するとともに、申告納税制度の本旨に沿って、給与所得者自身による確定申告制度への移行を提言するものである。」と結論付けています。
8 源泉徴収票と支払調書の交付義務
大企業を中心にが支払調書の発行をしないこととしたことが話題となり、これに倣って支払調書の発行をやめる企業が続出しています。支払調書を各取引先に送付する作業と費用は郵送料等が多大の額となるので、不要な経費節減するために所得税法上の義務のない支払調書の発行をやめることはやむを得ないのかもしれません。また、マイナンバーの記載のないものにする必要があるので、税務署への提出する支払調書をそのまま使えないこともその理由となっています。
しかし、所得税の確定申告にあたり、「今年から会社の事務作業の効率化等により、支払調書の発行をやめました」と言われて、支払調書の交付を受けることのできない個人事業者等が続出し、確定申告の計算ができない等の大混乱が発生しています。
所得税の源泉徴収制度は、所得税法第四編に、利子・配当所得(181条)、給与所得(183条)、退職所得(199条)、公的年金等(203条の2)、報酬・料金・契約金又は賞金(204条)、生命保険契約等に基づく年金(207条)、定期積金の給付補填金等(209条の2)、匿名組合契約等の利益の分配(210条)、非居住者又は法人の所得(212条)に一連の規定があり、支払調書に関する224条以下の一連の受領者告知義務並びに源泉徴収票及び各種支払調書等の税務署への提出義務等が規定されています。しかし、これらの条文中の「支払いを受ける者に対して交付する義務」の規定は、225条2項1号のオープン型証券投資信託の収益の分配、同条同項2号の剰余金の配当・利益の配当・剰余金の分配又は金銭の分配、226条の給与・退職金・公的年金等に限定されています。
これらの源泉徴収義務のうち所得税法204条に係る人的役務及びその成果の提供の対価である「報酬・料金」については、所得税法、所得税法施行令及び所得税法基本通達に、その該当するもの(業種・提供する作業や成果等の取引の内容等)、源泉徴収税率等が細かく規定されており、これは国税庁が毎年無料で配布している小冊子「源泉徴収のあらまし」の「第5報酬・料金の源泉徴収義務」において表にして細かく分類して説明されていますが、自分の提供している役務とその成果がどれに該当するかの判断(源泉徴収されているかどうかも含めて)や消費税の経理方法の違い(消費税込みか否か2021年4月から税込表示義務あり、課税取引か否か)による計算方法の違い、また演劇に関する事業では源泉徴収を要しない制度もあること、さらに同一支払いの中に源泉徴収に該当する業務と該当しない業務(旅費・宿泊費等実費弁済として相当な金額のもの)が混在している場合等、支払者側の経理方法に違いがあることなど、税に詳しくない一般の小規模の個人にとっては、自分の受け取る報酬の源泉所得税の逆算が極めて難しい現状が認められます(特に、復興特別所得税の0.21%の加算がより難しくしています)。またこれは、確定申告書の作成・提出が困難となる状況を作り出し、誤った申告書の作成・提出の誘因になってしまいます。さらに、消費税の免税業者への源泉所得税の対象となる金額が消費税込みの金額か消費税抜きの金額かの経理処理が混在し、後者の処理が一般的であるが、適格請求書発行事業者を選択しなかった免税業者に対しては、どちら取り扱いなのか?も混乱の理由となります。
それでは、支払調書を発行してもらえないのならマイナンバーを教えないと抵抗したらどうなのか?マイナンバーの不提供に罰則はないので、支払者側は提出期限までにマイナンバーの記載のない支払調書を税務署に提出しなければならないことになります。このような無用のトラブルは事前に防ぎたいものです。
したがって、これらの人的役務にかかわる報酬等については、源泉徴収票同様の支払調書の交付義務の制度もしくは源泉所得税を含む支払内容の通知義務の制度を設けるべきではないかと思われます。
なお、令和2年の税制改正による源泉所得税の推計課税の規定の創設(所得税法221条の改正)により、本来の源泉所得税の負担者(支払いを受ける者)に精算すべき源泉所得税の額、その計算根拠を通知すべき規定も不可欠なものと考えられます。(懲罰のように源泉徴収義務者に当該税額を負担させることは妥当とは言えません。調査実務では、追徴される源泉所得税を給与や報酬にグロスアップ(所得税法基本通達181〜223共ー4))して強制徴収決定される場合が多いです。このような場合には追徴された源泉所得税とグロスアップされた給与報酬の金額を支払いを受ける者に通知する義務を設けるべきです。)
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