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家族の法律関係
(扶養・贈与・生活保護・新しい家族関係に関して)

1 出生から始まる法律関係

 私たちが生まれてから死亡するまで、様々な法律関係を形成し、権利義務が発生し、承継し、承継させることになります。具体的には(大雑把ですが)、民法等の私法による権利義務、所得税法、相続税法、住民税法等の税法による納税義務、健康保険法、厚生年金法並びに国民健康保険法、国民年金法等の社会保険関係法による各種給付を受ける権利、保険料等の各種負担金を納付する義務等が発生します。また、サラリーマン等の労働者の方であれば、労働基準法、労災法、雇用保険法等の労働法等の適用を受け、これによる権利義務が生じます。

 例えば、子供が生まれれば、その子には憲法上の人権が発生し、特に生存権が国家により保証され、生活に必要な最低限の生活の保護の給付を受ける権利が生じ、民法第820条により「親権を行う者(通常は両親)は、子の利益のために子の看護及び教育する権利を有し、義務を負う」とされます。また、両親には、健康保険法等による出産に係る給付金(出産育児一時金約40万円)が支給され、労働基準法等による産前産後の休暇の権利が発生し、健康保険に加入している労働者であれば、産前産後の休暇中の所得を補償するために、産前42日、産後56日の出産手当金が給付され、その後の育児休暇中には雇用保険から最大2年間の育児休業給付金が給付されます。さらに、児童手当法による児童手当が中学生になるまで父母等に給付(父母等の所得、子供の数及び年齢により金額が違いますが)されます。他方、住民税では均等割が発生しますが、所得税、住民税、各種社会保険の所得に応じた税、保険料の計算については、扶養控除等による減額の対象となります。その他、民法では、出生により権利義務の主体となる資格が発生(相続、不法行為による損害賠償については胎児にも発生)し、親族・相続では、両親等の扶養義務の履行を請求する権利、親(直系尊属)等の死亡の際の相続(代襲相続)の権利を得ることができるようになります。

 死亡の際には、権利義務は消滅しますが、民法上の相続人等は、その財産(権利義務)を承継(相続)する権利(負債も承継しますので放棄もできる)が生じ、それに伴う相続税等の納付義務が課され、また、扶養されていた親族等には労働保険、社会保険等の各種遺族給付を受ける権利を取得します。

 以下家族の生活の場面々々の権利義務関係を、これから順次、整理作成したいと思います。

2 家族と相互扶助

 家族については、同性婚等が社会問題となっていますが、憲法第24条第1項では「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。」とされ、同第2項では「配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。」とされています。民法第752条では「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。」とされ、同法第725条では①六親等内の血族②配偶者③三親等以内の姻族を親族とし、同法第730条では「直系血族及び同居の親族は、互いに扶け合わなければならない。」とされ、同法第877条第1項は「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。」第2項は「家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内親族間においても扶養義務を負わせることができる。」とし、同第879条は「扶養の程度又は方法について、当事者間に協議が整はないとき、又は協議することができないときは、扶養権利者の需要、扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮して、家庭裁判所が、これを定める。」としています。したがって、扶養義務の履行の程度と方法は、当事者間の協議(同意)で、いかようにもできるのが基本となるものと考えられます。(ただし、離婚裁判等での子に対する扶養義務の程度は、大学卒業までの未成熟子に限られるようです。)

 他方、相続税法は、贈与税の非課税財産に関する規定である相続税法第21条の3第1項第2号で「扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの」の「財産の価額は、贈与税の課税価格に算入しない。」としていますが、上記の民法第730条及び第877条相互扶助義務の履行、第820条の子に対する親の監護・教育義務の履行は、立法趣旨から当然に贈与税が課税されるべきものではありません。そもそも、相続税法第1条の4及び同法第2条の2の「贈与」は、あくまで民法第549条の典型契約としての「贈与」の借用概念で、民法の扶養義務の履行は、この「贈与」には該当せず、相続税法第21条の3第1項第2号の規定は、非課税というよりは、扶養義務の履行に名を借りた、不適切に過大な贈与を防止するために、「通常必要と認められるもの」を超える扶養義務の履行には贈与税を課税するとした、みなし贈与の規定の性質を有するものと考えられます。(国税庁の平成25年12月12日付の資産課税課情報第26号「扶養義務者(父母や祖父母)から「生活費」又は「教育費」の贈与を受けた場合の贈与税に関するQ&A」について(情報)に、生活費、教育費、結婚費用、出産費用及びその他生活費についての課税庁側の解釈がされており、おおむね実費弁済的なものは贈与税の課税の対象とはならないと解釈しているようです。)

これによると、極端な話ですが、医者一人育てるのに大学への入学金、学費、寄付金等で1億円かかるといわれていますが、これも通常必要な教育費として、贈与税の課税対象とはならないことになります。成年年齢が18歳に引き下げられますので、大学生や大学院生の年齢では、親権者の教育義務がないことから、未成熟子に対する直系血族の扶養として両親や祖父母が負担することになるのでしょうが、この扶養義務の履行に贈与税がかからないということが、どこまでが妥当なのか考えさせられます。同じことは、一部富裕層の子弟の高額な費用のかかる海外留学などにも言えることです。

よって、贈与税の教育資金や結婚資金の非課税制度の存在価値がどこにあるのか考えさせられます。(金融機関の信託制度のためにあるかわかりませんが、扶養義務の先行履行たる贈与により、相続財産を減少させる効果はありますので、相続税の意図的な減税に使われることになります。ただし、遺産分割の時の特別受益の持戻しの対象にはなると思います。)

 次に、夫婦の財産関係について、民法第760条では「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。」とされています。夫婦共稼ぎのサラリーマン家庭の場合は、生活費、子供の教育看護費用、同居・別居の老いた両親等の家族の看護・介護費用等の婚姻から生ずる費用を分担し、どちらも忙しければ、家政婦、ベビーシッター、保育園・幼稚園、看護・介護施設の利用費用を、それぞれの収入のうちから金銭で支払わなければならないことになります。

ところが、専業主婦(夫)のサラリーマン家庭の場合はどうでしょうか。上記の家政婦以下の費用は、専業主婦(夫)の自家労働(=帰属所得)をもって賄っていることになります。この議論は帰属所得(=インピューテッドインカム)を正しく理解していることが前提となりますが、サラリーマンである配偶者の労働には労賃(給与所得等)という対価が発生しますが、専業主婦(夫)の自家労働には対価が発生しないということを理解することが重要です。個人の所得に関する所得税、住民税等の租税公課は、労働等の対価である収入(収入金額)からその経費(給与控除等を含む)を差し引いた残額(所得金額)に課税しますが、自家労働等の帰属所得には、対価である収入金額が発生しないので、課税される所得が生じることはありません。(このことは、本ホームページの「帰属所得の課税関係」をご覧ください。)

したがって、民法第760条の婚姻費用の分担は、サラリーマンである配偶者の労働の対価による所得と専業主婦(夫)の自家労働による帰属所得により、相まって賄われているということを理解しなければなりません。

夫婦間の財産について、民法第762条第1項は「夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう)とする。」、同第2項で「夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。」とされ、同法第758条第3項では共有財産については、前項の請求とともに、その分割を請求することができるとされています。専業主婦(夫)のサラリーマン家庭が全額借入金で自宅の土地家屋を購入した場合、通常はサラリーマンである配偶者の単独名義で登記することになると思います。その理由は、当該土地家屋の所有権の2分の1を収入のない専業主婦(夫)の名義とした場合、贈与税が課税される危険性があるからです。しかし、サラリーマンである配偶者(「夫」である場合が多い)の単独名義の土地建物の借入金の返済は、婚姻から生じる費用の分担とも認めることができることから、上記の専業主婦(場合によって専業主夫)の帰属所得による分担も含まれるはずであり、当該サラリーマンの単独所有を民法762条1項の特有財産と解することは、憲法24条2項の「財産権」は「両性の本質的平等に立脚して制定されなければならない」とする規定に反することになりかねません(専業主婦(夫)の帰属所得分の持分が潜在的にあるはず)。したがって、民法762条1項の特有財産は限定的に解釈すべきと考えられます。

このことに関連して、民法768条の離婚に伴う財産分与について、一方配偶者の財産分与請求権に対し、他方配偶者がその単独所有の自宅を分与することを、当該請求権の代物弁済として構成し、所得税法上の譲渡所得とした最高裁判例については、一般的に財産分与に適用することは妥当ではなく、その効果は潜在的に帰属所得による持分が認められる「実質的夫婦共有財産」には及ばないと解するべきです。また、最近の相続法の改正の「遺留分侵害請求権」や「特別の寄与」が金銭債権と定義されたことに対比して、財産分与は金銭債権とは定義されていないことも、特筆すべきことです。

 なお、離婚時の厚生年金分割の制度は、上記の財産分与とは関連するものではなく、当該年金の給付請求権自体が、財産分与とは別の制度である厚生年金法により年金分割請求者に帰属し、その給付時に公的年金による雑所得として課税されることになります。

3 扶養義務(及び相互扶助義務)と労働の義務と生活保護の関係

 憲法第28条第1項は「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う。」としていますが、この勤労の義務は、法律により勤労を国民に強制できる意味ではないと解されています。他方、生活保護法第4条は、第1項で「保護は、生活に困窮する者が、その利用しうる資産、能力その他あらゆるものをその最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。」とし、第2項は「民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。」としている。第3項は「前2項の規定は、急迫した事由がある場合に必要な保護を行いことを妨げるものではない。」としつつも、同法第60条で「被保護者は、常に、能力に応じて勤労に励み、自ら、健康の保持及び増進に努め、収入、支出その他生計の状況を適切に把握するとともに支出の節約を図り、その他生活の維持及び向上に努めなければならない。」とし、第61条「届け出の義務」、第62条「指示等に従う義務」及び第63条「費用返還義務」等の義務を課している。また、同法第77条は、第1項で「被保護者に対して民法の規定により扶養の義務を履行しなければならない者があるときは、その義務の範囲内において、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の全部又は一部を、その者から徴収することができる。」としています。

 つまり、被保護者にアルバイト収入があるときは、その手取り額(社会保険や所得税・住民税、通勤費等の必要経費を差し引いた残額)から一定の控除額を差し引いた金額を、生活保護支給金から控除し、さらに、民法上の扶養義務者からの扶養及び年金、児童手当等の他の法律に定める扶助を差し引いた額が、被保護者に支給される金額となります。

 また、生活保護法は、第57条で「公課禁止」、第58条で「差押禁止」、第59条で「譲渡禁止」を規定しています。

 さて、民法の規定による扶養義務とは、通説によれば、同法第752条の夫婦の扶助義務、第820条の親権者の子のための看護及び教育義務は、生活保持義務で、同法第877条第1項の直系血族及び兄弟姉妹、第2項の家庭裁判所により扶養義務を負わされた三親等以内の親族の義務は、生活扶助義務であると解されています。前者は自己と同程度の生活をを保障する義務で、後者は自己の社会的身分にふさわしい生活をしてなお余力がある限りにおいて義務があるとされています。なお、親権者でない親の扶養義務は生活保持義務(資力に応じて扶養料を負担)とするのが通説です。

 いずれにしても、生活保護に関しては、家族の機微に触れる微妙な問題を多く含み、内容が複雑でわかりにくく戸惑うことが多いため、その申請にはとても勇気がいります。また家族関係が希薄で、扶養義務の判断を、それぞれの立場で適切に行うことが難しいことも多いことから、市町村等の行政側も生活保護法第77条第1項の費用徴収を安易にすべきではないと考えられます。さらに、一部のマスコミが、特定の芸能人の、家族関係が希薄である直系尊属の方が生活保護を受けていることを揶揄して、面白おかしく報道することがありましたが、このようなことは、絶対にしないようにしていただきたいものです。

4 扶養控除、遺族給付等における家族の考え方

 所得税、住民税の扶養控除における扶養親族は、考え方が全く違います。まず、扶養親族は、民法第725条の親族(六親等内の血族及び三親等内の姻族、配偶者は別途配偶者控除)を借用し、これに「生計を一にすること」と「所得制限(合計所得38万円以下)」の制限を加え、扶養控除(配偶者控除)の対象とし、課税所得の計算上所得控除としています。なお、生計一親族のなかで複数の扶養者が被扶養者を扶養しているときは、一人の扶養者のみが当該被扶養者を扶養控除の対象とできます。(複数の扶養者の扶養控除対象被扶養者となることはできない。)

 健康保険法では、被扶養者の要件が、また違っています。まず、親族等関係の要件について、①主として被保険者(=扶養者)により生計を維持されている場合は、「曽祖父母、祖父母、父母、養親、配偶者(内縁関係を含む)、子、孫、兄弟姉妹」、②被保険者と同居し、かつ、主として被保険者により生計を維持されている場合は、「おじ、おば、甥、姪、配偶者の父母、内縁関係の配偶者の父母、継子、配偶者の弟、妹、子の配偶者、継父母」が対象となっており、「いとこ、兄弟姉妹の配偶者の父母、配偶者の兄、姉」は対象外となっています。次に、収入について、①被扶養者が被保険者と同一世帯にある場合は、被保険者の年収が130万円未満で、かつ被保険者の年収の半分未満であること、②被扶養者が被保険者と同一世帯にない場合は、被保険者の年収が130万円未満で、かつ被保険者からの仕送り(援助)額より少ないこと、が要件とされています。また、収入要件は、被扶養者が60歳以上の時は180万円未満とされています(月当たり108,334円、60歳以上15万円)。なお、国民健康保険、後期高齢者医療制度は、対象者全員が被保険者となるため、被扶養者の概念はありません。

 国民年金では、厚生年金保険の被保険者である第2号被保険者及び第2号被保険者の被扶養配偶者である第3号被保険者に該当しない者を第1号被保険者としています。なお、第3号被保険者には健康保険と同じ収入要件があります。第2号被保険者は、厚生年金保険料の中には基礎年金としての国民年金分の保険料が含まれているとして、別途国民年金保険料を負担する必要はありません。さらに、第3号被保険者は、2号被保険者の被扶養者として厚生年金保険料、国民年金保険料を全く負担しないこととなります。なお、厚生年金の保険料、健康保険法の健康保険の保険料は被保険者が50%負担し、残りの50%は被保険者を雇用する企業の負担となっています。

 遺族給付については、生計維持要件のほかにそれぞれ年齢要件、順位等がありますが、労働災害保険法の遺族補償給付は、「配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹」、国民年金の遺族基礎年金は「子のある配偶者及び子」、厚生年金の遺族厚生年金は、「配偶者、子、父母、孫又は祖父母」となっています。

 また、雇用保険の介護休業給付金の介護対象家族は、「配偶者(事実上婚姻関係と同様にある人を含む)、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹及び孫」です。

5 家族と代理

 幼い子供や認知症を患った方等、ひとりで日常生活を過ごすことが難しい状態のときに、代理という制度があります。民法第99条第1項は「代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生じる。」、第2項で「前項の規定は、第三者が代理人に対してした意思表示について準用する。」とし、第1項は「能動代理」第2項は「受動代理」と言われています。また、同法第100条で「代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示は、自己のためにしたものとみなす。ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知り、又は知ることができたときは、前条第1項の規定を準用する。」としています。いずれにしても代理人には「代理権」という権限が必要になります。

 代理権には、民法643条の委任契約等の本人の意思による「任意代理」と、親権及び未成年後見、精神上の障害により事理弁識能力に問題のある方の成年後見・保佐・補助等の法律規定による「法定代理」があります。前者の代理権の内容及び受任者は契約により自由に決定できますが、後者の代理権は法律に規定されたものに限られます。また、その選任については未成年後見は親権者が選任し、成年後見人・保佐人・補助人は裁判所が選任します。この中間的なものとして任意後見契約法による任意後見制度があります。任意後見では委任者(本人)が受任者(任意後見人)を任意に選任して、代理権の内容を「自己の生活、療養監護、財産の管理に関する事務の全部又は一部」とすることができます。

 家族の代理権の行使については、例えば、民法第824条の親権者の子の財産管理及び代表権、民法第761条の夫婦の日常家事債務の反対解釈による日常家事の代理権がありますが、行政上、実務上、慣行的に日常生活に関する代理行為は委任状なしに行われることが多く、また、住民票で同一世帯であることが確認されたときに認められる代理類似行為も多いかと思います。ただし、重要財産の取得、譲渡等、重要な法律行為については、代理権の授与なしに代理行為はできないと考えられます。したがって、家族を任意後見人に選任しておくことは、今後も重要なことだと思います。

6 新しい家族の作り方

 上記の家族の法律関係は、自然血族関係、婚姻による姻族関係を前提としていますが、健康保険や遺族給付金、損害賠償等の一部の取扱いでは、内縁による家族関係を取り込んではいますが、ほとんどの場合、特に相続の関係では、民法による親族関係(血族及び姻族)以外は認められてません。唯一の例外は、民法第792条の養子縁組と817条の2の特別養子縁組です。これにより、養子は養親及び養親の血族と法定血族関係が生じますので、上記の血族の家族関係と同じ権利義務を有することになります。なお、特別養子縁組は実方の血族との親族関係が終了することとされていますが、(普通)養子縁組は養方・実方両方の血族関係が存続します。

 昨今、性的マイナリティーの人権保護として、同性パートナーシップ証明制度を設ける地方公共団体が徐々に増え、同性内縁カップルの不貞による慰謝料請求において「実態があれば、内縁関係に準じた保護を受けられる。」とする地方裁判所の判決もあり、家族の多様性が問題となっています。

 しかし、一夫一婦制を前提とした憲法第24条をふまえて、民法その他の家族関係に関する法律が制定されているため、家族の多様性を認めるということは、一夫多妻制や一妻多夫制等の前近代的な家族関係の復活を認めるのか(もっとも、世界には一夫多妻制の家族関係や母系社会の民族を認める国家は複数あります)という問題も絡んできますので、簡単な議論ではありません。

 もっとも、日本国憲法は、父系家族を前提として作られたものではなく、次に説明する戸籍法も、その筆頭者を必ず夫とする必要はなく、妻の姓を称し、妻を戸籍の筆頭者とすることもできます(その意味での、母系家族の創出も可能です。)。そして相続の権利も、子は男・女、生年月日の順、実子・養子により差別されることなく、すべて平等の権利を有しています(後述する非嫡出子の相続分差別の違憲判決参照)。さらに、性同一性障害特例法(事実上生殖能力喪失手術(性別適合手術)を受けることが要件となりますが。2019.1.24最高裁決定参照)の性別変更審判により、戸籍法第20条の4による性別変更後の新戸籍を編纂することは可能です。(ただし性別変更を伴わない同性婚は、事実上難しいようです。もっとも性別変更のために、性適合手術は強制することは、個人の尊厳を冒すもので、憲法13条に反するだけでなく、性適合手術が意に反する苦役に該当することになれば同18条にも違反することになりかねません。令和5年10月25日最高裁判決でこの規定は違憲とされました。

 したがって、新しい家族のあり方を既存の法律の枠組みの中で、どのように利用して、その法的効果を得るか、という観点も必要なのではないかと思います。

 例えば、①お互いに任意後見契約を締結して、代理権をそれぞれ取得する。②贈与、遺贈(遺言書の作成)を利用して財産を承継する。③養子縁組を利用して法定血族関係を作る。等が、極めて有効な手段になると考えられます。

 ただし、養子縁組をした場合は、民法第736条により養子縁組解消後も婚姻が禁止されていますので、今後同性婚が認められたとしても、婚姻することはできません。

7 戸籍と住民票

 上記1において、出生によって人権が発生すると述べましたが、生存権等の一部の人権には「国民は」の要件があります。請願に関する憲法第16条、国に対する損害賠償に関する同法17条、奴隷的拘束・苦役からの自由に関する同第18条、居住移転・職業選択の自由に関する同法第22条のほか、同第31条以下の法定手続の保障関係の憲法の規定は「何人も」とされ、思想・信条・表現・学問の自由や家族生活、労働基本権、財産権に関する規定には、「何人も」も「国民は」の規定がありません。

 ところが、憲法第11条、12条、13条の人基本的権に関する規定、同法第14条の法の下の平等、同法第15条の選挙権、同法第25条の生存権、同法第26条の教育を受ける権利、同法第27条の勤労の権利には「国民は」の要件があります(もっとも、生活保護法の適用は日本国籍を有する者に限るとの最高裁判例にかかわらず、「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について」昭和29年5月8日社発第382号社会局長通知を根拠に、生活保護を外国人に適用している事例が多くあります。)。

 そして、憲法第10条で国民たる要件は法律(=国籍法)でこれを定めるとしています。さらに、日本国籍のある国民の名簿として「戸籍」があります(法務省ホームページによれば、「戸籍は、人の出生から死亡に至るまでの親族関係を登録公証するもので、日本国民について編成され、日本国籍をも公証する唯一の制度です。」としています。)。

 戸籍法第6条は「戸籍は、市町村の区域内に本籍を定める一の夫婦及びこれと氏を同じくする子ごとに、これを編製する。ただし日本人でない者(以下「外国人」という。)と婚姻した者又は配偶者がない者について新たに戸籍を編製するときは、その者及びこれと氏を同じくする子ごとに、これを編製する。」とし、婚姻による新戸籍の編製(同16条)、子ができたことによる新戸籍の編製(同17条)、父母の氏を称する子は、父母の戸籍に入る(同18条1項)、養子は、養親の戸籍に入る(同上2項)としています。つまり戸籍法上の家族は、親子を単位としていることになります。また、同法第13条の記載事項では、戸籍に入った原因及び年月日(3号)、実父母の氏名及び続柄(4号)、養親の氏名及び続柄(5号)、他の戸籍から入った者のその戸籍の表示(7号)の記載のほか、戸籍法施行規則第30条以下の戸籍の記載事項に諸規定により、入籍、転籍及び除籍の事由が記載されることにより、戸籍(親子)間の連続性を確保しています。この戸籍の連続性より親族関係や相続の関係を把握することができるようになります。

 戸籍は上記のように、日本国籍を有する日本人だけを対象とし、本籍が固定されているので、実際に国内に居住する住民(外国人を含む)の行政上の管理の必要性から、住民基本台帳法による住民票の制度があります。

 同法第6条第1項では「市町村長は、個人を単位とする住民票を世帯ごとに編成して、住民基本台帳を作成しなければならない。」とし、同法第7条では住民票の記載事項として、1号氏名、2号生年月日、3号性別、4号世帯主、世帯主でない者(世帯主の氏名及び世帯主との続柄)の別、5号戸籍の表示(無い者はその旨)、6号住民となった年月日、7号住所、8号前住所等、8号の2個人番号、9号選挙人名簿関係、10号国民健康保険関係、10の2号後期高齢者医療関係、10の3号介護保険関係、11号国民年金関係、11の2号児童手当関係・・等々が掲げられています。

 さらに、同法第16条以下に本籍地の「戸籍の附表」の制度(戸籍の表示、氏名、住所、住所を定めた年月日を記載)を設け、住所地の市町村長は、住民票の変更等のがあったときは、本籍地市町村長にその内容を通知し、また、本籍地での戸籍の内容に変更があったときは、本籍地の市町村長は住所地の市町村長にその内容を通知することとされています。したがって、戸籍と住民基本台帳は連動しているといえます。

 ところで、ここでいう「世帯」・「世帯主」については法律上の定義はなく、厚労省で「世帯とは、住居及び生計を共にする者の集まり又は独立して住居を維持し、若しくは独立して生計を営む単身者をいう。」、「世帯主とは、年齢や所得にかかわらず、世帯の中心となって物事をとりはかる者として世帯側から報告された者をいう。」と定義されているようです。よって、同一世帯に所属する世帯員は、必ずしも親族である必要はありません。例えば同棲カップル(婚姻届けを出していない)を世帯とすることも可能です。

 したがって、戸籍制度と住民基本台帳制度は、似て非なるものといえます。また、住民票の住所は、「人の生活の本拠」たる民法上の住所とは直結しないことになります。

 ただし、上記の住民基本台帳法第7条9号以下の社会保険等の住所は住民票によることとなり、住民税の住所も同様の取り扱いが基本となっています。また、国民健康保険の保険料(税)は、世帯主(国民健康保険の被保険者でなくても)が納付(税)義務者となります。さらに、国民年金では、世帯主が世帯員の保険料を連帯して納付する義務がありす。

 なお、住民基本台帳法第30条の45以下(第4章の3「外国人住民に関する特例」)で日本の国籍を有しない者のうち入管法の適用を受ける外国人住民(中長期滞在者、特別永住者、一時庇護許可者及び出生による経過滞在者)の住民票の記載事項等の特例が規定されています。これにより、外国人と日本人の同一世帯の住民票も可能となっています。

8 民法第772条以下の嫡出子制度と戸籍制度の問題点について

 上記の通り、住民基本台帳制度と戸籍制度では、家族の概念が違います。前者では、親族関係の有無や国籍にかかわらず住居及び生計を一にする人々を「世帯」という家族の概念で流動的に把握し、市町村という行政単位における「住民」の移動に対応した各種行政・政策や各種法律行為等による権利義務の発生・消滅に対し柔軟に対応できますが、後者では、親子を一つの単位とする戸籍の連続性による親族を家族の概念として固定的に把握することにより、日本の国籍のある日本国民を特定し、親族関係に係る扶養・相続といった固定的な法的効果を生じさせるものであると考えられます。

 昨今の民法改正の要因となった、平成25年9月4日の最高裁の婚外子の相続分差別違憲決定は、相続関係の法律概念を大きく覆す法律改正を導きましたが、婚外子の相続分差別の原因たる民法第772条以下の嫡出子制度の根本的な問題点の解決とはなっていません。

 また、様々な事情により、同条の嫡出推定を避けるために、出生届の提出をしないことにより生じた「無戸籍」・「無国籍」の問題等々、嫡出子と非嫡出子を区分し、差別につながる制度を維持する必要があるか、さらに、戸籍謄抄本という公文書で、嫡出か否か、認知、準正による子といった、その後の差別につながるような文言を公証することを、なぜ維持し続けるのか極めて疑問です。

 問題は、戸籍制度の根幹たる親子関係の認定を、どのように法律的に確保するかです。母親は、自然分娩により親子関係が認定できるとして、民法上特に規定はありません(民法第779条の「認知」の規定は、嫡出子の身分を取得する制度で、親子関係を認定するものではありません。)が、父親の親子関係の認定については、自然分娩では判定が難しい(DNA判定でも100%ではない。)ことから、民法第772条以下で父子の親子関係を法的に推定し、嫡出否認の訴えの出訴期間(夫がこの出生を知ってから1年間)の経過、同法第779条の「認知」と第785条の「認知の取消しの禁止」により法的に認定されたことになります。なお、昭和52年2月14日の最高裁判例では、婚外子である非嫡出子(推定の及ばない子)とその実父に自然的血液関係があっても、その父による任意の認知届の提出(若しくは認知の訴えによる認知の判決)がなければ、法律上の親子関係は創設されないと解されています。また、人事訴訟法第2条2号のいわゆる「親子関係存否確認の訴え」により、上記の親子の認定を覆すことは可能ですが、平成18年7月7日の最高裁判例では、血縁面で実親子関係のない者の間で実親子としての社会生活上の関係が長期にわたり形成されてきた場合には、この関係が否定されることによる関係者の精神的苦痛、経済的不利益、訴訟提起の動機その他諸事情を考慮して、実親子関係の確認請求が権利濫用と解される余地がある、としています。

 さらに、近年では、体外受精による代理懐胎による出産について、自然分娩の理にこだわったと思われる平成19年3月23日の最高裁決定では、代理出産を依頼した妻を母とすることを否定するとともに、当該夫婦の嫡出子とすることも否定し、代理で出産した女性の母子関係を認めることと解されています。また、無精子症の夫の同意のもと、第三者の精子と妻の卵子を体外受精し、妻が出産した場合においては、当該夫婦と子の関係は、嫡出親子関係になると解されています。

  また、遺棄等による母親不明児や、いわゆる内密出産による母親不明児等による特別養子縁組をどのように考えるか等の問題もあります。

 このように、自然血縁関係を戸籍の連続性で維持するという意味での、戸籍制度の目的は、すでに破綻しており、この根幹をなす嫡出子制度は、社会的にも法律的にも、無用な混乱を引き起こすだけのものとなっていると思われます。

 ただし、戸籍制度の維持は、上述のように、日本国民の国籍の証明、扶養・相続等の法的関係の確定等において不可欠な制度であり、嫡出子制度の破綻により廃止すべきものではありません。

 むしろ、親子関係を認知制度で統一(「認知」が「認知症」を連想するので適切でないなら、「親子関係の認定」と言い換えてもよいかと思います。)し、子の出生と同時に、親が子を認知することにより親子関係が生じ、子が親の戸籍に入籍する、若しくは新たな戸籍を編成する方式にすることも可能だと思います。この場合、親は父母関係なく、自然分娩による母も、法的に親子関係を創設するには、認知が必要となります。そして、出生届の提出に、認知の効果を及ぼすことができれば、親子関係のトラブルも防止できると思われます。またこれにより、女性のみに課せられた民法第733条の「再婚禁止期間」の必要性もなくなります。

 なお、再婚禁止期間を100日とすること、妻の子の嫡出否認権を認めることなどが検討されていますが、これらの議論は嫡出子制度を維持のために難しい問題を提起することになります。しかしながら、嫡出子制度をなくせばその無駄な議論は不要となります。どのように親子関係を形成し、子供に極めて不利になる不都合な親子関係が形成されるときは、子の側からの親子関係の否認の権利を認めれば、解決できる問題となります。(父親、母親は自分の確定意思で子供を認知する届を提出することととなると考えられます。禁反言の原則からも、父親、母親に否認権を認める必要はないと思います。)

 法務省法制審議会民法(親子法制)部会の議論では、「民法第772条第1項は『妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する』と規定している。同項の推定の根拠に関しては様々な理解があるが、基本的には、婚姻中の夫婦は同居義務及び貞操義務をを負っていることから、妻が婚姻中に懐胎した子は夫の生物学上の子である蓋然性が高く、また、事後的に否認されない限り、夫婦の子として養育することが相当であることを根拠とするものと考えられ、現代においても合理性を持つものと考えられる。」とし、ただただ無益な嫡出子制度の存続にこだわっているようですが、嫡出子制度の有する前時代的な根本的な問題の解決には程遠い議論がなされて続けているのが、極めて残念です。そもそも、夫婦の同居義務・貞操義務を根拠にしていること自体が、新しい家族形態を理解したうえでの議論なのか疑問です。夫婦の同居義務は履行を強制することはできないし、別居で夫婦関係を継続(単身赴任、夫婦のそれぞれの職業、考え方、趣味・志向等の諸事情で)しているカップルは、極めて多数あります。また、貞操義務は民法で義務とされていることはなく、民法第770条第1項第一号で「配偶者に不貞な行為があったとき。」が離婚原因になると規定されているだけです。自然血縁関係による旧態依然とした家族関係に縛られずにもっと柔軟な考え方を持ってもらいたいものです。

 また、上記部会では、戸籍法第6条の一夫婦一戸籍と親子同一戸籍の規定の妥当性の検討がなく、ただ漫然と民法第772条の検討をしています。

 戸籍の必要性については、上記で述べたとおり、日本国民の身分登録(国籍)と親族間の相互扶養・扶助及び相続関係の確定のために不可欠な制度ですが、一夫婦同一戸籍・親子同一戸籍である必要性はなく、戸籍は個人ごとに作成し、戸籍法第13条の戸籍の記載事項に、実親等(「父母」とするより「親」としたほうが適切かと思います。)の関係事項(養子縁組も含む)を記載するとともに、子の氏名、生年月日、記載する原因(養子縁組も含めて)等、並びに配偶者の氏名、婚姻日、離婚日等を記載事項に加えることより、戸籍の連続性が確保できます。また、これにより戸籍法第14条から第22条までは不要となります。

 したがって、戸籍法第6条を改正すれば、民法第772条の規定の必然性はなくなります。

9 マイナンバーによる個人単位の戸籍の編纂と個人情報の保護の問題点

 コロナウィルス禍の特別定額給付金がスムーズにできなかったことから、マイナンバーに個人の銀行口座を付すことが検討され、マイナンバーカードとキャッシュレス決済においてマイナポイントを給付して、マイナンバーカードの普及を図る政策が着々と進んでいます。

 ところが、電子決済サービスのドコモ口座による詐欺が多発し、マイナンバーとキャッシュレス決済による金融機関の情報等の流出の危険性が全くゼロになることはあり得ないを思われます。

 したがって、電子情報としての個人番号を金融決済へ提供するシステムを構築することは、不特定多数にアットランダムに番号を入力しヒットした番号等に係る当該個人情報の不正流出=取得につながりかねないので、極めて危険な個人情報の管理システムとなるのではないかと思われます。(完全な電子情報のセキュリティーはあり得ないことを肝に銘ずべきです。また、今更ですが、郵政民営化前の郵便貯金制度があれば、これを活用したマイナンバーによる金融決済制度を作ることが可能だった?

 マイナンバー(個人を識別する番号)は、住民基本台帳法の住民票コードを変換して生成される番号で、原則として生涯同じ番号となりますが、番号が漏洩して不正使用される恐れがあるときは本人の申請又は市町村長の職権で変更できることになっています。

 マイナンバーを管理する地方公共団体情報システム機構には、都道府県知事から通知を受けた住民票に記載されている氏名、出生の年月日、男女の別、住所、個人番号(マイナンバー)及び住民票コードが本人確認情報として記録されていますが、これら以外の住民票に記載されている個人情報は住民票コードによる権限のある者のみが当該個人情報を取得することができます。つまりマイナンバーからは、この5項目を除く、住民票記載事項を直接取得することはできないことになっています。

 戸籍は、上記7の通り本籍地において夫婦、親子単位で作成され、各人の住民票に戸籍が表示(記載)され、戸籍の付表には各人の戸籍の表示、氏名、住所、住所を定めた日(出生年月日、男女の別は後日施行)が記載事項とされています。これにより各人の過去の住所の移転の状況が把握できることになります(各種の居住要件の証明)。

 戸籍情報は、戸籍法8条2項では、正本は市町村、副本は法務局で保管することとされていますが、電子情報処理組織による戸籍の副本は、同法119条の2で法務大臣が保管するものとされています。

 戸籍を個人単位で電子情報処理組織で編纂した場合には、個人情報の漏洩を防ぐために、マイナンバー、住民票コードとは別個に、「戸籍番号」(もしくは「戸籍コード」)を設定することが必要だと思います。この戸籍番号も生涯変わらないものとなります。これにより、個人情報に関する番号制度が3種類あることなりますが、本人確認情報はマイナンバーに統一され、保護すべき個人情報は、権限のある者のみが取得できることから、個人情報流出のリスクが大幅に減ることになります。戸籍情報にはマイナンバーと住民票コードが記載事項となり、住民票にはマイナンバーと戸籍番号が記載事項となりますが、マイナンバーには住民票コードのみを記載事項とし、戸籍番号を記載事項としないことが必要と考えます。なぜなら、社会保険関係等の住民票の情報等と同様に、マイナンバーから直接情報の取得ができないようにすることにより、権限のない者への戸籍の個人情報の流出が防げることとなるからです。

 次に、戸籍に「本籍」という概念が必要か検討する必要があります。本籍は現住所とは無関係に国内ならどこでもよく、転籍も自由です。現行の夫婦親子等の最小家族単位で戸籍を編纂する場合、その家族を表示する場所としての本籍地の表示は、他者と区別するためには必要とは考えられますが、例えば東京都千代田区千代田1番を本籍地とする人は2,000人をこえるなど、同姓同名がある場合は区別の意味がないことになります。本籍は歴史的には家制度を前提にした旧戸籍法による戸籍制度を最小単位の家族として引き継いだもので、使い方によっては差別や偏見の対象になる原因を作っているものなので、このような前時代的なものは不要で無くしたほうが良いと考えられます。

 ただし、現状では、本籍地のある市町村が戸籍の編纂等の事務を担当していることから、現行の戸籍の最小家族単位の制度維持の維持のためには必要なものとなるとは思います。

 しかし、戸籍を個人単位で編纂する戸籍番号の制度では、他者との区別(個人の特定)のための本籍地の概念は不要となります。そして、その運用に関しては、戸籍及び戸籍の付表の設定変更は、住民票に関する事務に連動していることから、市町村が担当し、戸籍情報の管理は、法務省の電子計算処理システムを利用すればよいことになります。

 そして、これらが新たなデジタル庁の下に一括管理する法制度を作ればよいのではないかと考えます。

 また、戸籍を個人単位で編纂すれば、夫婦同姓の必然性はなくなりますので、夫婦別姓は任意の選択となると考えられます。

10 同性婚違憲判決と自助・共助・公助

 コロナ禍の真っ最中に、安倍首相の体調不良から政権を引き継いだ菅新首相は、その就任にあたって、不妊治療を幅広く健康保険の給付対象にすること、自助・共助・公助を強調しています。そんな中、同性間の婚姻を認める規定を設けてない民法及び戸籍法の婚姻に関する規定は、憲法14条1項の「法の下の平等」に違反するという衝撃的な判決が、札幌地裁で下されました。くしくも女性判事が、パンドラの箱を開けてしまったのではないかと思います。

 もっとも、本判決では民法及び戸籍法の規定が憲法24条1項及び2項並びに憲法13条には違反しないとしていることから、パンドラの箱が全部開いたわけではありませんが、憲法24条1項の「結婚は、『両性』の合意のみに基づいて成立し」の規定の『両性』という文言が、時代遅れになってしまい、自衛隊に関する憲法9条と同様に憲法改正にかかわる重大な問題点が浮き彫りになっているにもかかわらず、安易に憲法14条1項の法の下の平等の規定による差別的取り扱いの禁止に解決策を求めた判決であるといえます。ましてや、民法には婚姻の当事者が異性であることは要件とはされていません。ただ、民法739条でその効力発生が戸籍法の届け出となっているだけです。戸籍法については上記7の項目で述べた通りです。上記9のように戸籍を夫婦親子単位でなく個人単位で編纂すれば、婚姻の当事者が異性であることの根拠は、憲法24条第1項の「両性の合意」及び「夫婦」のみとなります。(もっとも、民法750条以下の「婚姻の効力」、「夫婦財産制」、「離婚」に関する規定では、「配偶者」ではなく「夫婦」と表現されている規定があることから、婚姻が男女間であることを前提としていることは認められます。ゆえに、憲法24条1項の「両性」を「当事者」に、「夫婦」を「配偶者」に改正し、民法等の関係法令の「夫婦」を「配偶者」に改正する必要はあるといえます。)

 この判決は、家族と私有財産というもう一つのパンドラの箱を開けることとなります。菅首相の言う自助・共助・公助は、憲法を形成する国家、その認める家族制度、その認める私有財産制度の在り方(法律制度)と切っても切り離せないものです。

 本稿でも、上記6の新しい家族の作り方で取り上げていますが、同性婚を認めるか否かは婚姻制度そのものの在り方の問題です。周知のとおり、婚姻制度は各国で一夫一婦制だけでなく、一夫多妻制が認められ、一妻多夫性も事実婚として存在しています。さらに、バイセクシャルによる多夫多妻の事実婚も存在しうると考えられます。そして、日本の刑法では、その184条に一夫一婦制を前提とした重婚罪があり、相手方を含めて2年以下の懲役という厳しい懲罰が課されています。

 また、演歌でよく取り上げられる題材の「許されぬ恋、悲恋」である、今はなくなった妾婚が事実上の重婚たる事実婚(内縁関係)として存在していること。これは上述の嫡出子制度と切っても切り離せないものです。その議論の中には「善良な風俗・社会通念」というキーワード(敢えて「概念」という言葉は使いません)による善悪判断が含まざるを得ません。

 さらにこの問題では、民法による婚姻禁止規定、特に732条の重婚禁止規定により、事実婚とならざるを得ないカップルも、同性婚のカップルと同様に民法及び戸籍法規定による憲法14条1項に反するという結論を導かなければならないと思います。当然、刑法184条の重婚罪も憲法14条1項に反し違憲だという結論になるはずです。何らかの理由で、法律上の妻と別居し、同居している事実婚の妻が、死に水をとるまで長年にわたり夫の面倒を見ているにもかかわらず、相続による夫の財産の取得権が何もなく、他方、実体のない法律婚の妻には、相続権(他に相続人がいなければ全部、子がいれば二分の一、子がなく直系尊属ならば三分の二、子と直系尊属がなく兄弟姉妹なら四分の三)があるという矛盾は、先の相続法の改正においても、特別の寄与の対象者が一定範囲の親族に限ったこと、鳴り物入りの配偶者居住権も法律上の配偶者に限られることなど、この改正自体が事実婚にとどまらざるを得ない事実上の重婚状態の配偶者に対する憲法14条1項の平等原則に反する不当な差別であることすら検討されていないことにも、真剣に向き合い、取り上げるべきです。

 さらに言うなら、イスラム教では男性は最大4人の妻を持つことができ、これらの妻を平等に保護し扶助する義務があるとされています。イスラム教徒の日本国籍を持つ者に対して、この一夫多妻婚を認めないことは憲法14条1項に違反しているどころか、日本国憲法の根幹たる第19条の思想信条の自由及び第20条の信教の自由をも侵す重大な憲法違反ということになります。

 結局、この問題は、自助・共助・公助の最小単位の共同体である家族制度を、国家・個々の国民全員がどのように考えるかということに帰結します。そして上記2,3で述べた家族間の相互扶養・扶助、財産の承継をどのように構成するかという問題そのものです。

11 性別変更により女性となった人の凍結精子により人工授精した同性カップルの相手方の子

 最近、女性カップルの元男性の凍結精子を使った子の元男性側の認知が認められなかったことに関する訴訟が提起され話題になりましたが、令和4年2月28日の東京家裁判決では原告敗訴、認知は認められませんでした。上記9で述べた通り、戸籍を夫婦・親子単位でなく、個人別に編纂すればこのような問題は起きませんが、現行法でも養子縁組を使えば同性カップルのどちらとも親子関係を形成できます。しかし、現在法務省法制審議会民法(親子法制)部会で親族法の改正の中間試案が発表され、そのパブリックコメントが求められている中で、このような問題提起は非常に重要だと思います。そして、戸籍法の問題点をほとんど検討することなく中間試案を作成した親子法制部会の審議会のメンバーの見識が問われているのではないかと思います。

12 夫婦別姓違憲訴訟最高裁が大法廷判決へ

 夫婦別姓の婚姻届けを民法第750条と戸籍法第6条等の夫婦同姓に関する規定を理由に受理しないのは、憲法第24条に違反するとの憲法訴訟が平成15年の最高裁合憲判決にもかかわらず、大法廷に移されたことは判例変更の可能性がありましたが、夫婦別姓を認めない民法、戸籍法は憲法第24条の婚姻の自由に反し憲法違反であることは認められませんでした。本稿ですでにたびたび述べているように、戸籍を個人単位で編纂しマイナンバー等で個人単位の戸籍番号を関連付ければ、夫婦の氏を同姓を必要とする家族単位の戸籍の編纂は必要がありません。判例変更による違憲判決が望まれました。とても、残念な結果です。

 また、親子法制の問題は、早急に改正が必要な子の監護関係の問題に絞り、嫡出子等の問題は家族法制全体を見直し、夫婦、扶養義務等も含めた家族法全体を見直す中で真剣に検討すべきで、結論を急ぐべきではありません。拙速な改正では意味がなく、かえって弊害ばかり残します。

13 上記10で取り上げた同性婚違憲訴訟で、今日東京地裁で、民法、戸籍法等が、憲法第24条第2項の「個人の尊厳」という文言にてらして、違憲状態という内容を含む判決がなされました。しかし、同条2項は同条1項の「両性の合意」を前提としているので、夫婦別姓については当然に違憲状態ではありますが、同性婚はいかがなものでしょうか?むしろ憲法第13条の「個人の尊重」、「幸福追求権」を侵すので違憲状態とするならわかります。憲法第24条第1項が憲法13条に反して違憲だという論法になるはずです。憲法24条2項では「個人の尊厳」と「両性の本質的平等」が並列して記載されていることが矛盾していることになります。いずれにしても、憲法改正を真剣に議論すべき問題です。まあ、裁判官としては、判決文に「憲法改正が必要だ」ということは記載できないでしょうから・・・・・・?

14 公明党の北側副代表が、「憲法24条は、同性婚を排除しているわけではない。」として、そろそろ同性婚を検討してもいいのではないかという旨の発言をしていますが、最近の同性婚の推進派の憲法学者諸先生方、弁護士の先生方に同調している状況になっています。

 確かに、同性婚の法制化については、憲法問題とはせずに、国会で法制化してしまえば、各法制局での法律の審査は憲法審査ではないので、否定すべき特段の事由がなければ、そのまま法律案として成立するのではないかと思います。党派を超えた議員団を結成して、党派を超えた国会での決議は可能だと思います。

 あとは、個々の国会議員がどう考えるかの問題です。(個々の国会議員の見識として、同性婚問題で国際的に孤立し、文化的にも習俗的にも時代遅れという認識をされることを避ける考え方も必要なのではないでしょうか?ただ、憲法問題を避けるという意味では自衛隊と憲法9条の問題も同じだといわれるかもしれませんが?)

 

配偶者居住権の課税関係

 2020年4月には改正民法の大部分が施行されます。債権法等の分野では、通説とされた特定物ドグマ等の我妻理論から解放された結果、担保責任が契約不適合責任に集約されたこと、消滅時効が主観的な場合5年(人の生命身体の損害賠償10年)、客観的な場合10年(人の生命身体の損害賠償20年)等に集約されたこと、錯誤無効が取消権となったこと、連帯債務における履行の請求や免除・消滅時効完成の効果が絶対的効果から相対的効果へと変更されたこと(一人だけ免除・時効完成しても、全部弁済した他の連帯債務者から求償されることとなった)等のドラスティックな改正が行われ、さらに、判例理論の条文への法文化のための改正が総則、債権の分野でなされます。また相続法の分野では、自筆証書遺言の様式の緩和、遺言執行者の権限の強化等の遺言関係の条文改正、遺留分の物権的効果から債券的効果説への解釈変更(遺留分減殺請求から遺留分侵害請求権へ変更)による条文改正、特別縁故者のうち労務の提供等により特別に寄与した(相続人以外の)親族を特別寄与者とする特別寄与分(金銭による請求権)の創設及び配偶者居住権並びに配偶者短期居住権の創設が順次施行されることとなっています。

 これらのうち今回は、配偶者居住権の課税関係の考え方について検討してみたいと思います。

 配偶者居住権とは、被相続人の所有の建物(及びその敷地)に相続開始時に居住していた配偶者が、その居住建物を無償で使用・収益する権利で、遺贈、遺産分割及び審判で建物等の相続人に対して配偶者が有する権利です。

 権利の性質としては、賃借権類似(登記が義務付けられている)のものであることから、配偶者居住権は、建物使用権及び敷地利用権として財産的評価をされ、配偶者の平均余命によってそれぞれ数値化され、財産権として相続財産に加えられたことになり、その反射的効果として、当該居住用建物等を取得した相続人の土地建物の相続税評価額から配偶者居住権の評価額が減額されることになります。(配偶者居住権の存続する期間は所有者が使用収益できないことから評価減される。)

 配偶者居住権は、物件ではなく債権(使用・収益権)であることから、相続の形態としては、従来の代償分割に類似していると考えられます。代償分割とは、複数の相続人にうちの一人に相続財産の全部(もしくは一部)を相続させ、他の相続人が相続分に応じた債権を、相続財産を取得した相続人に対して取得させる形態の遺産分割で、相当の猶予期間のある金銭債権を相続分として取得させるものです。

 但し、配偶者居住権は譲渡が禁止され、所有者の承諾なく第三者に使用収益させることができず、用法違反等があったときは所有者から消滅権の行使ができること、配偶者が死亡したときは消滅すること等で、通常の代償分割とは相違するところがあります(なお、法務省ホームページの「残された配偶者の居住権を保護するための方策が新設されます。」Q&AのQ8では、配偶者居住権の対象となっている「建物を賃貸住宅として第三者に賃貸しようとする場合には、あなたは建物の所有者の承諾を得なければなりません」とされ、Q9では、「あなたは、建物の所有者の承諾を得れば、第三者に居住建物の使用又は収益をさせるっことができますので、例えば、使用しなくなった建物を第三者に賃貸することで、賃料収入を得て、介護施設に入るための資金を確保することもできます。」されています。よって、配偶者居住権の配偶者の居住は、設定の際の要件とはなりますが、その存続のための要件ではないということになります。)

 従って、平均余命より前に配偶者居住権が消滅したときに、未経過年数分の配偶者居住権の残存価額がどのように評価され、その反射的効果として所有者の建物等の財産評価額が増加するとした場合の課税関係が問題となります。

 上記のように配偶者居住権の消滅は、死亡による消滅と所有者の消滅権行使による消滅のほか、居住建物の全部滅失等による消滅、配偶者居住権に期間の定めがあるときにはその期間の満了により消滅、の4形態があります。

 まず、期間満了及びほぼ平均余命での死亡による配偶者居住権の消滅について検討します。

 この場合、所有者は配偶者居住権のある期間の使用収益ができないので、その分の帰属所得(インピューテッドインカム)が得られないことになります。そして、この所有者が帰属所得を得られなかった期間の評価額が配偶者居住権の評価額そのものですので、その期間の帰属所得分が期間の経過により居住建物及びその敷地の評価額に転化されるものと考えられます。さらに、現行の日本の税法では帰属所得は所得と認識されないので、所得税は課税されず、居住用建物及びその敷地は期間の経過により順次配偶者居住権の評価額の転化により増加し、最終的に相続時の評価額に戻ることから、配偶者居住権の消滅による課税関係は生じないものと考えられます。当然価値の無償移転はありませんので贈与の関係は生じません。

 次に、平均余命前又は期間満了前に死亡により配偶者居住権が消滅した場合はどうでしょうか。

 この場合、未経過分の帰属所得としての配偶者居住権の評価額が居住建物及びその敷地に転化し、相続時の評価額に戻ると考えられますので、増加した評価額を経済的利益として認識することができます。しかし、二次相続として評価すべき配偶者居住権は配偶者の死亡により消滅しているので、相続財産を構成することはありません。また、贈与による経済的利益の移転ではないので、贈与税の課税対象とはならないと考えられます。それではこの経済的利益の移転はどのように考えればいいのでしょうか。

 この経済的利益は、あくまで居住建物及びその敷地の使用収益による帰属所得であり、これを自己の居住の用に供せば、所得税法上の収入金額は認識されず、転貸して賃料収入を得れば 不動産所得の収入金額となり所得税の課税対象になります。

 思うに、配偶者居住権によって得られる経済的利益は、その存続期間の合計として評価された評価額が、一次相続の相続財産として相続税の課税対象となっており(もっとも相続税法の配偶者控除の適用で相続税の発生することはほとんどないと思われます)、居住建物及びその敷地は配偶者居住権の評価額を控除した評価額で相続税の課税対象となっていることから、この帰属所得としての経済的利益の消滅に基づく(転化による)居住建物及びその敷地の評価額の増加については、一時所得等の所得税法の収入すべき金額とは認識できないと考えられます。

 この考え方は、例えば貸家及び貸家建付地の相続税の評価の際に、その家屋及びその敷地の相続税評価額算定につき30%の評価減をしていますが、相続後に貸家の賃借人の退去(契約満了、用法違反による解除等)があった時にも生じる評価額の増加を、収入金額として課税していないことからも、妥当と考えられます。(貸家についても帰属所得の考え方は妥当していると思われます。)

 また、居住建物の滅失による配偶者居住権の消滅も、上記と同様に考えられます。

 それでは、所有者の消滅権の行使及び配偶者の返上により配偶者居住権が消滅した場合はどうでしょうか。

 上記のように、配偶者居住権は居住建物及びその敷地の使用収益権たる帰属所得として考えられ、一次相続の際その居住建物及びその敷地から控除されるものとして、別個に相続税の課税対象とされます。そして配偶者の二次相続のときには消滅して相続税の課税対象となることはありません。

 さらに使用収益権たる帰属所得としての配偶者居住権は、賃貸による収入金額として実現される場合には、所得税の不動産所得の課税対象となり、居住建物及びその敷地を譲渡したときには、その評価額の増加分は譲渡収入として実現され譲渡所得の課税対象となるものと考えられます。

 配偶者居住権は民法の規定により譲渡できないことから、譲渡所得の対象とはなりません。仮に配偶者居住権を有する者がその消滅に関して金銭を受け取ったときは、負担付贈与もしくは一時所得となる収入金額と考えられます(所得税法34条参照「一時所得とは、利子所得・・(各種所得)以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。」)。

 但し、所得税基本通達33−6の8は、「・・・配偶者居住権に基づき使用する権利の消滅につき対価の支払を受ける場合における当該対価の額は、(所得税法施行)令95条(・・・譲渡所得の起因となるべき資産の消滅・・・に伴い、その消滅につき一時に受ける補償金その他これに類するものの額は、譲渡所得に係る収入金額とする。)に該当することに留意する。」としています。またこれによる譲渡所得は、分離課税ではなく総合課税の所得とされるとのことです(所得税基本通達逐条解説参照)。しかしながら、たとえ所有者の承諾があっても民法上譲渡することができない配偶者居住権には、この消滅する資産としての性質が認められるのかは極めて疑問です。ちなみに借家権等の賃借権は賃貸人の同意・承諾があれば譲渡できるのでこの資産性は認められると考えられます。もし配偶者居住権を「譲渡所得の起因となるべき資産」とするなら、通達ではなく、施行令に「みなし規定」を入れる改正をすべきです。通達は民法の規定を破る特別法ではありません。

 従って、配偶者居住権消滅による経済的利益の所有者への移転は、帰属所得の未実現利益の移転にすぎず(いわゆるキャピタルゲインも認識できない)、所得税の課税対象となる収入金額は認識できないものと考えられます。

 なお、令和元年7月2日の相続税法基本通達の改正により、相続税法基本通達9-13の2(配偶者居住権が合意等により消滅した場合)が新設され、配偶者居住権の合意解除、放棄並びに建物所有者の消滅請求により配偶者居住権が消滅したときはは、残存する配偶者居住権の価額の贈与があったものとして取り扱われることになりました。しかしながら、その注書きで、期間満了、死亡、建物の全部滅失による消滅は贈与とはしないこととされました。なお、配偶者にとって配偶者居住権が不要となった場合には、所有者の同意を得て賃貸する(不動産所得が生じる。)方法がまず考えられますが、所有者に配偶者居住権を放棄する代わりに対価を求めることが可能であることを前提として、本通達は新設されたものと考えられます。ただし、この場合に対価を支払わないで、贈与を認定されたときは、その取得価額は贈与の引継価額とされますので(贈与で認定された経済的利益の価額を取得価額に加算できない。)、極めて不利となります。

 また、改正された相続税法第23条の2により、配偶者居住権の価額の算出方法が規定されました。

 建物については、耐用年数通達を1.5倍した建物の耐用年数から築年数を差し引いた残存耐用年数と、生存配偶者の平均余命等の配偶者居住権の存続年数の比率によって、建物の時価を按分し、これに、配偶者居住権の存続年数による、法定利率3%の複利現価率を乗じて算出した価額(=建物所有者の算出された時価?)を、建物の時価から差し引いた価額が配偶者居住権の価額となります。建物所有者の取得する価額は、建物価額から配偶者居住権の価額を差し引いた残額とされます。この結果、建物の「時価」と「価額」に乖離がある場合、注意を要します。

 敷地については、建物で使用した複利現価率をその敷地の時価に乗じた価額(=敷地所有者の算出された時価?)を、敷地の時価から差し引いた価額が配偶者居住権の価額となります。敷地所有者の取得する価額は、敷地の価額から配偶者居住権の価額を差し引いた残額とされます。建物と同様に「時価」と「価額」に乖離があるときは注意を要します。

 この結果、配偶者居住権の発生する居住建物及びその敷地を有する被相続人は、一次相続の際、配偶者居住権を利用して、配偶者居住権評価減後の建物及びその敷地の所有権はご子息に遺贈もしくは遺産分割し、配偶者は配偶者居住権を取得し、相続税の配偶者控除により相続税を軽減することが可能となり、配偶者の二次相続の際はこの配偶者居住権が相続財産となることはなくなります。

 よって、配偶者居住権を利用することは、配偶者に当該土地建物を相続させて二次相続の際の相続税の課税対象となることと比べて、とても有利になることがわかります。

 ここでご注意いただきたいのは、配偶者居住権が相続税の課税対象ではなくなることではなく、あくまで配偶者の相続税額が、相続税法の配偶者控除の範囲内で減額されるということです。

 相続税の計算は、課税される相続財産(配偶者居住権を含む)を各相続人の法定相続分に分配し、各相続人に分配された課税相続財産額に応じて相続税の税率をかけて算出します。そして、各相続人の相続税を合計して、課税される相続財産に係る相続税額が算出されます。この相続税額に各相続人の具体的相続分の割合(遺産分割等により具体的に各人に帰属する相続財産の割合)を乗じて、各相続人の相続税額を再計算し、各相続人の相続税額を算出します。相続税法の配偶者控除は、配偶者のこの相続税額を対象とするものです。

 従って配偶者居住権に相続税が課税されることはないということではありません。配偶者以外の相続人は、配偶者居住権部分の税額について、その相続分に応じた部分を必ず負担することとなります。

 なお、配偶者居住権の敷地の居住用小規模宅地(80%の評価減)の適用については、居住が適用要件となっていることから、配偶者居住権の敷地利用権の割合に応じた面積のみが対象となります。残りの割合に応じた所有者の居住用小規模宅地の適用については、所有者の居住が適用要件となります。(租税特別措置法(相続税関係)通達69の4−1の2並びに国税庁資産税課情報17号令和2年7月7日及び同9号令和3年4月1日参照)

 次に、上記相続税法23条の2の配偶者居住権の評価について、問題点を検討したいと思います。

 配偶者居住権のある土地建物の所有者は、民法1034条1項により通常の必要経費を負担する必要がないことされ、2項では583条2項を準用するとされており、また、賃貸借の規定を準用しているのは605条の4、599条1項、2項、621条、597条1項、3項、600条、613条、616条の2だけで、賃貸人の通常の使用収益させる義務がないことから、固定資産税の負担義務(土地建物とも所有者は使用収益できなくなる。)、マンションの管理費・修繕積立金の負担は配偶者の負担となり、壁面塗装等の経年劣化等による修繕(必要な修繕)は配偶者がすることができるとされ、相当期間に配偶者が修繕しないときは所有者が修繕できるとされているので、通常の使用収益させる義務を所有者は負わないこととされています。

 したがって、配偶者居住権の評価について、これらの費用を所有者が負担しなくなることによる経済的利益を、どのように評価減するかについての規定が全く欠如しており、例えば、東京湾岸にある超高級マンションや都内の一等地にある住宅と、地方にある地価の低い地域の土地建物の通常の必要費等が全く考慮されていないため、極めて不公平な規定となっています(逆に言えば、タワマンを取得して配偶者居住権を使えば、かなりの相続税の節税効果が生じることになります。)。ゆえに、固定資産税、管理費、修繕積立金等の、帰属所得に関する家事費用の面についても考慮されるべきものと考えます。

 また、登録免許税については、土地、建物の所有権移転の相続登記は、固定資産税の評価額に、所有者、配偶者居住権者それぞれの相続税の評価額の割合で按分した金額で負担すべき(配偶者居住権の設定登記にかかる登録免許税は配偶者居住権者のみが負担する。)と考えられます。

 相続税基本通達9-13の2は、贈与税に関する相続税法第9条に関する通達ですが、譲渡できない権利であるところの配偶者居住権の移転については、経済的利益による所得税の収入金額は認識できないが、対価性のあるべき配偶者居住権の消滅によるその帰属所得の移転については贈与税の課税対象となる旨を規定したものと考えられ(法務省「残された配偶者の居住権を保護するための方策が新設されました」Q9参照)、同基本通達9-10(無利子の金銭貸与等)とあいまって、対価性のあるべき帰属所得の無償移転が贈与税の対象となる可能性があると解されることになります。(対価がある帰属所得の移転は、譲渡所得・一時所得等の所得税法の各種所得の収入金額となります。)

遺留分侵害額請求権と特別の寄与の課税上の問題点

 相続法の改正で、遺留分減殺請求権が遺留分侵害額請求権に改正され、新たに特別の寄与の制度が設けられました。これらはともに金銭債権(金銭の支払の請求)とされていますので、相続財産を構成する物件の物権的な帰属の請求(給付・分与)ではないことになります。

 まず前者の遺留分侵害請求権の問題点について検討します。

 遺留分とは、相続人の具体的に相続される相続財産の価額が法定相続分の二分の一(直系尊属のみが相続人のときは三分の一)を保全することができる権利で、被相続人が遺贈や生前贈与等をしたために、相続財産が減少し、具体的相続分が本来の相続財産に基づく遺留分を下回るときに、遺贈や生前贈与により本来の相続財産の一部を取得した者に対し、相続財産の給付(物もしくは金銭)を請求できる権利です。改正前の遺留分減殺請求権は、その権利の行使には物権的効果があるとされていましたが、改正後の遺留分侵害額請求権は、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求する権利として、その行使は債券的効果があるにすぎないこととされています。改正前の物権的効果説では、例えば事業承継に必要な相続財産が請求権者と共有(合有)とされ、事業承継等に問題が生じることがあることから、スムーズな事業承継を可能にするために、当該請求権を金銭の支払い請求権とし、これによる債務の支払については、裁判所は相当の期限を許与することができることとされました。

 この結果、この請求権の相手方の受贈者に金銭・預金等の当座資産がないときに、相続財産を構成する物(宝石、書画骨董品、分筆等による不動産の一部)で、当該債務の支払いに充てたときはどうなるでしょうか。特に受贈者に定期的な余剰収入がなく、金融機関から借り入れもできないときには債務の支払いを相続財産を第三者へ売却した売却収入を当該債務の支払いに充てるか、相続財産を構成する物件で支払いに充てる(いわゆる代物弁済に類似した方法)しかないことになりますが、売却に関する費用を鑑みると、後者のほうが有利となります。また、形見分けとして、特定の物や不動産が欲しいということもあります。

 同じような財産の分与に関する請求権に、離婚による財産分与請求権がありますが、夫婦の居住している夫が所有している自宅を、妻に財産分与として妻に所有権を移転した場合には、財産分与請求権を対価とする不動産の譲渡として認定される判例(最高裁昭和53年2月16日判決)があり、所得税基本通達33-1の4で財産分与のときの時価で譲渡したものとして取り扱われています。この取り扱いは妻に受贈者として高額の贈与税を負担させるよりは、夫に譲渡所得を認定して、少なくとも取得費・譲渡費用を経費として、さらに居住用の財産の譲渡の特例(3000万円控除)の適用を受けることができれば、負担する税金が少なくなり、妥当な結果となるとされています。

 しかし、民法の夫婦財産制から夫名義で取得した唯一の居住用の財産等は、夫婦の相互扶助により形成した財産と認められ、夫が単独で保有する財産と認めることは妥当でないとしたならば、妻の潜在的な共有持分が離婚による財産分与により顕在化したものと認めるべきであるから、判例、所得税基本通達の考え方は妥当でないとも考えられます。(そもそも課税に適さない。)

 遺留分侵害額請求権は侵害に相当する金銭の支払いを請求する権利であることから、離婚の財産分与に関する判例、所得税基本通達にならえば、当然、相続財産を構成する物で債務の支払に充てて給付した場合は、代物弁済として譲渡所得と認定されることになると考えられます。

 この場合、初めから遺留分権利がある相続人に遺産分割により同じものを給付した場合は、自己の取得相当額の相続税の支払いで済むにもかかわらず、たまたま遺留分を有する相続人が不明であったことから遺留分侵害請求に応じざるを得なかった相続人は、同一の相続物件において、相続税を負担したうえに、譲渡による所得税を負担することとなり、二重課税となる可能性が認められます。(この場合、遺留分侵害請求権の行使に係る相続税の一部は、遺留分権利者が負担することとなり、、相続人は更正の請求により当該相続税の一部を減額することはできますが、遺留分権利者に渡した相続財産を構成する財産の現物の譲渡所得の課税は逃れません。)

 次に、特別の寄与について検討します。

 相続人以外の者で、被相続人と生計を一にしていた者、被相続人の療養看護に努めた者等は、特別縁故者として、相続人がいないときには相続財産の精算後の財産を与えてもらうことができ、これをみなし相続財産として相続税が課されることとなっています。

 この特別縁故者のうち、無償で被相続人の療養看護その他の労務の提供をして被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与をした被相続人の親族に限って、特別寄与者とし、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭の支払いを、相続人に請求できる制度が、今回の民法改正で創設された特別の寄与の制度です。

 なお、親族とは、民法725条に掲げられた①6親等内の血族、②配偶者、③3親等内の姻族であり、また、特別寄与者は、民法730条で「直系の血族及び同居の親族は、互いに扶け合わなければならない。」等の民法の扶養関係の規定の相互扶助・扶養義務の範囲を超えた親族も対象としていますが、親族でない事実婚パートナーや同性パートナー等の親族以外の同居世帯の世帯員は対象とはなっていません。よって、これらの親族でない同居の世帯員の寄与に関しては、贈与、遺贈により対応せざるを得ないことになります。

 特別の寄与者を親族に限定したことには、上記の扶養義務の履行と贈与税の課税対象の関係がかかわっていると考えられます。特別の寄与とは、例えば寄与者の帰属所得である労務(帰属所得については本ホームページの「帰属所得の課税関係」をご覧ください。)を無償で他人に移転(提供)したしたことです。そしてこの帰属所得の移転は、対価がないので、所得税の収入金額がないことにより所得税の課税対象ではありませんが、他人の労務(帰属所得)の提供を受けるという経済的利益は受けています。そして、相続税法第9条は「・・・対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で利益を受けた場合においては、・・・当該利益を受けた者が、・・・当該利益の価額に相当する金額を贈与により取得したものとみなす・・・」(みなし贈与)の規定を設けています。この帰属所得については、極めて主観的なもので、客観的な当該利益の価額の評価が難しいため、贈与税の課税に適するかという問題はありますが、おおむね贈与税の暦年課税の非課税枠(110万円)におさまると考えられますので、相続税法基本通達9-1では、労務の提供がみなし贈与となる経済的利益から除外されています。なお、相続税法基本通達9-10(無利子の金銭貸与等)や最近新設された同通達9-13の2(配偶者居住権が合意等により消滅した場合)では、対価性の認められる帰属所得について贈与の経済的利益があるとしているようです。

 ところが、扶養義務の履行については、民法上の義務であり、対価性の認められる帰属所得である労務の無償提供ではありませんので、贈与税の課税対象ではありません(贈与税法第21条の3第1項第2号の扶養義務者相互間の贈与の非課税は、通常必要と認められるものを超えるものをみなし贈与とした規定と考えられます。)。

 そして、親族間で扶助義務・扶養義務の履行が相互にあり、被相続人と相続人間では、具体的相続分(遺産分割、遺留分)の中で、この関係が精算される関係にあるが、相続人以外の扶養義務を履行した親族には相続分がないことから、特別の寄与による相続人に対する請求によって精算を認める必要があったと考えられます(法制審議会民法(相続関係)部会では、なぜか民法上の扶養義務と特別の寄与が関連付けられることを嫌った議論があり、あえて扶養義務の範囲と特別寄与者の範囲を一致させていないようです。)。

 他方,事実婚パートナー等の親族以外の同居世帯員には、扶養義務が課されていないので、この帰属所得たる労務の無償移転(提供)は、相続税法基本通達9-1により、贈与税の課税対象にはなりませんが、被相続人が、この労務の無償提供に応えようとするなら、その都度報酬を払うこと、相続にあたり遺贈(遺言書を作成する)するといったことが、必要になると考えられます。

 また、事務管理・不当利得での精算も考えられますが、事務管理は報酬請求権が認められていないので、相続債務としての認定は難しいと考えられます。

 特別の寄与料は、今後の相続税法の改正でみなし相続財産とみなされて相続税の課税対象となりますが、この場合も遺留分侵害額請求権と同様の問題が生じます。

 相続人に現金・預金等の当座資産がないときには、相続財産を構成する物件で特別寄与料の請求に充てざるを得ないことが生じます。また、形見分けや、被相続人と同居していた被相続人所有の家を離れたくないという事情がある場合も同様に相続財産の現物を給付せざるを得ません。この場合同一物件に相続税と譲渡による所得税の二重課税の問題が生じることになります。

 従ってこのような二重課税を防ぐためには、遺留分を有する相続人がいないか十分に捜索し、特別寄与者がいる場合には、あらかじめその者に生前贈与か遺贈をしておくことが必要で、金銭の請求権を有するものを残さないようにすることが肝要です。

家族の法律関係(相続の基礎知識)

1 相続にあたって、相続人間で具体的な相続財産ついての争いは絶えません。

  民法で、法定相続分等は次のように定められています

① 相続人が配偶者のみのとき

     ・配偶者 1/1(全部)

② 相続人が配偶者と子の場合(子には実子、養子を含む)

     ・配偶者 1/2   ・子一人当たり 1/2×1/子の数

③ 相続人が子の場合(配偶者がいないとき、子には実子、養子を含む)

     ・子一人当たり 1/子の数

④ 相続人が配偶者と親の場合(子等の直系卑属がいないとき、親には実親、養親を含む)

     ・配偶者 2/3   ・親一人当たり 1/3×1/親の数

⑤ 相続人が親の場合(配偶者と子等の直系卑属がいないとき、親には実親、養親を含む)

     ・親一人当たり 1/親の数

⑥ 相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合(子等の直系卑属、親等の直系尊属がいないとき)

     ・配偶者 3/4   ・兄弟姉妹一人当たり 1/4×1/兄弟姉妹の数

⑦ 相続人が兄弟姉妹の場合(配偶者、子等の直系卑属、親等の直系尊属がいないとき)

     ・兄弟姉妹一人当たり 1/兄弟姉妹の数

 相続財産の分配の調整として次のような制度があります。

⑧ 特別受益

 相続人が、被相続人から生前贈与を受けた財産は、相続財産に加えられ(持戻し)、遺産分割の対象になります(遺産分割後の相続分から特別受益を引いた額が具体的相続分となります。)。なお、被相続人は特別受益の持戻しの免除の意思表示ができます。さらに婚姻20年以上の夫婦間の居住用土地家屋の贈与は持戻しの免除の意思が推定されています。

 また、相続税の対象となる生前贈与には、相続開始前3年内の生前贈与と相続時精算課税を選択した場合の生前贈与があります。その他に遺産分割の対象とならないが相続税の対象となるみなし相続財産(被相続人の死亡保険金、死亡退職金)があります。

 したがって、遺産分割の対象財産と相続税の対象財産とは微妙に異なっています。

⑨寄与分

 相続人が、被相続人の事業に労務を提供又は財産を給付した場合の他、被相続人の療養看護その他保相続人の財産の維持又は増加に特別な寄与した場合、遺産分割協議で定めた寄与分の額を遺産分割の対象となる相続財産から控除されます。(遺産分割後の相続分に寄与分を加えた金額が具体的相続分となります。)

 なお、寄与分は相続税の対象となる相続財産から控除されることはありません。

⑩ 遺言

 被相続人が、被相続人の相続財産を自由に分配、処分できる(包括遺贈、特定遺贈)権能で、被相続人の死亡を原因として、相続人、法定相続分にかかわらず、相続財産の帰属先を自由に(任意で)決めることができます。しかし、次の「相続人の遺留分」の規定に反することはできません。

⑪ 遺留分

 兄弟姉妹以外の法定相続人の最低の相続分の権利の保障として、上記①、②、③、④及び⑥の各相続人の各法定相続分の1/2(⑤の場合は1/3)の相続財産の分配を受ける権利を遺留分といいます。

 遺留分の対象財産は、相続開始のときの相続財産に被相続人が贈与した財産を加えた金額から相続のときの被相続人の債務の額を差引いて算出した金額に、相続開始前1年以内に被相続人が贈与(相続人に対する贈与は10年)した金額並びに遺留分権利者に損害を加えることを当事者双方が知っている場合の贈与(時期は問わない)した金額を加算した金額です。

 なお、上記⑧の特別受益がある場合は、全額が遺留分の対象財産となりますので、特別受益の金額も遺留分の対象財産に加算する必要があります。

⑫ 遺留分の侵害請求

 相続人の具体的相続分が、上記⑪の遺留分の額に満つるまで、対象財産を取得した遺贈・贈与を受けた受贈者にたいして、遺留分権利者たる相続人は、当該財産の価額の金銭の請求ができます。

⑬ 相続人の廃除

 遺留分を有する相続人が、被相続人に対し虐待したり、重大な侮辱を加えたり、その他相続人に著しい非行があったときは、被相続人が、裁判所に請求して、相続人の地位から廃除することができます。(これにより、当該相続人は、遺留分を含めた相続権を失います。)この廃除があったときは、相続権を失った相続人の子が相続人となります。(代襲相続)

⑭ 代襲相続

 被相続人の子である相続人が、相続開始前に死亡したとき、廃除されたとき、被相続人や相続の先順位者、同順位者を殺害もしくは殺害しようとして刑に処せられる等の欠格自由に該当し相続権を失ったときは、その者の子が被相続人の直系卑属(孫)であれば、相続権を代襲して相続人となります。

 代襲相続については、被相続人の直系卑属(子・孫・玄孫・・・・)であれば相続権を順次代襲できますが、相続人が兄弟姉妹のときは、その兄弟姉妹の子が1代限りで相続権を代襲できます。(なお、兄弟姉妹には遺留分がありませんので、兄弟姉妹の代襲者には遺留分はありません。)

⑮ 特別の寄与

 上記の相続人でない、被相続人の親族(6親等内の血族及び3親等内の姻族)の方が、被相続人に対する療養看護、その他労務の提供により、被相続人の財産の維持又は増加に貢献するなど、特別の寄与ががあった場合、相続人に対し特別の寄与料を金銭で請求できることになりました。(なお、特別の寄与者の相続税は2割加算の対象となります。)

⑯ 配偶者居住権

 被相続人の生存配偶者が、被相続人所有の建物に相続開始時に居住していた場合に、a 遺産分割等により配偶者居住権を取得するとされたとき、b 配偶者居住権が遺贈されたとき、c 被相続人と配偶者の死因贈与契約で配偶者居住権を贈与されたとき、当該建物を取得した相続人に対し、配偶者が当該建物の全部を無償で使用収益できる権利です。(詳しくは別の項をご覧ください)

2 誰でも財産はもらいたいと思うのが当然ですので、法定相続分の主張は当然です。ところが上記1⑧の特別受益、⑨の寄与分や⑮の特別の寄与が絡むと、事は複雑になります。特に兄弟姉妹間やその配偶者間では被相続人の特定の相続人への偏愛、溺愛による感情のもつれや、被相続人の介護の苦労による感情のもつれもあいまって、特別受益、寄与分及び特別の寄与の算定が難しくなり、結局長期の裁判により遺産分割を行う例も多くあります。

 また、相続人以外の特別な方に、財産を分け与えてあげたいということもあるでしょう。

3 相続をめぐるこれらのトラブルを避ける方法としては、次のようなものがあります

 ① 早めに生前贈与をしておく

 ② 遺言書を作成しておく(できれば公正証書遺言が望ましいが、法務局の自筆証書遺言の保管制度を利用することも、極めて便利です。)

 ③ 財産の全部もしくは一部を相続人に信託する契約を締結しておく

 ④ 一般社団法人を設立し、徐々に財産を移管し、資産管理法人とする。

 これらの方法については、すでに別の項目「認知症に備えて財産管理をするとき」で記していますが、これらの対策も、遺留分の侵害請求には対抗できません。(廃除をしても、代襲相続があれば代襲相続人の遺留分があります。)

 しかし、①、②の方法は有効です。相続人の遺留分を残した財産は自由にできますので、早めの生前贈与も活用できます。ただし、遺留分の侵害請求や、特別の寄与の請求の対象になる場合もあるので、ぜひ遺留分・特別の寄与が、相続人・特別の寄与者に残らないように遺言書を作成したほうが、相続をめぐる争いが生じる危険性が少なくなります。

 

4 知らないうちに相続人になっているときは要注意です。

 

 相続人になる順番は、上記1の①〜⑦で記載しましたが、配偶者以外の相続人の順番は、第1順位は被相続人の子(もしくは、その代襲者である孫以下の直系卑属)、第2順位は被相続人の両親、第3順位は被相続人の兄弟(もしくは、その代襲者である甥・姪)となっています。(配偶者は常に相続人となります。)

 被相続人に第1順位の子がおらず、第2順位の被相続人の両親が死亡していたときは、第3順位の被相続人の兄弟姉妹が相続人となり、その兄弟姉妹が死亡しているときは甥・姪が相続人となります。これはよくある話で、甥・姪にしてみれば、全く知らない会ったこともないおじ・おばの相続人となり、その財産を相続できることになります。

 これはラッキーかというと、そうばかりではありません。相続は被相続人の財産である資産と負債を引き継ぐものなので、負債より資産が多ければいいのですが、資産より負債が多ければ、返しきれない負債を相続人が返済する義務を負うことになります。

 この場合のため、民法922条以下で限定承認、同938条以下で相続の放棄の制度を設けています。限定承認は、相続人全員が共同してすることができ、被相続人の資産で被相続人の債務を弁済したのちに相続財産となる資産が残れば、その資産を相続し、負債が残れば相続しないとする制度です。相続放棄は、初めから相続人にならなかったこととされる制度です。

 そして、この相続放棄、限定承認は相続人が自己のために相続があったことを知った日から3か月(熟慮期間といわれています)以内に、家庭裁判所に相続放棄の申述もしくは相続財産の目録を作成し限定承認の申述とともに提出する必要があります。なお、この熟慮期間の3か月は極めて短いので、家庭裁判所に伸長(延長)の申請をすることができます。

 限定承認があったときは、そこで相続手続きが終了しますが、相続放棄があったときは、とても面倒な事態が起こることがあります。

 相続放棄は、相続人が初めから相続人にならないこととなります。その結果、上記の相続人の第1順位の人が全員相続放棄したときは第2順位の人が相続人となり、第2順位の人が死亡もしくは相続放棄したときは第3順位の人が相続人となります。その結果、第3順位の兄弟姉妹が死亡していればその人の代襲者である甥・姪が相続人になってしまうということです。つまり、その甥・姪にとっては、知らないうちに、会ったこともない被相続人であるおじ・おばの相続人となり、その被相続人の負債の弁済義務を相続してしまう事態が生じてしまうことになります。

 ただし上記の熟慮期間は、相続人となってしまった甥・姪が、被相続人の相続人となったことを知ったときから3ヶ月なので、被相続人の死亡(相続の開始日)や相続放棄があった日(相続人となってしまった日)は熟慮期間の開始日とはなりませんので、被相続人の債務の弁済の督促状などにより相続人となってしまったことを知った日が熟慮期間の開始日となります。(後に、相続開始があった日の証明に必要となりますので、これらの書類を保存し、また電話等で知ったときはその日付をメモしておいたほうがいいでしょう。)

 したがって、知らないうちに相続人となってしまった人は、この熟慮期間のうちに必ず家庭裁判所に相続放棄の申述をする必要があります。相続放棄の申述には被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本と住民票の除票及び相続人の戸籍謄本等を添付する必要があり、とても面倒なことですが、これを怠ったまま、熟慮期間の3ヶ月が過ぎると相続の単純承認をしたものとみなされ、被相続人の債務の返済義務を相続することになります。

 なお、家庭裁判所の「相続放棄の添付書類一覧表」では、「相続放棄の熟慮期間(3ヶ月)の末日が迫っている場合は、添付する書類が全部そろっていなくても、申述書とその時点でそろえられた添付書類を先に提出して受付手続きを済ませてください。」との記載もあるので、必ず熟慮期間内に相続放棄の申述書を提出することが肝要です。

 

5 遺産分割の期間制限(相続開始から10年)の創設

 

 近年問題となっている所有者不明土地の相続登記等の促進等のため、令和3年に民法、不動産登記法、非訟事件手続法、家事事件手続法等が改正され、相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律が創設されました。(施行は令和6年からの予定?)

 不動産登記法の改正では、相続登記の申請が義務化され、遺言、遺贈や遺産分割により不動産を取得した相続人に対し、その取得を知った日から3年以内に相続登記の申請することが義務付けられ、正当な理由なくその申請を怠ったときは10万円以下の過料に処することとされました。

 民法では相隣関係の改正や不在者財産管理人、相続財産管理人等の改正が行われ、特に遺産分割に関しては実質的な相続開始後10年という期間制限が設けられます。

 具体的には、「相続開始(被相続人の死亡)時から10年を経過する遺産分割は、具体的相続分ではなく、法定相続分(又は指定相続分)による。(改正民法904条の3)」こととされました。

 つまり10年を経過すると、特別受益や寄与分の主張ができなくなることになります。但し、10年経過前に家庭裁判所に遺産分割請求をしているとき、期間満了前6か月以内に遺産分割請求することができないやむを得ない事由(被相続人が遭難で死亡したがその事実が確認できず遺産分割請求ができないことなど)がある場合において、この事由消滅後6か月以内に家庭裁判所に遺産分割請求をしたときは、10年経過したのちの審判では特別受益や寄与分の主張を認めた遺産分割の審判ができる例外があります。もっとも、10年が経過しても、相続人全員が具体的相続分による遺産分割をすることに合意したケースでは、具体的相続分による遺産分割が可能とのことです。(令和3年9月法務省民事局「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」46ページ参照)

 

相続、遺贈、死因贈与による財産の継承と換価によるキャピタルゲインの帰属について

民泊と税務の疑問点(民泊は相続対策になる?)

1 民泊とは

 住宅宿泊事業法が施行されるとともに、旅館業法の改正による許可基準が大幅に緩和されました。これにより、いわゆる民泊は、旅館業法の適用を受ける民泊と、旅館業法の適用はないが住宅宿泊事業法の適用を受ける民泊の、2種類の形態に分かれて、これら以外の違法な民泊(無許可営業者)には旅館業法の六月以下の懲役もしくは100万円以下の罰金が科せられることになりました。

2 旅館業法の改正

 従来の違法民泊を合法化するために、旅館業法の許可基準が次のように大幅に緩和されました。

(1) 最低客室数の基準が廃止され、客室が1室でもよいこととなった。

(2) 洋室の構造設備の要件が廃止され、1客室当たりの最低床面積が7㎡以上となった。

(3) 次の3つの要件を備えているときは、玄関帳場(フロント)等を設置する必要がなくなった。

 ① 緊急の場合、おおむね10分程度で職員等が駆け付けられる体制がとられていること。

 ② 自ら設置したビデオカメラにより宿泊者の本人確認や出入りの状況が確認できること。

 ③ 鍵の受け渡しを適切に行うこと。

 消防用設備等の設置義務等はありますが、上記のように、住宅やアパートを旅館業法の適用を受ける民泊とすることができることから、後述の住宅宿泊事業法の180日の営業制限は受けないので、年を通じて、無制限に民泊事業を行うことができます。

 この場合の税の取り扱いは、固定資産税は住宅用ではないので小規模住宅用地の適用がなくなります(固定資産税が6倍以上になる可能性がある)が、所得税では事業所得として青色申告すれば青色申告特別控除、青色事業専従者給与の適用が受けられ、事業所得に損失があれば他の所得と損益通算が受けられます。また相続税では民泊事業用の宅地は特定事業用宅地である小規模宅地に該当し、400㎡まで80%の相続税評価額の減額が受けられます。

3 住宅宿泊事業法による民泊事業では

 住宅宿泊事業法が施行され、総務省・国税庁から税の取り扱いの通知・情報が出されていますが、その取扱いについて検討しますと、以下の通りと考えられます。

(1) 固定資産税について

 平成30年2月16日の総務省自治税務局固定資産税課長の「住宅宿泊事業の用に供する家屋又はその部分の敷地の用に供する土地に対する住宅用地特例の適用について(通知)」によれば、「特定の者に継続的に居住させることを目的として長期賃貸の募集が行われ、そのために管理が行われている建物又はその部分が人の居住の用に供するものに当たる」ことの実態を適切に把握し、固定資産税の課税事務の適正な執行を各都道府県及び市町村の固定資産税の担当者に、通知している。

 よって、老夫婦や一人住まいのご自宅の空き部屋を民泊事業とする場合、週末及び休日等だけ民泊事業にする場合、別荘やセカンドハウスの使っていない期間を民泊事業にする場合やアパート等の賃貸業に民泊事業を併営した場合は、小規模住宅用地の課税標準となるべき価格を6分の1に圧縮(軽減)することができなくなる部分が生じる場合があるので、その部分の固定資産税の負担が増加します。但し、固定資産税は民泊事業による所得計算の必要経費には算入できます。

 なお、民泊事業は、個人事業税では第1種事業に該当すると思われますが、不動産貸付業ではなくなるので10部屋、10棟等の基準はありません。よって事業種控除額の290万円を超えた民泊事業の所得には個人事業税が課税されます。但し、個人事業税は必要経費に算入されます。

(2) 消費税について

 平成30年6月13日の国税庁の「住宅宿泊事業法に規定する住宅宿泊事業により生じる所得の課税関係等について(情報)」の「7消費税の課税関係」にあるように、消費税の課税対象となります。よって、住宅の貸付は消費税の非課税対象となっていますので、前々年の消費税の課税売上が1,000万円をを超える場合は、消費税の納付義務者となります(課税売上が継続して1,000万円以下の免税業者の方は消費税の申告・納付義務はありません)。なお、消費税は必要経費に算入されます。

(3) 所得税について

 上記2の国税庁の(情報)の「1所得区分」では、住宅宿泊(民泊)事業は、宿泊者の安全等の確保や一定程度のの宿泊サービスの提供が義務付けられ、利用者から受領する対価には、部屋の使用料のほか寝具等の賃貸料やクリーニング代、水道光熱費、室内清掃費、日用品費、観光案内等の役務の提供の対価が含まれていることから、不動産所得にはならず、原則として雑所得に区分されるとしています。しかしながら、アパート収入だけの方や国民年金だけの収入のある方が専ら民泊事業により生計を立てているなど、所得税法の事業として行われていることが明らかな場合は、事業所得に該当するとしています。

 従って、所得税法上の事業に該当すれば、不動産所得の5棟10室の基準は関係なくなりますので青色申告にすれば青色申告特別控除(65万円)、青色専従者給与の適用も受けられます。また不動産所得ではないので土地の借入金の支払利息を赤字の場合でも全額損益通算することができます。

(4) 相続税について

 上記の国税庁の(情報)には相続税の取り扱いがありませんが、小規模宅地の相続税の課税価格の計算の特例(租税特別措置法第69条の4の適用について、民泊事業用宅地は同条3項1号で除外されている「不動産貸付業その他政令で定めるもの」には該当しないと考えられます。「その他政令で定めるもの」は同法施行令第40条の2第6項においては「駐車場業・自転車駐車場業及び準事業」に限定され、「準事業」については法令・通達の定義はないようですが、同法通達69の4−13不動産貸付業の等の範囲)には民泊業は掲げられておらず、また、同通達69の4-14(下宿等)では「部屋を使用させるとともに食事を供する事業は、不動産貸付業その他政令で定めるものに当たらないものとされています。

 従って、民泊事業用宅地は特定事業用宅地である小規模宅地に該当する場合も考えられます。この場合、100分の50の評価減・200㎡の貸付事業用宅地ではなく、100分の80の評価減・400㎡の適用が受けられることも考えられます。

(5) 住宅宿泊事業法で民泊事業として認められる家屋は、①現に人の生活の本拠として使われている家屋、②入居者の募集が行われている家屋及び③随時その所有者、賃借人又は転借人の居住の用に供されている家屋 が対象となりますが、③の場合には年に1回以上居住に使用する別荘、セカンドハウス(居住期間は問われていない)のほか、生活の本拠ではないが、別宅として使用している古民家、転勤、相続等による一時的な空家 が具体例としてガイドラインに掲げられています。(但し、投資用マンションは該当しないとされていますのでご注意を)

 よって、広い自宅から子供たちが独立して夫婦だけもしくは独り住まいとなったとき、残った空き部屋を民泊事業にする。複数住宅を持っていて春と秋は東京、夏は避暑地(例えば北海道、軽井沢等)、冬は避寒地(例えば沖縄)で居住する場合(居住面積は関係ないのでワンルームマンションでもOK)空いている期間を民泊事業にする。1棟の貸付事業用マンション全体を民泊事業対象として併営し、入居募集広告中の空室部分を民泊事業にする。などが、具体的な民泊事業として考えられます。

 また、宿泊日数の上限180日は、住宅宿泊事業者ごとではなく、届出住宅ごとに算定するのこととなっていることから、複数住宅を持って季節ごとに住まいを変えている方の場合、それぞれの家屋での空いている期間の民泊日数で算定をしますので、全体として通年民泊事業を継続しているとすることも可能と考えられます。

4 民泊業を上手に活用しましょう

 民泊業は、上記のように様々なメリット・デメリットがいろいろあるようですが、規模が小さく所得税法の雑所得となるときは、固定資産税等の負担が大きく増える可能性があること、赤字が他の所得と損益通算できないことなど、デメリットも多いのでよく検討されたほうがよろしいかと考えます。

 相続対策として考えるときは、旅館業法の適用を受ける民泊にしたほうが、節税効果は高いといえますが、建物が建築基準法をクリアして、消防設備も備える必要があることから、住宅、アパートから転換するには、かなりの費用がかかり、そのための費用を惜しめば、許可されなかったり、許可を取り消されたりしますのでご注意を。

生命保険を上手に活用しましょう。

1 財産承継と生命保険

 相続税の基礎控除は、27年から5千万円から3千万円、相続人一人当たり1千万円から600万円に減りますが、生命保険の死亡保険金の相続人一人当たりの非課税枠500万円は、減額されてません。

 この場合の死亡保険金は、被相続人が契約者及び被保険者、相続人等が受取人という形が典型的な例ですが、被相続人の亡くなった時点では、その死亡保険金請求権は、被相続人には帰属しないことから、相続人固有の請求権であるとされています。
 したがって、死亡保険金は相続財産ではないことになります。(相続財産ではないので遺産分割の対象とはならず、遺留分の対象にもならないことになります。)
 また、保険受取人が指定されているときでも、受取人である相続人の特別受益とはならないとされています(相続財産全体に比して、異常に高い死亡保険金のときは、特別受益とされることがあります。)

 しかし、死亡保険金は相続税法により「みなし相続財産」(相続税法第3条)とされていることから(死亡退職金等も同様)、相続税の課税財産に加算する必要があります。

 ここで注意すべきは、死亡保険金の受取人は、相続人に限らないということです。相続税法第2条の3では「相続又は遺贈により財産を取得した個人」が相続税を納める義務があるとされています。(このほかに特定の法人も相続税の納税義務があります。)
 つまり、民法上の相続人と相続税の納税義務者は、必ずしも一致しないということです。例えば、死亡保険金の受取人である相続人の方が、相続放棄をした場合、民法上の相続人にはなりませんが、相続税の納税義務者になるということです。相続人でない第3者(例としては妥当ではありませんが、結婚していない又は結婚できないパートナー等)を死亡保険の受取人とした場合も同様です。(相続税の2割加算の対象となります。)

 ただし、相続税の基礎控除の相続人の数及び死亡保険金や死亡退職金の非課税枠の相続人の数における相続人には、相続を放棄した方等が含まれませんので、ご注意ください。

 以上のことから、生命保険を利用した財産承継については、①大切な方に確実に金融資産である死亡保険金を承継することができること(遺産分割の対象財産や遺留分の基礎とならないので、通常の場合は相続争いの対象にはならない。)、②相続人1人あたり500万円の非課税の金融資産を確実に相続人へ承継することができること、③相続税の納税資金となる金融資産を確保できること、が極めて有効なメリットとなります。

2 定期保険と法人税の取り扱い

 定期保険は、満期に生存保険金の支払いを受ける養老保険とは違い、一定の契約期間内に死亡等の保険事故があった時に死亡保険金等が支払われるだけで、満期の保険金もしくは満期の払戻金がない掛け捨ての保険なので、期間の経過に応じて法人の損金に算入できるものとされています。(法人が契約者の場合。)

 しかし、保険期間が長期にわたる場合や保険金額が逓増する保険では、期間経過による支払保険料の実質的低下が認められるため、保険期間の前半は、後半の前払い部分があるとして、一定要件に該当するものを長期平準定期保険(前半60%の期間1/2を資産計上)、逓増定期保険(前半60%の期間1/2、2/3もしくは3/4を資産計上)をその他の定期保険と区別して取り扱っています。
 平成20年2月の通達改正で、要件が変更になりましたが、その他の定期保険では、長期平準定期保険及び逓増定期保険に該当しない契約要件で、満期の支払はないが中途解約金の支払のあるタイプのものが多数あり、中途の解約返戻金がその時点の支払保険料総額の90%を超えるものもあり、極めて貯蓄性の高いものもあります。

 このタイプの定期保険は、期間に応じた支払額は各期の損金に計上され、解約返戻金は全額益金に計上することになります。このことは、業績の良いときには保険料を損金に計上し、業績が悪くなった時に解約返戻金を利益に加算できますので、会社の利益の平準化に資することができます。(ただし、解約返戻率の高い時期は長期間ではないので、都合よくいくとは限りません。)
 もっとも、長期平準定期保険でも逓増定期保険でも、ある程度同様の効果はあります。(資産計上した前払保険料は解約時の損金になります。 この効果は、養老保険でも同様です。)

 結局、生命保険は、その貯蓄性の高さについて、各保険契約をよく比較・検討して決めたほうが賢明でしょう。(利益の出ている会社が、当面の節税効果を期待するのかどうか。ただし、解約返戻率の悪い時期に解約せざるを得ないときは、掛捨ての節税効果を超える部分は無駄な支出になりますのでご注意ください。)

 そして、もっとも効果的なのは、定年等による退職金の準備として解約返戻率の高い時期の退職から逆算して、生命保険契約をすることです。
 また、解約返礼率の高くなる数年前に、時価(その時の解約返戻金で評価されます。)で、役員や従業員の方に譲渡するか、退職金の一部としたときには、すでに会社の損金になっている掛け捨て部分のほかに、積立金とした金額と時価との差額は会社の譲渡損(損金)となり、保険契約を引き継いだ方は解約返礼率の一番高いときに解約すればきわめて有利な取扱いを受けることができます。

 このように、役員の方、従業員の方ごとに計画的に生命保険を組み合わせること等により、より大きな節税効果が生じますので、よく検討して経営計画に生命保険を活用しましょう。

住宅を購入するときの節税のポイント

住宅取得等資金の贈与に係る贈与税の非課税措置を使いましょう。

これは使える?結婚・子育て資金の一括贈与の非課税・教育資金の一括贈与の非課税制度

改定中

1 平成27年4月から、結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税制度が始まります。また、教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税も令和5年3月まで延長されました。

   前者は1,000万円(結婚のための費用は300万円まで)、後者は1,500万円(学校以外の支出は500万円まで)の枠がありますので、併せて2,500万円の贈与税の非課税枠です。

   これから結婚を考えている、いえ、考えていなくても、とにかくかわいいお子様やお孫さんのために、何かしてあげたいと思われている方は、是非とも活用しましょう。

2 制度の概要

(1) どちらの制度も、贈与する資金を金融機関(銀行・証券会社等)に信託し、結婚,子育て、教育に使ったことを証する書類を提出して、それぞれの資金を金融機関(信託された資金)から受け取ります。

    * したがって、この資金は、目的に沿って使用することを要し、まったく自由に使えるわけではありません。

(2)贈与者は受贈者の直系尊属

(3) 受贈者は「結婚子育て資金」の場合は18歳から49歳までの贈与者の直系卑属(子・孫・ひ孫・玄孫)  

                「教育資金」の場合は、29歳までの 贈与者の直系卑属

で、前年の合計所得金額が1,000万円以下であること

(4)結婚子育て資金の使途

   ・ 結婚費用(婚礼費用及び披露宴費用、新居を借りる費用、新居への引っ越し費用)

    ・妊娠(不妊治療費も入る)、出産に要する費用、出産後のケア費用

    ・子の医療費、子の保育費(ベビーシッター費を含む)

(5)教育資金の使途

    ・学校等に支払われる入学金、授業料、通学定期券代、留学の学費,渡航費等(1,500万円まで)

       *学校とは、幼稚園・保育所・認定こども園、小学校,中学校、中等教育学校、特別支援学校、

        高等学校、 高等専門学校、大学、大学院、専修学校、各種学校等です。

    ・学習塾・家庭教師、そろばん・音楽・絵画等の学習・文化・芸術・教養教室、 サッカー、野球、水泳などのスポーツ教室、及びこれらの個人教授に直接支払われるもの(1,500万円のうち500万円まで)

(6)使い残しがあれば贈与税がかかります。

  ・結婚・子育て資金の場合は、50歳に到達した時点で、信託された資金に残額があれば、50歳になった年の贈与税の課税対象とされます。

  ・教育資金の場合は、30歳に到達した時点で、信託された資金に残額があれば、30歳になった年の贈与税の課税対象になります。(30歳を超えても、学校に在籍しているか教育訓練給付の受講をしていれば、40歳までは贈与税の対象とはされません。)

  ・なお、どちらの制度も、受贈者(子・孫等)の方がお亡くなりになったときは、受贈者の方に贈与税は課されません。(資金の残額全額が贈与税の課税対象とはなりません。)

(7)贈与者が死亡した場合

・教育資金の場合は、受贈者が「①23歳未満、②学校等に在籍している、③教育訓練給付を受講している」場合を除いて、贈与者の死亡日の管理残額が相続等(遺贈)により取得したものとみなされ、相続税の対象財産となります。さらに、贈与者の子以外の直系卑属に相続税がかかるときは、2割加算の対象となることになりました。

・結婚子育て資金の場合は、贈与者のの死亡日の管理残額が相続等(遺贈)により取得したものとみなされ、教育資金と同様に相続税の課税対象となり、2割加算も同様となります。

非課税口座内の少額上場株式等に係る非課税措置

給与所得者の特定支出控除を使ってみましょう。

1 平成26年の税制改革大綱で、平成28年度、29年度と続けて、給与所得控除の上限額が段階的に引き下げられます。これにより、給与収入が1千万円を超える層の給与所得者の税負担額が増え、1千5百万円を超える方の税負担増額は10万円を超えることになります。

2 給与所得者の特定支出控除については、先行して平成25年分から、適用判定基準が半分に緩和され、また、適用範囲が拡大されます。

3 具体的には
(1)特定支出の額(下記(2)の項目の支出)の合計額が、給与所得控除の2分の1(最高125万円)を超える場合、その超える部分をさらに給与所得控除額に加算して、給与所得の計算上控除できる制度です。
  給与所得金額=給与収入額ー(給与所得控除の2分の1の金額+特定支出の合計金額)
(2)特定支出の項目
 ①通勤費(通勤のために必要な交通機関の利用等のための支出)
 ②転居費(転任に伴う転居のための支出)
 ③研修費(職務の遂行に直接に必要な知識を習得するため研修に要する費用)
 ④資格取得費(資格を取得するための支出で、その者の職務に直接必要であるもの)
 ⑤帰宅旅費(転任に伴い生計を一にする配偶者の居住する場所に帰るための旅費)
 ⑥勤務必要経費(職務上必要であった図書の購入費、衣服費及び得意先等の職務上関係者の接待・贈答等の交際費等、上限65万円)
(3)給与等の支払者の証明書及び特定支出の明細書を添付し、領収書等を提示もしくは添付する必要があります。

4 有利になるのは、具体的にはどんな点?

(1)まず上記①の通勤費は、通常であれば、給与の非課税の範囲内になりますので、活用できる方は少ないですが、遠距離の新幹線通勤の方は、非課税を超える実費負担分が対象となります。(もっとも、これだけで給与所得控除の2分の1を超えることはほとんどないと思われます。)
(2)次に上記②、③及び⑤の費用は、通常であれば会社が実費を負担して経費に計上しており、特に経済的利益があるとも認められないので、給与所得者の方が個人的に負担するようなことはないと思われます。ただ、個人的に職務のために必要と判断した研修費用については、会社の証明がもらえれば、適用が受けられますので、そのような向上心の極めて高い方にとっては、是非とも活用していただきたい制度です。
(3)④の資格取得費には、個人的資格である弁護士、公認会計士、税理士、弁理士、医師、歯科医師などの資格取得費が職務に直接必要であれば、会社の証明を添付すれば、結果として資格を取得できなくても特定支出とすることができるようになりました。この費用に関しては、職務遂行に直接必要な資格を取得するための専門学校の授業料は特定支出に該当し、また、法科大学院に係る支出は、司法試験受験の資格主取得のためのものなので特定支出に該当しますが、会計大学院に係る支出については公認会計士や税理士の受験資格を得るためのものではないので特定支出に該当しないとされています。
(4)⑥の勤務必要経費の支出は合計で65万円が限度ですので、これだけで給与所得控除額の2分の1を超えることはあまりないと思いますが、上記①から⑤までの特定支出があるときには、必ず合わせて適用したいものです。
 また、給与所得控除の2分の1が65万円(令和2年分から55万円)となるのは、給与収入が380万円(令和2年分から340万円)未満の方ですので、65万円以下でも適用対象金額が生じますので、こまめに領収書等を保存し、会社の証明をもらっておきましょう。

* 資格取得費用については、教育訓練給付制度を積極的に使いましょう。

 これは雇用保険の被保険者であるサラリーマンの方(ほとんどの方が対象)が、TAC、大原、LEC等の資格受験予備校等の様々の講座の中から、厚生労働大臣の指定する教育訓練の講座を受講した時には、ハローワーク(公共職業安定所)に申請すれば、受講費用の20%(10万円が限度)が戻ってくる制度ですので、ぜひ活用しましょう。

雇用促進税制を利用しましょう。(従業員や給与を増やしたときは、必ず税額控除を使いましょう。)

医療法人は、損か?得か?

1 平成26年の税制改革大綱で、「医業継続に係る相続・贈与税の納税猶予等の創設」という項目があります。

 これは、平成19年の医療法の改正で新設された社会医療法人を想定した「良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律に規定される移行計画について厚生労働大臣から認定を受けた医療法人」である「認定医療法人」の認定を受ければ、いわゆる経過措置型医療法人(一般の持ち分のある社団医療法人及び出資限度法人)の持ち分を相続・遺贈で取得したときの相続税を、上記移行計画の期間満了まで納税猶予し、その期間内に持ち分のすべてを放棄した場合には猶予税額を免除するという制度です。

 一見すると、事業承継税制の適用のない医療法人に、同様の納税猶予及び猶予税額の免除の特典を与えるかのように見えますが、全く内容が違います。

 事業承継税制は、中小企業のオーナーが、その親族(主として子孫)へ円滑に事業が承継できるように相続税を納税猶予し、一定の場合猶予税額の免除がされる制度(当ホームページの「事業承継」参照)ですが、医療法人制度では、救急医療やへき地医療、周産期医療など良質かつ効率的な地域に必要な医療を提供する体制を確保するため都道府県知事の認定を受けた「社会医療法人」を理想形として、社会医療法人、財団医療法人もしくは持ち分のない社団医療法人に事業承継させようとするもので、オーナー一族の支配する経営への事業承継をさせない制度を目標としているようです。(持ち分なし医療法人への移行促進策)

 ちなみに社会医療法人の都道府県の認定要件は次もとおりです。
①同一親族等関係者の制限(役員の3分の1、社員の3分の1、評議員の3分の1を超えていないこと)
②救急医療等確保事業の実施(施設等の物的要件、業務を行う体制等の人的要件、業務の実績)
③厚生労働大臣が定める公的な運営に関する要件に適合
④解散時の残余財産の帰属先の制限(国、地方公共団体又は他の社会医療法人に限る)

2 個人病院の法人成による子孫への財産承継では、相続税の納税猶予、猶予税額の免除はない?

 現在、新たに法人設立できるのは、上記の社会医療法人、財団医療法人もしくは持ち分のない社団医療法人のほかに、基金拠出型の持ち分のない一般社団医療法人だけです。

 したがって、一人医師医療法人の設立して、子孫への財産承継が可能なのは、基金拠出型の持ち分のない社団医療法人ということになります。

 ただし、この場合、拠出した基金額の返還義務の定めがあることから、基金額は相続財産となりますが、上記1の相続税の納税の猶予及び猶予税額の免除する制度の適用はありません。

 また、医療法人理事長の土地を医療法人の診療所として賃貸している場合であっても、基金拠出型は持ち分の定めがなく出資の概念がない法人なので、小規模事業用宅地の特定同族会社事業用宅地等には該当しなくなり、400㎡までの80%の評価減の特例は受けられないことになります。(藪蛇です。法人成しないほうが良かったということになりかねないです。)
 もっとも、貸付事業用宅地にはなりますので、200㎡までの50%の評価減の特例は受けられます。

 他方、経過措置型医療法人(平成19年3月31日以前に設立された出資額限度法人、持分あり社団医療法人)であれば、出資の10分の5超を所有するなどの要件をクリアすれば、特定事業用宅地として400㎡までの80%の評価減の特例は受けられます。

3 MS法人(メディカルサービスの会社)を上手に使いましょう。

  医療法人の非営利化は、社会保障・税一体改革の流れの中で望ましいこととされています。また、社会医療法人は、公益法人として税法上取扱われることから、医療法における付帯業務及び収益事業として行うもの以外の医療保険業が、公益事業として収益事業課税の対象から除かれますので、これに係る所得については法人税が課税されないことになります。

 したがってこれから設立する医療法人は、社会医療法人が最も有利です。この設立には厳しい要件と監督官庁からの規制を受けることになりますが、むしろ医療法人経営の社会的要請等を鑑み、好ましいことと割り切り、あとはどのようにご自分や家族の利益を守るかを考えてみるとよいでしょう。

 平成19年3月30日の医療法人制度改革の厚生労働省医政局長の特留事項では、医療法人は開設する病院、診療所又は介護老人施設に必要な施設、設備又は資金を有しなければならないとする医療法施行規則第30条の34の規定について、その6(2)において「医療法人の施設又は設備は法人が所有する物であることが望ましいが、賃貸借契約による場合でも当該契約が長期間にわたるもので、かつ、確実なものであると認められる場合には、その設立を認可して差し支えないこと。」とされていることから、理事長である院長の家族の方が経営するメディカルサービス会社(MS法人)が診療所の施設建物、医療設備を取得保有し、医療法人に適正な賃貸料で賃貸し、当該MS法人の役員に就任しているご家族の方に適正な給与を支払うことは、何の問題も生じません。(現にこのような形態をとっている医療法人とMS法人は多数あります。)

 さらに医療法人の医療業務以外の業務について、別途人材派遣会社であるMS法人を設立し、同社から医療業務以外の派遣することも可能ではあります(医療関係業務は原則派遣禁止ですが、紹介予定派遣、産前産後休業及び育児休業並びに介護休業の代替要員の派遣は可能)が、医療法人の透明性確保の要請から、医療関係部門とそれ以外の管理部門等を分離し、後者の管理部門等をMS法人の業務委託することには何の問題もありません。

 したがって、医療法人のバックオフィスとして施設建物、医療設備を保有し、管理部門を請負うMS法人と、医療直接部門のみの医療法人を並存し、医療法人は非営利事業に特化して社会医療法人とすることが一番得策ではないかと思います。

 このことにより、MS法人の役員・従業員である親族の方には適正な給与を支給することができ、MS法人の資産は確実に相続人の方に承継され、しかも施設の敷地を保有する被相続人の土地の評価も小規模宅地で評価され(MS法人が施設を医療法人に貸し付けているときは、200㎡まで貸付事業用宅地の50%評価減、ただし特定居住用宅地、特定事業用宅地と併用するときはほとんど使えなくなる問題はありますが、MS法人が管理部門を請負っているときは特定事業用宅地と評価される可能性もあります。)、さらに一般的に取引相場のない株式等による評価も使えるので、極めて有利な取り扱いを受けることができます。

3 平成31年度改正の個人の特定事業用資産の納税猶予の創設

 法人の事業承継税制である非上場株式の納税猶予免除の特例では医療法人、士業法人等が除外されていたところですが、この個人の特定事業用資産の納税猶予は、資産管理事業(不動産賃貸業等)及び性風俗関連特殊営業を除く中小企業基本法上の個人が対象となることから、医業、士業等の個人事業の事業用資産たる土地・家屋・事業用償却資産に係る、相続税・贈与税の納税猶予、猶予税額の免除が一定の場合に受けられることになりました。このためには、令和3月31日までに事業承継計画書を作成し、都道府県知事の確認を受けたうえで、平成10年12月31日までの相続・贈与について適用が受けられます。

 しかし、この税制はあくまで納税猶予なので、例えば、認定相続人がその死亡の時まで対象とした特定事業用資産を使用し事業を継続していること(死亡するまで3年ごとに事業継続届を税務署に提出する必要あり)等の猶予税額の免除事由がない限り、猶予された相続税・贈与税を利子税も含めて最終的に納付しなければならないこともあるので、よく考えて適用する必要があります。

マイナンバーて何?

マイナンバー制度とは

 1 マイナンバーの対象

(1)個人番号

   市町村長は住民票に住民票コードを記載した時は、速やかに12桁の「個人番号」(マイナン

  バー)を指定し、平成27年10月から当該「個人番号」(マイナンバー)を、「通知カード」によ

  り通知することとされています。

   ※ 基本4情報は次の4つ

    「氏名」、「出生の年月日」、「男女の別」、「個人番号」

(2)法人番号

   商号登記法に基づく12桁の「会社法人等番号(基礎番号)」の前に、1桁のチェックデジ

  ットの数字を加えた13桁の「法人番号」(マイナンバー)を、国税庁長官が指定し、平成27

  年10月から当該「法人番号」(マイナンバー)通知されることとされています。(設立登記

  法人)このほかに、国税庁長官は、国の機関、地方公共団体及び「これらの法人以外の法人」

  又は「人格のない社団等」であって、次の届出の提出されている法人番号を指定し、通知す

  ることとされています。

   ・給与等の支払いをする事務所の開設等の届出

   ・内国普通法人等の設立の届出

   ・外国普通法人となった旨の届出

   ・公益法人等又は人格のない社団等の収益事業の開始等の届出

   ・消費税の小規模事業者の納税義務の免除が適用されなくなった場合等の届出

   さらに、上記以外の法人又は人格なき社団等で、国税庁長官に届け出た法人等も付番を受

  けることができます。

 2 マイナンバーの利用目的及び利用上の制約

(1)個人番号

   個人番号の利用範囲は、「社会保障・税・災害対策」を対象に、次の分野に限定されてい

  ます。

   ① 年金分野

     年金の資格取得・確認、給付を受ける際に利用。

   ② 労働分野

     雇用保険の資格取得・確認、給付を受ける際に利用。ハローワーク等の事務に利用。

   ③ 福祉・医療・その他の社会保障分野

     医療保険等の保険料徴収等の医療保険者における手続、福祉分野の給付、生活保護の

    実施等低所得者対策の事務等に利用。

   ④ 税分野

     国民が税務当局に提出する確定申告書、届出書、調書等に記載。当局の内部事務等に

    利用。

   ⑤ 災害対策分野

     被災者生活再建支援金の支給に関する事務等に利用。

   ⑥ 地方公共団体の「社会保障・税・災害対策」分野

     地方公共団体が条例で定める社会保障、地方税、防災に関する事務、その他これに類

    する事務に利用。

(2)法人番号

   法人番号には、個人番号のような利用範囲の制限はなく、下記の法人の「基本情報」は、イン

  ターネットで公開されることから、自由に法人番号を確認して利用することができる。

   ① 商号又は名称

   ② 本店又は主たる事務所の所在地

   ③ 法人番号

    ※  但し、人格なき社団は、代表者又は管理人の同意がない時には、公開されない。

3 マイナンバーと特定個人情報保護

(1)個人番号関係事務実施者

   個人番号関係事務とは、国等の行政機関が行う個人番号利用事務(上記2のマイナンバー

  の利用)の処理に関して、法律、条令の規定に基づき他人の個人番号を記載した書面を提出

  する事務です。

   具体的な事例としては、会社に勤める従業員への所得税の課税には、所得税法の規定によ

  り源泉徴収が行われるが、源泉徴収義務者となる会社(個人の場合は事業主)は、個人番号

  関係事務を行う個人番号関係事務実施者となります。

   この他、地方税、労働保険、社会保険等、基本的には法律・条例の規定により、特別な地

  位に位置付けられた者に限られますが、これらの者から事務の委託を受けた受託者も個人

  番号関係事務実施者となります。

(2)個人番号利用事務等実施者の義務

   個人番号利用事務等実施者(個人番号利用事務実施者及び個人番号関係事務実施者)に課

  される義務として、次のもの等があります。なお、以下「行政手続における特定の個人を識

  別するための番号の利用等に関する法律」を「番号法と」称します。

  ① 番号法・条例で定められた範囲内で個人番号を利用すること。

  ② 事務を委託する場合は受託者に対し必要かつ適切な監督をしなければならないこと。

  ③ 再委託する場合は委託をした者の許諾を得なければならないこと。

  ④ 個人番号の漏えい、滅失、又は毀損の防止その他の個人番号の適切な管理のために必

   要な措置を講じなければならないこと。

   また、個人番号利用事務等実施者が個人情報取扱事業者のときは、個人情報保護法の適用

  を受けます。

   さらに、次の項目はすべての者に適用があります。

  ⑤ 番号法の規定に基づかないで、他人の個人番号の提供を求めてはならないこと。

  ⑥ 番号法の規定に基づかないで、特定個人情報の提供をしてはならないこと。

  ⑦ 番号法の規定に基づかないで、特定個人情報を収集・保管してはならないこと。

   ※ したがって、顧客管理、従業員管理等の事業者の業務で個人番号を利用することは

    できません。

(3)個人番号利用事務等に従事する(従事していた)者に対する罰則には、次のもの等があり

  ます。

   ① 特定個人情報ファイルの正当な理由のない提供した・・・4年以下の懲役又は200万円以

下の罰金

   ② 業務に関して知り得た個人番号を自己または第3者の不正な利益を図る目的で提供し又は盗用した・・・・・・・3年以下の懲役又は150万円以下の罰金

    ※ちなみに、自己のマイナンバーの提供の拒否には、特に罰則はありません。

4 マイナンバーの導入スケジュール等

(1)上記のように、個人ナンバーについては、利用方法が番号法で厳格に定められていますが、法人番号については、利用範囲の限定はなく様々な用途で利用されることになります。

  具体的には、平成27年10月から個人番号・法人番号が通知され、平成28年1月から順次、社会保障・税・災害対策の分野で利用開始されます。

(2)税務関係書類のマイナンバーの記載は、おおむね平成29年1月1日以降提出に係るものには以下

  のものがあります。

    ※ 平成27年12月31日までは、マイナンバーの提供を依頼できないこととされていますが

     平成28年分の扶養控除申告書には、マイナンバーに記載事項が含まれているため、平成27

     年分の年末調整の際に併せてマイナンバーの提供を依頼することになる場合が多いと思い

     ます。(正確には平成28年分の扶養控除申告書は平成28年の1月の給与支払い時までに給

     与の支給者に提出すればよい。)

 ① H28年分の源泉徴収票(本人交付用はマイナンバーの記載を要しない)

 ② H28年分の所得税及び贈与税の申告書(予定納税の減額申請や準確定申告は28年中から記載義務あり)

 ③ H28年1月1日以降開始する事業年度の法人税の申告書

 ④ H28年1月1日以降開始する課税期間の消費税の申告書

 ⑤ H28年1月以降の死亡による相続・遺贈に係る相続税の申告書

 ⑥ H28年1月以降の金銭の支払等に係る法定調書

 ⑦ H28年分の国外送金調書

  ※  なお、申請書・届出書はH28年1月以降提出に係るものは記載義務があります。

(3)個人番号が記載された書類は、所管法令で義務付けられた一定期間保存し、期間経過後は原則

  として、速やかに廃棄する必要があります。廃棄しないときは、マスキング等で個人番号を復元

  できないようにする必要があります。

   ただし、従業員や継続的取引のある取引先の個人番号は、翌年度以降も継続的に利用する必要

  があるので、翌年以降も継続的に保管できます。

(4)このほか、社会保険関係においても、次の書類には、マイナンバーの記載が義務付けられてい

  ます。

① 健康保険法48条関係

被保険者の資格の取得、喪失、月額報酬、賞与額の届け

② 健康保険法197条1項関係

健康保険法48条以外事項の報告、提示、必要な事務の履行

③   厚生年金法27条関係

被保険者の資格の取得、喪失、月額報酬、賞与額の届け

④ 厚生年金法29条3項関係

資格喪失した被保険者が所在不明の届け

⑤ 厚生年金法98条1項関係

その他の届け

⑥ 雇用保険法7条関係

被保険者に関する届出(資格の取得喪失)

5 以上のように、マイナンバーは、税務及び社会保険関係の官公庁へ提出が義務付けられている書

 類への記載が必要なので、通常取引の見積書・請求書や領収書に記載を要求されているものでは

 ありません。

  従いまして、何でもかんでも「マイナンバーがなければ必要経費にできない」ということはあり

 ません。

   ※消費税においては、領収書等の原始記録の保存等がなされていなければ課税仕入れが認め

   られないということはあり得ますが、マイナンバーにおいてはそのような規定はありません。

    従って、マイナンバーの提供を拒否されたときであっても、一律に経費にできないという

   ことはありません。

    ただし、税務の法定調書等の提出を要する取引先に関しては、マイナンバーの提供を依頼

   しなければならないことになります。もし、提供を拒否されたとしても、その経緯を詳細に

   記録しておけば、経費を否認されることはないのではないかと思われます。(税務署側の経

   費否認は単にマイナンバーがないということのみでは難しいと思われます。)

信託(民事信託)について

1 信託とは、個人の持っている財産の一部を、個人の財産から分離し、分離した財産(信託財産)の管理運用を第三者に委託する契約等(信託行為)の制度です。

  信託財産の名義(所有権)は、信託を委託した者(委託者)から受託した第三者(受託者)に移転しますが、受託者は受託した信託財産を、受託者自身の固有財産とは区別して財産管理(分別管理義務)をする必要があります。

  このため、不動産の所有権移転登記では、登記原因を「信託」とし、登録免許税も千分の四に軽減(通常は千分の二十)されています。また、委託者は、受託者に財産を譲渡したわけではありませんので、所有権の譲渡による譲渡所得は発生しません。

    ※信託とは①特定の者(受託者)が、②財産を有する者(委託者)から移転され

    た財産(信託財産)について、③信託契約(委託者の遺言等でもよい)により、

    ④信託目的に従い、⑤財産の管理処分等の必要な処分をすることです。

 なお、信託契約は、委託者と受託者が契約を締結することにより成立し、後述の受益者は契約当事者とはなりません。

2 民事信託は、信託の受託者が、特定の者だけを相手として、営利を目的とせず、継続反復せず引き受ける信託で、非営業信託です。

    ※商事信託は受託者が営利を目的として継続反復して信託を引き受けることから、信託業法

    の適用を受け、免許登録の必要があります。

3 受託者が、信託財産を管理運用して得た利益を受け取る権利を「受益権」といい、受益権を有する者を「受益者」といいます。受益者をだれにするかは、全くの自由で、委託者本人でも第三者(法人でもOK)でもかまいません。

 税務面では、信託財産に属する資産・負債は受益者のものとみなされ、信託財産の管理運用による利益は、受益者の所得とされます。(他益信託=受益者等課税信託)

 さらに、受益者が委託者以外の第三者のときは、当該信託に関する権利を委託者から贈与されたものとみなされます。

 但し、受益者が委託者であるとき(自益信託)は贈与があったものとはみなされません。

 受益者が個人以外(法人等)である時は、受益者を個人とみなして、贈与税の対象となります。

    ※受託者は、あくまで管理者の立場なので、信託財産に関する上記の課税関係は生じませ

    ん。(管理手数料等の報酬は課税されます。)

4 受益者の受益権については、信託財産からの収益のみの受益する権利(収益受益権)と信託終了時残った信託財産の交付を受ける権利(残余財産受益権=元本受益権)に分けることができます。

 収益受益権者(収益受益者)は、信託財産が委託者から受託者に交付されたとき(通常は信託契約の効力発生日)に、収益受益権の贈与があったものとされます。

 残余財産の受益権者(元本受益者)も、原則として信託財産が委託者から受託者に交付されたとき収益受益権の贈与があったものとされます。つまり、信託の終了前から自己の受益債権を確保するための権利を有するため、受益者として現に権利を有する者とされることになります。

 しかし、次のような場合には、信託財産の受託者への交付時には「受益者として現に権利を有さない」ことから、それぞれの事由が発生した時に元本受益権の贈与があったものとされます。

 ①元本受益権の付与(発生)に停止条件が付与されているとき。

 ②委託者死亡のときに元本受益権を取得する定めのある信託のとき。

 ③委託者が死亡するまでは原則として受益者の権能を有しないとされているとき。

 ④元本受益者が帰属権利者(収益受益者への給付が終了した後に残存する財産の給付を受ける権 利を取得=受益債権を確保するための権利を有さない)であるとき。

  ①は条件成就のとき、②③は委託者死亡のとき、④は収益受益者への給付が終了したときに、贈与(もしくは相続・遺贈)があったものとされます。

5 信託受益権の評価は次によることになります。

 ①元本と収益の受益者が同一の場合は、財産評価通達で評価した信託財産の価額。

 ②収益受益権の場合は、信託契約の効力発生日(贈与があったとみなされる日)の現況において推算した金額(信託契約期間の将来受けるべき各年の利益の価額について、基準年利率による複利現価率を乗じて各年の利益の金額を算出し、これを合計した金額=年々基準年利率の複利分だけ逓減した金額の合計)。

 ③元本受益権の場合は、①から②を控除した価額。

6 信託受益権は、受益者が死亡した場合に、次の受益者、またその次の受益者、さらにその次の受益者を順次あらかじめ定めていたとき(受益者連続型信託)は、受益者の移転のつど信託財産が相続税(贈与税)の課税対象とされます。

 受益権の承継回数には制限はなく、また、承継する受益者は信託設定当時現存している必要はありません(まだ生まれていない孫・曾孫とすることもできます。)が、信託を設定してから30年経過後は、受益権の承継は1回しか認められません。

 また、生まれていない孫・ひ孫等が次の承継受益者となったときは、受益者が存在しない信託として「法人課税信託」(法人税法第4条の6)の適用を受けます。したがって個人である信託の受託者は、受託者個人の財産として区別した受託財産について、法人と同様に法人税の申告納付義務を負うことになります。

 さらに「法人課税信託」の適用を受けるということは、亡くなった委託者から贈与があったものとして、法人税の受贈益に対する課税が行われ、かつ相続税法上の相続税も信託財産の相続があったものとして、相続税が課税されます(法人税の受贈益に対する課税された税額は相続税から控除されます)。

 これに加えて、委託者が生前に、生まれていない孫等を受益者とした場合は、「法人課税信託」たる受託者(法人とみなされてしまう)に対する信託財産の贈与として所得税法上の時価によるみなし譲渡の適用を受けます。

 そのうえ、生まれていなかった孫等が出生し、受益権を取得したときは、信託財産の贈与があったものとして、贈与税が課されます。

 このように、受益者のいない状態での「法人課税信託」は、多大な税金の負担が生じてしまうことがありますので、要注意です。(世代飛ばしによる節税防止策はヤブヘビになる?)

 受益権自体は、受益者の死亡により受益者の相続人に相続されますので、受益者の存在しない信託とならないように注意しましょう。

   ※委託者が遺贈による信託したときは、委託者の相続人は委託者の地位を相続せず、また受益者指定権等も相続されません。(信託契約等で、別段の定めをできます)

7 信託は次の場合に終了します

 ①委託者及び受益者が合意したとき

 ②信託契約等(信託行為)で定めた事由が生じたとき

 ③信託の目的を達成したとき

 ④信託の目的を達成することができなくなったとき

 ⑤受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が1年を継続したとき

 ⑥受託者が欠けた場合であって、新受託者が就任しない状態が1年間継続したとき

 ⑦信託財産が費用等の償還等に不足している場合において、受託者が信託を終了させたとき

 ⑧信託の併合がされたとき

 ⑨特別の事情による信託の終了を命ずる裁判があったとき

 ⑩信託財産について破産手続開始の決定があったとき

 ⑪委託者が破産手続開始の決定等を受けた場合において、信託契約の解除がさたとき

 ⑫不法目的で信託がされた場合等で、裁判所が信託の終了を命じたとき

 8 受益権は信託契約等で別段の定めがなければ、相続の対象となります。

  また、信託契約の委託者の相続においては、当該受益権は、遺留分減殺請求の対象となります。

9 受託者が、信託業法の信託業(信託の引き受けを行う営業)を営むときは、内閣総理大臣の免許を受け、登録する必要があります。これをせずに信託業を営んだときは3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金の処せられ(併科され)ます。

 信託の引き受けを行う営業とは、「営利を目的として継続反復して信託を引き受ける」ことから、不特定多数の委託者・受託者との取引が行われうるか、という実質に即して判断することになるので、不特定多数の委託者を予定していない場合には信託業には該当せず、信託法の適用外と考えられます。

成年後見制度について

1 成年後見人(法定後見)

 法定後見人は、民法上の、事理の弁識能力がない(意思能力がない)状態のとき本人の希望は尊重されるが、希望した人が成年後見人に選任されるとは限りません。

 後見人には、後見監督人が付される場合があります。

 後見監督人がいるときは、営業や、財産の処分、金銭等の借入等の行為を後見人がするときは、後見監督人の同意がいります。

2 任意後見人

 本人が、後見人の候補者と任意後見の契約を交わすことによって、本人の事理弁識能力が欠けた時の本人の生活療養及び財産管理の全部または一部を委託します。(契約書は公正証書が必要。)

 家庭裁判所により任意後見監督人が選任されたとき、任意後見契約による、各種後見事務が開始します。(任意後見契約の効力が生じる。)

 任意後見監督人は、本人、四親等内の親族、任意後見受任者の請求により家庭裁判所が選任します。

 任意後見人は、特に資格の制限はなく、法人でも受任は可能です。

3 後見人の職務

 成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務全般(但し委任者の居住用不動産の処分には家庭裁判所の許可がいる。)

 任意後見の場合も同様だが、契約事項に限定される。

4 任意後見の利用形態

(1)  将来型 

 任意後見契約締結後、委任者の判断能力が低下した段階で、家庭裁判所による任意後見監督人選任により効力が生じる契約形態

(2) 移行型

 契約時に、通常の委任契約による財産管理契約と任意後見契約の両者を締結し、委任者に判断能力がある間は、委任契約による財産管理等を委託し、委任者の判断能力低下後は、家庭裁判所による任意後見監督人の選任により任意後見契約の効力が生じる契約形態(委任契約から任意後見契約に移行する)

(3) 即効型

 委任者の判断能力がすでに低下しているときに、任意後見契約成立後すぐに、家庭裁判所に任意後見監督人選任を申し立て、任意後見監督人選任により任意後見が効力を生じる契約形態

5 公証人の関与

 公証人は、任意後見契約公正証書の作成に当たっては、必ず委任者に面接して、意思確認等を行い、委任者に意思能力がないと判断した時は、公正証書の作成を拒否します。また委任者の意思能力に問題があると判断した時は法定後見の申し立てを勧めることとしています。

6 成年後見登記制度

 後見等の公示のため東京法務局後見登録課に法定後見の登記等の制度があり、法定後見(保佐、補助)の場合は、家庭裁判所の嘱託で法定後見等の登記がされ、任意後見の場合には公正証書を作成する公証人の嘱託で任意後見の登記がされます。本人等の特定の方は登記事項の証明書、登記されていないことの証明書の交付請求ができるようになっています。

7 結論

 成年後見制度は、成年被後見人の保護を目的とする法制なので、相続・事業承継を円滑に進めることを目的とした制度ではありません。

 委任者の生活療養看護が、委任者の財産管理と並んで受任者の重要な事務となっています。

個人事業を法人成させるときの疑問点(一般社団法人は得?)

1 法人成のメリットとしては次のようなものがあります。

(1)事業による利益が、ご本人及びご家族に対する給与(役員給与)とすることができることから、所得を分散することができ、かつ、全員が給与所得控除の適用を受けられるため、課税される所得を減少させることができる。

(2)社会保険が強制適用となることから、健康保険、厚生年金を標準報酬に従って支払うことになるが、その半額を法人の福利厚生費として経費に計上できる。

(3)所得税法の累進税率に比し、法人税の累進税率の方が低くなるケースが多い。

2 法人成のデメリットとしては次のようなものがあります。

(1)法人の所得が赤字もしくはゼロであっても、法人住民税の均等割(最低毎年7万円)の税負担が生じる。

(2)社会保険が強制適用となるので、従業員の社会保険の金額の半額を法人が負担しなければならない。

 また、役員・従業員が60歳を超えても、70歳までは厚生年金の保険料を、75歳までは健康保険の保険料を支払わなければなりません。

 さらに、給料が安くても(例えば5万円以下でも)健康保険の最低月額5,782円もしくは6,699円、厚生年金の最低月額17,124円の保険料を支払わなければなりません。(半額法人負担)

3 法人にも、いろいろと種類があり、どのような法人を活用するかで、様々な場面で大きく違いますが、大きく分けて次の3つに分かれます。

  第1 営利を目的とし、会社法の規定により誰でも設立できる株式会社・合同会社・合資会社・合名会社

  第2 公益事業を目的とし、目的に応じた法律により、目的に応じた所轄官庁の許認可を得て設立できる各種公益法人(公益社団法人・公益財団法人・認定特定非営利活動法人等)

    第3 これらの中間の性質を有する一般社団法人、一般財団法人等があります。

 第2のタイプは、税制上原則として法人税は非課税とされ、34種類の収益事業を営むときは収益事業に係る所得(収益事業に係る収入―収益事業に係る経費)のみに法人税等が課されます。

 第1のタイプと第3のタイプは、法人の全所得に対して法人税等が課されます。

4 法人の設立のとき、法人の規模を大きくするときには、財産の拠出が必要で、また利益が生じた時には利益の分配、解散した時には法人の残余財産の分配(帰属)の問題が生じます。

 まず財産の拠出時には、拠出者の譲渡(みなし譲渡)による所得税の課税、及び拠出を受けた法人側の受贈益による法人税の課税、並びに持分等の無い第2・第3のタイプの法人に対する相続・贈与税の課税が生ずる場合があります。

 つぎに、第1のタイプの法人は当然に利益の配当をできますが、第2・第3のタイプの法人には持分等がないので利益配当はできません。

 法人の残余財産については、第1のタイプの法人は当然に株主・出資者に残余財産の分配請求権があります。

 第2・第3のタイプの法人は持分等が無いので、一般的には「定款の定め」、各種「総会の決議」

により残余財産の帰属者を決定しますが、多くの公益法人は「国、地方公共団体、他の公益法人等へ残余財産が帰属する」旨の定款の作成を義務付けられています。(最終的に処分先が決まらないときは国庫へ帰属)

  平成30年の相続税法の改正で、第3のタイプの法人のうち、特定一般社団法人等(法人税法の同族会社に類する概念を、相続税法において、3親等以内の親族及びその関係者によって支配しているとされる一般社団法人及び一般財団法人を特定一般社団法人として導入)制度が新たに創設され、当該法人の同族理事の死亡による相続のとき、当該法人の純資産のうちの被相続人たる同族理事の持ち分に相当する額が当該法人に相続されるという考え方で、当該持ち分相当額を相続財産に加え当該法人に相続税を課税されることになりました。

 特定一般社団法人等とは次の要件のいずれかに該当する一般社団法人、一般財団法人です。

 イ 相続開始直前の時点で、同族理事の人数が総理事の人数の総数の二分の一を超えている

 ロ 相続開始前5年間のうちに、上記イの状態が3年以上ある

 従って、理事の決定権を持ち、法人の意思の決定機関である一般社団法人は社員総会、一般財団法人は評議員会の構成員である社員、評議員については上記要件に掲げられていないので、同族理事の人数を理事総数の二分の一以下にすれば、これによる相続税の課税をされることはありません。

5 法人が財産として、相続の対象となるかについては、第1のタイプの法人では株式、出資等を財産評価通達に従って算出された価額が相続税の対象となる財産となりますが、第2・第3のタイプの法人には持分がありませんので、相続税の対象となる財産とはなりません。

 ただし、返還義務のある「基金」については、基金の拠出者の相続財産になります。(基金は社団法人の特有の制度です)

6 どの法人タイプの法人が、個人事業の法人成として使いやすいかについては、第2のタイプは設立運営等に対して官公庁の関与が多く、様々な制約があるので、気軽に使うのは難しくなります。

 従来から、第1のタイプを使うのが一般的ですが、この場合には株式・出資等の持分が相続財産の対象となり、また相続のときに持分が分散され、経営権の継承が危うくなる危険性が生じるときがあります。

 では、第3のタイプ特に一般社団法人の場合はどうかというと、次の特徴があります。

 ① 持分がないので、相続の対象とはならず、相続税の負担はなく、経営権の相続による分散もない。

 ② 経営権は社員総会が持ち、社員は1名以上いればよく(定款に記載)、社員は法人でもよいこととされ、社員の新規加入は社員総会の決議によることから、あらかじめ社員を親族もしくは同族法人で固めておけば、経営権(社員権の譲渡という概念はない)の分散は生じず、親族による経営権の承継が確実なものとなります。

 ③ 法人が事業をするにあたっての財産の拠出には、非常に難しい問題(所得税法のみなし譲渡課税、持分なし法人に対するみなし贈与課税、法人の受贈益課税による多大な税額負担が生じる危険性)があります。しかし、基金制度を上手に活用し、まず金銭等を基金として拠出し、この金銭等により、事業に必要な機械器具備品を購入し、利益の中から基金を返済してゆくことも可能です。

 なお、平成30年の相続税法の改正で、役員(理事)等に占める親族の割合が三分の一以下となる定款の定めがない場合等は、同族会社の行為計算の否認の規定が適用される(相続税及び贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められる)可能性があります。

※ただし、含み益のある不動産・有価証券を拠出財産とすることは、時価によるみなし譲渡課税等の多大な税負担が生じることがあるので注意を要します。

7 以上の検討により、一般社団法人がいかに使い勝手の良い制度であるか理解いただけると思います。

   以下一般社団法人の活用例を若干列記します。

   ① 個人事業の法人成

   ② 株式会社の安定株主、合同会社、合資会社、合名会社の社員

   ③ 信託の受託者

   ④ 永続的な財産管理法人

   ⑤ 任意後見人

認知症に備えて財産管理をするとき

1 会社のオーナー経営者、賃貸アパートや貸しビルの経営者、株式等の証券、預貯金等の金融資産をお持ちの方が認知症になり、徐々に判断能力を失い、最後には意思能力を失うこともあります。

この場合には家庭裁判所で選任された法定成年後見人が付され、ご本人の財産の処分や家具その他の新たな財産の購入などの権限は、全て法定成年後見人に与えられてしまうことから、ご家族の相続対策のための財産の処分や遺言書の作成はできなくなります。

 成年後見人の職務は、成年被後見人である本人の生活、療養看護、財産の管理に関する事務全般とされ、その目的は「成年被後見人の保護」のために限定されているので、ご家族のためにいろいろな相続対策を図ることが本人の財産の保護=維持に反するとされたときには、全く何もできないことになってしまう場合も生じます。特に、認知症にかかる前の本人の意思にかかわらず、現在の本人の保護を目的としているため、例えば子・孫への贈与税の基礎控除(110万円)内の金銭等の贈与、極端な話お年玉さえも、成年被後見人の財産の保護に反する(財産が減少する)ことから、できないことになりかねません。

2 したがって、認知症になる前に何らかの対策を立てておくことが肝要です。このための対策として以下のものが考えられます。

 ① 早めに生前贈与をしておく

 ② 遺言書を作成しておく(できれば公正証書遺言が望ましい)

 ③ 親族等のうちの信頼できる者を任意後見人とする任意後見契約を締結しておく

 ④ 財産の全部もしくは一部を信頼できる親族等に信託する契約を締結しておく

 ⑤ 一般社団法人を設立し、徐々に財産を移管し、資産管理法人とする。

3 早めの生前贈与の方法としては次のものがあります。

 ① 通常(暦年課税)の110万円の控除を利用した財産の贈与

 ② 子・孫に対する教育資金の一括贈与(最大1,500万円、信託会社等への信託が要件)

 ③ 子・孫に対する結婚・子育て資金の一括贈与(最大1,000万円、信託会社等への信託が要件)

 ④ 子・孫に対する住宅取得資金の贈与

 ⑤ 配偶者に対する居住用不動産の贈与

 ⑥   相続時精算課税制度を使った推定相続人(通常は子)に対する財産の贈与

4 不動産を生前贈与する場合には、特に相続時に利用できる「小規模宅地等の特例」との関連を注意する必要があります。

 「小規模宅地等の特例」の対象となる宅地等とは、相続人である個人が相続により取得した宅地等のうちに、相続開始の直前において、

 ①  被相続人等(被相続人及び被相続人と生計を一にしていた親族、以下同じ)が居住の用に供し    ていた建物の敷地

 ② 被相続人等が事業の用に供していた建物等の敷地

 ③   被相続人等が貸付事業用に供していた建物等の敷地

である宅地等で、一定の親族である相続人が取得した場合には、相続税の課税価額の算出する際の当該宅地の評価額を、①のときは80%、②のときは80%、③のときは50%減額できます。

つまり、1億円の評価額がある宅地について、①のときは2千万円、②のときは2千万円、③のときは5千万円で、評価できることになるので、多額の相続税を節税できる制度です。

 問題は、「一定の親族である相続人が取得したとき」に該当するがどうかです。

②、③は、親族である相続人が取得し、事業を継続し、当該土地建物の保有を継続することが要件となっていますが、①は被相続人の配偶者の方、被相続人と同居もしくは生計を一にしている親族方、ご自分の家をお持ちでない一定の親族の方が相続することが要件となっています。

 この場合の一定の親族の要件は、被相続人の方の配偶者・同居親族がいない場合の別居親族で「3年以内に自己・自己の配偶者が所有する家屋に居住したことがないこと」とされています。

 それゆえ、子・孫に住宅資金の贈与や相続時精算課税を利用して、居住用住宅取得の援助をしたときは、その子・孫は、相続時に自分の家を持っているので、この特例が使えなくなるということを理解しておく必要があります。

5 相続時精算課税を選択する生前贈与は、その当事者(贈与者、受贈者)間では、暦年課税(110万円)が使えなくなるということを理解しておく必要があります。

 その意味はつぎのとおりです。

 相続時精算課税を選択したカップル(贈与者=尊属A及び受贈者=卑属Bとします)は、選択した年以降Aの相続があるまでの各年に、AからBに贈与した財産は、すべて相続時精算課税による生前贈与財産とされ、2,500万円を超える部分の贈与についてはその都度(年ごと)に20%の贈与税を支払わなければなります。

 その後Aの相続のときに、Bが相続時精算課税によって贈与された財産の全部が贈与のあったときの申告時の価額(その当時の評価額)がAの相続財産に加算され、Bの負担する相続税から当該相続時精算課税に係る贈与税を控除するという計算になります。

 したがって、経済がインフレ傾向のときには効果がありますが、デフレのときには逆効果です。

 また、これを使って新築マンションなどを購入した時は、買ってすぐ3割減、建物は減価償却により価額が下がり、仮に土地の評価が上がっても、区分所有による敷地の持分割合が低ければそれほど効果はありません。

 ただし、消費税が10%に増税されたときは、住宅取得資金の贈与の非課税枠が時限的に倍以上になりますので、この制度と併用すると有効かもしれません。

 なお、相続時精算課税を選択した当事者A以外の方から、Bが贈与を受けるときは、Bは110万円暦年課税の非課税を使えますのでご注意を。

6 任意後見契約を利用して、将来認知症になったときに信頼できる親族に、財産管理をしてもらう方法はどうでしょうか。

 任意後見について、別の項「成年後見制度について」で概要を説明していますが、その契約の効果の発生が、家庭裁判所の任意後見監督人の選任にかかっていること、任意後見人の職務が法定後見と同じ職務を負っていることから、「成年被後見人の保護」のために、ご家族のために相続対策を図ることが本人の財産の保護=維持に反することになりかねないことになります。

7 信託契約を活用した場合はどうでしょうか。

 信託については別の項「信託(民事信託)について」で概要を説明していますが、ポイントとしては、受益者を委託者(信託を委託する財産の所有者)とは「別の者」としたとき(他益信託=受益者等課税信託)には、受益権が発生した時点で、贈与税(相続税)が課される、ということを理解しておかなければなりません。

 したがって、認知症に備えるための信託は、自益信託(委託者本人を受益者とする信託)にしたほうが良いということになります。

 相続人に対する遺産分割による争いを避けるために、遺言を活用することもできますが、ご本人が認知症を発症してからお亡くなりになるまでの期間については、財産の管理が不便になるだけでなく、処分ができず、預金を引き出すことも難しくなります。

 そのために任意後見人制度がありますが、前述のように使い勝手が悪い制度ですので、このような不便を避けるため、遺言の代わりに相続人を受託者とする「信託(民事信託)」を、遺産分割する財産ごとの自益信託として設定し、信託の終了原因を本人の死亡とし、受託者を信託終了後の元本の帰属権利者(遺贈による元本受益者)とした場合はどうでしょうか。

 受益者が委託者以外のときには、受益権が相続の遺留分減殺請求の対象となることは、遺贈と変わりませんが、ご本人が認知症の間の信託財産は、受託者の受託財産として、受託者が任意に管理・処分ができることになります。その後本人がお亡くなりになったときは、死因贈与として相続財産の対象となります。

8 一般社団法人を活用する方法は?

 一般社団法人には持分がないので、相続の対象財産でないから、相続対策には「いいことづくめ」かというと、そうではありません。上記1「個人事業を法人成させるとき」に記しましたが、個人の財産を法人に拠出するときに、やり方を間違えると、みなし譲渡による所得税の課税、法人の受贈益の法人税の課税、持分無き法人へのみなし贈与税の課税、といった多大な税金の負担が生じることがあります。

 それゆえ即効性のある相続対策として、一般社団法人を活用することはお勧めできません。相続財産を、何も考えず簡単に一般社団法人に移転させることは、非常に危険な行為だということを理解しておきましょう。

 さらに、法人にその事業用の土地を貸している場合の、上記(4)の小規模宅地の活用に関して、一般社団法人は特定同族会社とはなり得ないので、80%評価減の事業用宅地ではなく、50%評価減の貸付事業用宅地とされてしまうことも理解しておきましょう。

 もっとも、個人事業の法人成のメリットの効果は十分にあり、不動産、有価証券等の含み益を有する資産を除いた事業用資産を簿価で法人に譲渡することによって、個人から法人に資産の一部を移転し、その資金は、現金等による基金を拠出してあてておけば、各種の税金を発生させないこともできます。

 また、同族会社の経営者の場合は、会社の経営状態のよくないときに、評価の低くなった株式を法人に譲渡することも可能です。(時価評価が難しく財産評価通達で評価せざるを得ないことになるかと思います。)

 その他、法人を、上記(7)の自益信託の受託者及委託者本人死亡後の遺贈による元本受託者とすれば、その後の法人の財産は相続財産とはなりません。

 したがって、一般社団法人は相続対策の一つのアイテムとして利用するのが賢明といえます。上記のように、できるだけ各種の税金の発生しない形態で、一般社団法人に事業を移転し、当該事業による利益をできる限り法人内に留保すれば、その分相続財財産が減少するということです。

ただし、一般社団法人の社員の入退社には、気を付けておかなければ、第3者に実質的経営権を奪われてしまう危険性がありますので、十分に注意してください。

障害のある子供のための対策

1 施設に入所している脳に障害のある子供さんがいるときに、その費用をご両親等の親族が支払うときは扶養義務の履行となるので、特に税金の問題は生じません。

 ところが、その費用を負担している方が痴ほう症にかかり意思能力を失った時は、その方の意志に基づく費用の支払いができなくなります。

 2 痴ほう症に関しては、まず成年後見制度があります。  

 成年後見制度のうち、法定後見でも当然に扶養義務の履行に相当する子供さんの施設の入居費の負担は、問題なくできますが、本人の保護が優先され、本人の意思とは無関係に扶養義務の履行に相当な負担金額とされることになります。

 任意後見の場合は、任意後見契約において、施設の入居費の費用のほか具体的な扶養義務の内容について規定することによって、できるだけ本人の意思に沿ったきめの細かい扶養義務が履行できることになります。

 ただしこの場合では、本人が死亡したときに、本人の相続財産は特に遺言のない限り法定相続人に相続されるため、障害のある子供さんをご自分の死後もしっかり守ってあげたいというご本人の意志が守られるとは限りません。

3 次に、生前贈与の方法はどうでしょうか。

  障害者の方に対する贈与に関しては、「特定障害者に対する贈与税の非課税」制度があります。

 これは、障害のある方のうち、「①精神の障害により事理を弁識する能力を欠く状況にある者、②精神保健指定医等により知的障害があると判定された者、③精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている者、④65歳以上の精神に障害のある方で①・②に準ずる方として市区町村長の認定を受けている者」に該当する方が、贈与者を委託者とし、信託会社等を受託者とする「特定障害者扶養信託契約」の受益者となったとき、その信託受益権が次の区分で贈与税の非課税財産とされます。

  ・特別障害者に該当する特定障害者の方は、6,000万円の信託受益権が非課税財産となります。

   ・特別障害者以外の特定障害者の方は、3,000万円の信託受益権が非課税財産となります。

  この場合の委託者は、特定障害者の方のご両親に限られずだれでもよいですが、受託者は信託業法の適用を受ける信託会社及び信託業務を営む金融機関に限られています。したがって、民事信託は使えません。

 なお、この信託も、信託契約に変わりがありませんので、委託者の相続に当たっては遺留分減殺請求の対象となります。

特定障害者扶養信託契約の対象にできる財産は、金銭・有価証券・金銭債権・居住用不動産・賃貸用不動産・立木とともに信託される立木及び土地です。(いずれも収益のできる資産で、収益を生まない単なる農地、山林や雑種地は対象にならない場合があります。また、居住用不動産は単独の信託はできず、他の収益のできる資産とともに信託される必要があります。)

 当該契約は、取り消しすることができず(詐害信託の取り消しを除く)、合意による終了ができないこととされ、受益者の変更ができない旨の定め、受益者たる特定障害者の方の死亡の日に終了することとされています。

 また、信託財産の交付としての金銭の支払は、特定障害者の方の生活または療養の需要に応じるために、定期かつ実際の必要に応じて適切に行うこととされています。

 さらに、受託者に信託された財産の運用は、安定した収益の確保を目的として適正に行うこととされていること、信託に係る受益権は譲渡又は担保に供することができない旨の定めがあることが要件とされています。

 特定障害者扶養信託について、障害者非課税申告書を提出した場合、当該信託財産は、相続税の相続開始前3年以内の贈与財産に含める必要はなく、当該相続に係る相続税の障害者控除の適用も受けられます。

4 それでは、信託(民事信託)はどうでしょうか。上記3の特定障害者扶養信託で、十分な対応ができるかと思いますが、限度額があること、

 ご両親の元気なうちはご自分で面倒を見たいし財産を管理したい、信託限度を超える財産を障害を持つ子供さんのために残したい等々、特定障害者扶養信託では不十分なときもあります。

 したがって、特定障害者扶養信託を活用しつつ、ご自身が痴ほう症になったときに備えて、信頼できる者を後見人とする任意後見契約を利用する、また、信頼できる者を受託者とする自益信託を利用する方法が賢明です。

お孫さんに財産を残す方法

1 「かわいいお孫さんに、子供を通さずできるだけ多くの財産を贈りたい、残してあげたい。」と考えている方に対する贈与税の非課税の制度としては次のものがあります。

①     暦年贈与の非課税

②     教育資金の一括贈与の非課税

③     結婚子育て資金の一括贈与の非課税

④   住宅取得資金の贈与の非課税

2 これらの制度は、子供さんお孫さんに対してする贈与の非課税枠として上記(1)①〜④に対応して、受贈額が、受贈者1人当たり、それぞれ次の金額が限度となります。

①は毎年合計110万円まで非課税となります。

 (参考)ジュニアNISAを利用し、年80万円づつ、5年間で最大400万円を上場株式等(公社債等を除く)に運用した場合(未成年者口座)、その口座内の配当・譲渡益が非課税となるため、さらに有利となります。但し、令和5年12月31日までに設定する必要があり、令和4年3月31日までは20歳まで、4月1日以降は18歳までの子供さんが対象になるので、小さなお子様ほど有利です。また継続管理勘定に移管(ロールオーバー)すれば、令和6年から令和10年まで使えます。但し、未成年の間は自由な払い出しができなくなる(高校を卒業する年の1月1日から払い出しが可能なので、大学の入学金や授業料に充てることは可能です)など、非課税の未成年者口座を維持するにはいろいろと制限があります。

②は令和3年3月31日までの間に非課税申告書を1回だけ提出することができ、1,500万円まで非課税となります。(不足するときは合計で1,500万円となる残額まで追加非課税申告できる)

③は令和3年3月31日までの間に非課税申告書を1回だけ提出することができ、1,000万円まで非課税となります。(不足するときは合計で1,000万円となる残額まで追加非課税申告できる)

④は住宅の取得にかかる費用の消費税が10%か否か、良質な住宅か否かにより、次の通りになります。ただし、3年内にすでにこの適用を受けたときは受けられません。

         取得時期    良質な住宅   先以外の住宅

消費税10%  31.4〜2.3   3,000万円    2,500万円

       2.4〜3.3     1,500万円    1,000万円

       3.4〜3.12   1,200万円     700万円

消費税8%   〜27.12   1,500万円    1,000万円

       28.1〜2.3    1,200万円     700万円

       2.4〜3.3   1,000万円     500万円

       3.3〜3.12    800万円     300万円

なお、①〜④は重複適用できます。

3 ②、③の贈与は、信託会社(信託業を営む金融機関を含む)へ信託することが必要で、それぞれの資金管理契約に基づき、その目的に沿った支出があったことを証明する領収書を信託会社に提出して、支出した費用を引き出してもらうことになります。(資金管理契約)

 資金を引き出せる期間(資金管理契約の終了時期)は、②は受贈者が30歳になるまで、③は受贈者が50歳になるまでとされ、この終了時の資金の残高に対しては贈与税が課されます。

 なお、受贈者が死亡したときには、どちらも受贈者に贈与税は課せられません。

4 このほかに世代を飛ばした財産の承継方法として、信託(民事信託)を利用することができます。

 この場合、いきなりお孫さんを受託者としたときには、かなり困難な問題(別添資料「信託(民事信託)について」を参照してください。)が生じます。

それゆえ、自益信託の形態を利用し、ご本人の死亡を原因とする受益者連続信託で、次の受益者をお子さん、そしてお子さんの死亡を原因とする信託終了の残余財産の受益権者をお孫さんとすることで、相続財産について、実質的に世代を飛ばしてお孫さんに承継することは可能です。ましてや、受託者が賢明なお孫さんであれば、浪費家の子供さんには財産の管理処分権が移ることはないので、当初の目的をかなえることができます。

5 一般社団法人を活用できますでしょうか?

 一般社団法人の相続時の活用については、一般社団法人の社員をご本人とお孫さんにしておけば、浪費家の子供さんは一般社団法人へ移動した財産には、手を出せなくなりますので、当初の目的達成の有効なアイテムとなります。

 ただし、安易にご本人の相続財産を一般社団法人に移動すると、非常に難しい問題が生じますので、十分な検討を要します。

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