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家族の法律関係
(扶養・贈与・生活保護・新しい家族関係に関して)

1 出生から始まる法律関係

 私たちが生まれてから死亡するまで、様々な法律関係を形成し、権利義務が発生し、承継し、承継させることになります。具体的には(大雑把ですが)、民法等の私法による権利義務、所得税法、相続税法、住民税法等の税法による納税義務、健康保険法、厚生年金法並びに国民健康保険法、国民年金法等の社会保険関係法による各種給付を受ける権利、保険料等の各種負担金を納付する義務等が発生します。また、サラリーマン等の労働者の方であれば、労働基準法、労災法、雇用保険法等の労働法等の適用を受け、これによる権利義務が生じます。

 例えば、子供が生まれれば、その子には憲法上の人権が発生し、特に生存権が国家により保証され、生活に必要な最低限の生活の保護の給付を受ける権利が生じ、民法第820条により「親権を行う者(通常は両親)は、子の利益のために子の看護及び教育する権利を有し、義務を負う」とされます。また、両親には、健康保険法等による出産に係る給付金(出産育児一時金約40万円)が支給され、労働基準法等による産前産後の休暇の権利が発生し、健康保険に加入している労働者であれば、産前産後の休暇中の所得を補償するために、産前42日、産後56日の出産手当金が給付され、その後の育児休暇中には雇用保険から最大2年間の育児休業給付金が給付されます。さらに、児童手当法による児童手当が中学生になるまで父母等に給付(父母等の所得、子供の数及び年齢により金額が違いますが)されます。他方、住民税では均等割が発生しますが、所得税、住民税、各種社会保険の所得に応じた税、保険料の計算については、扶養控除等による減額の対象となります。その他、民法では、出生により権利義務の主体となる資格が発生(相続、不法行為による損害賠償については胎児にも発生)し、親族・相続では、両親等の扶養義務の履行を請求する権利、親(直系尊属)等の死亡の際の相続(代襲相続)の権利を得ることができるようになります。

 死亡の際には、権利義務は消滅しますが、民法上の相続人等は、その財産(権利義務)を承継(相続)する権利(負債も承継しますので放棄もできる)が生じ、それに伴う相続税等の納付義務が課され、また、扶養されていた親族等には労働保険、社会保険等の各種遺族給付を受ける権利を取得します。

 以下家族の生活の場面々々の権利義務関係を、これから順次、整理作成したいと思います。

2 家族と相互扶助

 家族については、同性婚等が社会問題となっていますが、憲法第24条第1項では「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。」とされ、同第2項では「配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。」とされています。民法第752条では「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。」とされ、同法第725条では①六親等内の血族②配偶者③三親等以内の姻族を親族とし、同法第730条では「直系血族及び同居の親族は、互いに扶け合わなければならない。」とされ、同法第877条第1項は「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。」第2項は「家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内親族間においても扶養義務を負わせることができる。」とし、同第879条は「扶養の程度又は方法について、当事者間に協議が整はないとき、又は協議することができないときは、扶養権利者の需要、扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮して、家庭裁判所が、これを定める。」としています。したがって、扶養義務の履行の程度と方法は、当事者間の協議(同意)で、いかようにもできるのが基本となるものと考えられます。(ただし、離婚裁判等での子に対する扶養義務の程度は、大学卒業までの未成熟子に限られるようです。)

 他方、相続税法は、贈与税の非課税財産に関する規定である相続税法第21条の3第1項第2号で「扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの」の「財産の価額は、贈与税の課税価格に算入しない。」としていますが、上記の民法第730条及び第877条相互扶助義務の履行、第820条の子に対する親の監護・教育義務の履行は、立法趣旨から当然に贈与税が課税されるべきものではありません。そもそも、相続税法第1条の4及び同法第2条の2の「贈与」は、あくまで民法第549条の典型契約としての「贈与」の借用概念で、民法の扶養義務の履行は、この「贈与」には該当せず、相続税法第21条の3第1項第2号の規定は、非課税というよりは、扶養義務の履行に名を借りた、不適切に過大な贈与を防止するために、「通常必要と認められるもの」を超える扶養義務の履行には贈与税を課税するとした、みなし贈与の規定の性質を有するものと考えられます。(国税庁の平成25年12月12日付の資産課税課情報第26号「扶養義務者(父母や祖父母)から「生活費」又は「教育費」の贈与を受けた場合の贈与税に関するQ&A」について(情報)に、生活費、教育費、結婚費用、出産費用及びその他生活費についての課税庁側の解釈がされており、おおむね実費弁済的なものは贈与税の課税の対象とはならないと解釈しているようです。)

これによると、極端な話ですが、医者一人育てるのに大学への入学金、学費、寄付金等で1億円かかるといわれていますが、これも通常必要な教育費として、贈与税の課税対象とはならないことになります。成年年齢が18歳に引き下げられますので、大学生や大学院生の年齢では、親権者の教育義務がないことから、未成熟子に対する直系血族の扶養として両親や祖父母が負担することになるのでしょうが、この扶養義務の履行に贈与税がかからないということが、どこまでが妥当なのか考えさせられます。同じことは、一部富裕層の子弟の高額な費用のかかる海外留学などにも言えることです。

よって、贈与税の教育資金や結婚資金の非課税制度の存在価値がどこにあるのか考えさせられます。(金融機関の信託制度のためにあるかわかりませんが、扶養義務の先行履行たる贈与により、相続財産を減少させる効果はありますので、相続税の意図的な減税に使われることになります。ただし、遺産分割の時の特別受益の持戻しの対象にはなると思います。)

 次に、夫婦の財産関係について、民法第760条では「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。」とされています。夫婦共稼ぎのサラリーマン家庭の場合は、生活費、子供の教育看護費用、同居・別居の老いた両親等の家族の看護・介護費用等の婚姻から生ずる費用を分担し、どちらも忙しければ、家政婦、ベビーシッター、保育園・幼稚園、看護・介護施設の利用費用を、それぞれの収入のうちから金銭で支払わなければならないことになります。

ところが、専業主婦(夫)のサラリーマン家庭の場合はどうでしょうか。上記の家政婦以下の費用は、専業主婦(夫)の自家労働(=帰属所得)をもって賄っていることになります。この議論は帰属所得(=インピューテッドインカム)を正しく理解していることが前提となりますが、サラリーマンである配偶者の労働には労賃(給与所得等)という対価が発生しますが、専業主婦(夫)の自家労働には対価が発生しないということを理解することが重要です。個人の所得に関する所得税、住民税等の租税公課は、労働等の対価である収入(収入金額)からその経費(給与控除等を含む)を差し引いた残額(所得金額)に課税しますが、自家労働等の帰属所得には、対価である収入金額が発生しないので、課税される所得が生じることはありません。(このことは、本ホームページの「帰属所得の課税関係」をご覧ください。)

したがって、民法第760条の婚姻費用の分担は、サラリーマンである配偶者の労働の対価による所得と専業主婦(夫)の自家労働による帰属所得により、相まって賄われているということを理解しなければなりません。

夫婦間の財産について、民法第762条第1項は「夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう)とする。」、同第2項で「夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。」とされ、同法第758条第3項では共有財産については、前項の請求とともに、その分割を請求することができるとされています。専業主婦(夫)のサラリーマン家庭が全額借入金で自宅の土地家屋を購入した場合、通常はサラリーマンである配偶者の単独名義で登記することになると思います。その理由は、当該土地家屋の所有権の2分の1を収入のない専業主婦(夫)の名義とした場合、贈与税が課税される危険性があるからです。しかし、サラリーマンである配偶者(「夫」である場合が多い)の単独名義の土地建物の借入金の返済は、婚姻から生じる費用の分担とも認めることができることから、上記の専業主婦(場合によって専業主夫)の帰属所得による分担も含まれるはずであり、当該サラリーマンの単独所有を民法762条1項の特有財産と解することは、憲法24条2項の「財産権」は「両性の本質的平等に立脚して制定されなければならない」とする規定に反することになりかねません(専業主婦(夫)の帰属所得分の持分が潜在的にあるはず)。したがって、民法762条1項の特有財産は限定的に解釈すべきと考えられます。

このことに関連して、民法768条の離婚に伴う財産分与について、一方配偶者の財産分与請求権に対し、他方配偶者がその単独所有の自宅を分与することを、当該請求権の代物弁済として構成し、所得税法上の譲渡所得とした最高裁判例については、一般的に財産分与に適用することは妥当ではなく、その効果は潜在的に帰属所得による持分が認められる「実質的夫婦共有財産」には及ばないと解するべきです。また、最近の相続法の改正の「遺留分侵害請求権」や「特別の寄与」が金銭債権と定義されたことに対比して、財産分与は金銭債権とは定義されていないことも、特筆すべきことです。

 なお、離婚時の厚生年金分割の制度は、上記の財産分与とは関連するものではなく、当該年金の給付請求権自体が、財産分与とは別の制度である厚生年金法により年金分割請求者に帰属し、その給付時に公的年金による雑所得として課税されることになります。

3 扶養義務(及び相互扶助義務)と労働の義務と生活保護の関係

 憲法第28条第1項は「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う。」としていますが、この勤労の義務は、法律により勤労を国民に強制できる意味ではないと解されています。他方、生活保護法第4条は、第1項で「保護は、生活に困窮する者が、その利用しうる資産、能力その他あらゆるものをその最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。」とし、第2項は「民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。」としている。第3項は「前2項の規定は、急迫した事由がある場合に必要な保護を行いことを妨げるものではない。」としつつも、同法第60条で「被保護者は、常に、能力に応じて勤労に励み、自ら、健康の保持及び増進に努め、収入、支出その他生計の状況を適切に把握するとともに支出の節約を図り、その他生活の維持及び向上に努めなければならない。」とし、第61条「届け出の義務」、第62条「指示等に従う義務」及び第63条「費用返還義務」等の義務を課している。また、同法第77条は、第1項で「被保護者に対して民法の規定により扶養の義務を履行しなければならない者があるときは、その義務の範囲内において、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の全部又は一部を、その者から徴収することができる。」としています。

 つまり、被保護者にアルバイト収入があるときは、その手取り額(社会保険や所得税・住民税、通勤費等の必要経費を差し引いた残額)から一定の控除額を差し引いた金額を、生活保護支給金から控除し、さらに、民法上の扶養義務者からの扶養及び年金、児童手当等の他の法律に定める扶助を差し引いた額が、被保護者に支給される金額となります。

 また、生活保護法は、第57条で「公課禁止」、第58条で「差押禁止」、第59条で「譲渡禁止」を規定しています。

 さて、民法の規定による扶養義務とは、通説によれば、同法第752条の夫婦の扶助義務、第820条の親権者の子のための看護及び教育義務は、生活保持義務で、同法第877条第1項の直系血族及び兄弟姉妹、第2項の家庭裁判所により扶養義務を負わされた三親等以内の親族の義務は、生活扶助義務であると解されています。前者は自己と同程度の生活をを保障する義務で、後者は自己の社会的身分にふさわしい生活をしてなお余力がある限りにおいて義務があるとされています。なお、親権者でない親の扶養義務は生活保持義務(資力に応じて扶養料を負担)とするのが通説です。

 いずれにしても、生活保護に関しては、家族の機微に触れる微妙な問題を多く含み、内容が複雑でわかりにくく戸惑うことが多いため、その申請にはとても勇気がいります。また家族関係が希薄で、扶養義務の判断を、それぞれの立場で適切に行うことが難しいことも多いことから、市町村等の行政側も生活保護法第77条第1項の費用徴収を安易にすべきではないと考えられます。さらに、一部のマスコミが、特定の芸能人の、家族関係が希薄である直系尊属の方が生活保護を受けていることを揶揄して、面白おかしく報道することがありましたが、このようなことは、絶対にしないようにしていただきたいものです。

4 扶養控除、遺族給付等における家族の考え方

 所得税、住民税の扶養控除における扶養親族は、考え方が全く違います。まず、扶養親族は、民法第725条の親族(六親等内の血族及び三親等内の姻族、配偶者は別途配偶者控除)を借用し、これに「生計を一にすること」と「所得制限(合計所得38万円以下)」の制限を加え、扶養控除(配偶者控除)の対象とし、課税所得の計算上所得控除としています。なお、生計一親族のなかで複数の扶養者が被扶養者を扶養しているときは、一人の扶養者のみが当該被扶養者を扶養控除の対象とできます。(複数の扶養者の扶養控除対象被扶養者となることはできない。)

 健康保険法では、被扶養者の要件が、また違っています。まず、親族等関係の要件について、①主として被保険者(=扶養者)により生計を維持されている場合は、「曽祖父母、祖父母、父母、養親、配偶者(内縁関係を含む)、子、孫、兄弟姉妹」、②被保険者と同居し、かつ、主として被保険者により生計を維持されている場合は、「おじ、おば、甥、姪、配偶者の父母、内縁関係の配偶者の父母、継子、配偶者の弟、妹、子の配偶者、継父母」が対象となっており、「いとこ、兄弟姉妹の配偶者の父母、配偶者の兄、姉」は対象外となっています。次に、収入について、①被扶養者が被保険者と同一世帯にある場合は、被保険者の年収が130万円未満で、かつ被保険者の年収の半分未満であること、②被扶養者が被保険者と同一世帯にない場合は、被保険者の年収が130万円未満で、かつ被保険者からの仕送り(援助)額より少ないこと、が要件とされています。また、収入要件は、被扶養者が60歳以上の時は180万円未満とされています(月当たり108,334円、60歳以上15万円)。なお、国民健康保険、後期高齢者医療制度は、対象者全員が被保険者となるため、被扶養者の概念はありません。

 国民年金では、厚生年金保険の被保険者である第2号被保険者及び第2号被保険者の被扶養配偶者である第3号被保険者に該当しない者を第1号被保険者としています。なお、第3号被保険者には健康保険と同じ収入要件があります。第2号被保険者は、厚生年金保険料の中には基礎年金としての国民年金分の保険料が含まれているとして、別途国民年金保険料を負担する必要はありません。さらに、第3号被保険者は、2号被保険者の被扶養者として厚生年金保険料、国民年金保険料を全く負担しないこととなります。なお、厚生年金の保険料、健康保険法の健康保険の保険料は被保険者が50%負担し、残りの50%は被保険者を雇用する企業の負担となっています。

 遺族給付については、生計維持要件のほかにそれぞれ年齢要件、順位等がありますが、労働災害保険法の遺族補償給付は、「配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹」、国民年金の遺族基礎年金は「子のある配偶者及び子」、厚生年金の遺族厚生年金は、「配偶者、子、父母、孫又は祖父母」となっています。

 また、雇用保険の介護休業給付金の介護対象家族は、「配偶者(事実上婚姻関係と同様にある人を含む)、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹及び孫」です。

5 家族と代理

 幼い子供や認知症を患った方等、ひとりで日常生活を過ごすことが難しい状態のときに、代理という制度があります。民法第99条第1項は「代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生じる。」、第2項で「前項の規定は、第三者が代理人に対してした意思表示について準用する。」とし、第1項は「能動代理」第2項は「受動代理」と言われています。また、同法第100条で「代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示は、自己のためにしたものとみなす。ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知り、又は知ることができたときは、前条第1項の規定を準用する。」としています。いずれにしても代理人には「代理権」という権限が必要になります。

 代理権には、民法643条の委任契約等の本人の意思による「任意代理」と、親権及び未成年後見、精神上の障害により事理弁識能力に問題のある方の成年後見・保佐・補助等の法律規定による「法定代理」があります。前者の代理権の内容及び受任者は契約により自由に決定できますが、後者の代理権は法律に規定されたものに限られます。また、その選任については未成年後見は親権者が選任し、成年後見人・保佐人・補助人は裁判所が選任します。この中間的なものとして任意後見契約法による任意後見制度があります。任意後見では委任者(本人)が受任者(任意後見人)を任意に選任して、代理権の内容を「自己の生活、療養監護、財産の管理に関する事務の全部又は一部」とすることができます。

 家族の代理権の行使については、例えば、民法第824条の親権者の子の財産管理及び代表権、民法第761条の夫婦の日常家事債務の反対解釈による日常家事の代理権がありますが、行政上、実務上、慣行的に日常生活に関する代理行為は委任状なしに行われることが多く、また、住民票で同一世帯であることが確認されたときに認められる代理類似行為も多いかと思います。ただし、重要財産の取得、譲渡等、重要な法律行為については、代理権の授与なしに代理行為はできないと考えられます。したがって、家族を任意後見人に選任しておくことは、今後も重要なことだと思います。

6 新しい家族の作り方

 上記の家族の法律関係は、自然血族関係、婚姻による姻族関係を前提としていますが、健康保険や遺族給付金、損害賠償等の一部の取扱いでは、内縁による家族関係を取り込んではいますが、ほとんどの場合、特に相続の関係では、民法による親族関係(血族及び姻族)以外は認められてません。唯一の例外は、民法第792条の養子縁組と817条の2の特別養子縁組です。これにより、養子は養親及び養親の血族と法定血族関係が生じますので、上記の血族の家族関係と同じ権利義務を有することになります。なお、特別養子縁組は実方の血族との親族関係が終了することとされていますが、(普通)養子縁組は養方・実方両方の血族関係が存続します。

 昨今、性的マイナリティーの人権保護として、同性パートナーシップ証明制度を設ける地方公共団体が徐々に増え、同性内縁カップルの不貞による慰謝料請求において「実態があれば、内縁関係に準じた保護を受けられる。」とする地方裁判所の判決もあり、家族の多様性が問題となっています。

 しかし、一夫一婦制を前提とした憲法第24条をふまえて、民法その他の家族関係に関する法律が制定されているため、家族の多様性を認めるということは、一夫多妻制や一妻多夫制等の前近代的な家族関係の復活を認めるのか(もっとも、世界には一夫多妻制の家族関係や母系社会の民族を認める国家は複数あります)という問題も絡んできますので、簡単な議論ではありません。

 もっとも、日本国憲法は、父系家族を前提として作られたものではなく、次に説明する戸籍法も、その筆頭者を必ず夫とする必要はなく、妻の姓を称し、妻を戸籍の筆頭者とすることもできます(その意味での、母系家族の創出も可能です。)。そして相続の権利も、子は男・女、生年月日の順、実子・養子により差別されることなく、すべて平等の権利を有しています(後述する非嫡出子の相続分差別の違憲判決参照)。さらに、性同一性障害特例法(事実上生殖能力喪失手術(性別適合手術)を受けることが要件となりますが。2019.1.24最高裁決定参照)の性別変更審判により、戸籍法第20条の4による性別変更後の新戸籍を編纂することは可能です。(ただし性別変更を伴わない同性婚は、事実上難しいようです。もっとも性別変更のために、性適合手術は強制することは、個人の尊厳を冒すもので、憲法13条に反するだけでなく、性適合手術が意に反する苦役に該当することになれば同18条にも違反することになりかねません。令和5年10月25日最高裁判決でこの規定は違憲とされました。

 したがって、新しい家族のあり方を既存の法律の枠組みの中で、どのように利用して、その法的効果を得るか、という観点も必要なのではないかと思います。

 例えば、①お互いに任意後見契約を締結して、代理権をそれぞれ取得する。②贈与、遺贈(遺言書の作成)を利用して財産を承継する。③養子縁組を利用して法定血族関係を作る。等が、極めて有効な手段になると考えられます。

 ただし、養子縁組をした場合は、民法第736条により養子縁組解消後も婚姻が禁止されていますので、今後同性婚が認められたとしても、婚姻することはできません。

7 戸籍と住民票

 上記1において、出生によって人権が発生すると述べましたが、生存権等の一部の人権には「国民は」の要件があります。請願に関する憲法第16条、国に対する損害賠償に関する同法17条、奴隷的拘束・苦役からの自由に関する同第18条、居住移転・職業選択の自由に関する同法第22条のほか、同第31条以下の法定手続の保障関係の憲法の規定は「何人も」とされ、思想・信条・表現・学問の自由や家族生活、労働基本権、財産権に関する規定には、「何人も」も「国民は」の規定がありません。

 ところが、憲法第11条、12条、13条の人基本的権に関する規定、同法第14条の法の下の平等、同法第15条の選挙権、同法第25条の生存権、同法第26条の教育を受ける権利、同法第27条の勤労の権利には「国民は」の要件があります(もっとも、生活保護法の適用は日本国籍を有する者に限るとの最高裁判例にかかわらず、「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について」昭和29年5月8日社発第382号社会局長通知を根拠に、生活保護を外国人に適用している事例が多くあります。)。

 そして、憲法第10条で国民たる要件は法律(=国籍法)でこれを定めるとしています。さらに、日本国籍のある国民の名簿として「戸籍」があります(法務省ホームページによれば、「戸籍は、人の出生から死亡に至るまでの親族関係を登録公証するもので、日本国民について編成され、日本国籍をも公証する唯一の制度です。」としています。)。

 戸籍法第6条は「戸籍は、市町村の区域内に本籍を定める一の夫婦及びこれと氏を同じくする子ごとに、これを編製する。ただし日本人でない者(以下「外国人」という。)と婚姻した者又は配偶者がない者について新たに戸籍を編製するときは、その者及びこれと氏を同じくする子ごとに、これを編製する。」とし、婚姻による新戸籍の編製(同16条)、子ができたことによる新戸籍の編製(同17条)、父母の氏を称する子は、父母の戸籍に入る(同18条1項)、養子は、養親の戸籍に入る(同上2項)としています。つまり戸籍法上の家族は、親子を単位としていることになります。また、同法第13条の記載事項では、戸籍に入った原因及び年月日(3号)、実父母の氏名及び続柄(4号)、養親の氏名及び続柄(5号)、他の戸籍から入った者のその戸籍の表示(7号)の記載のほか、戸籍法施行規則第30条以下の戸籍の記載事項に諸規定により、入籍、転籍及び除籍の事由が記載されることにより、戸籍(親子)間の連続性を確保しています。この戸籍の連続性より親族関係や相続の関係を把握することができるようになります。

 戸籍は上記のように、日本国籍を有する日本人だけを対象とし、本籍が固定されているので、実際に国内に居住する住民(外国人を含む)の行政上の管理の必要性から、住民基本台帳法による住民票の制度があります。

 同法第6条第1項では「市町村長は、個人を単位とする住民票を世帯ごとに編成して、住民基本台帳を作成しなければならない。」とし、同法第7条では住民票の記載事項として、1号氏名、2号生年月日、3号性別、4号世帯主、世帯主でない者(世帯主の氏名及び世帯主との続柄)の別、5号戸籍の表示(無い者はその旨)、6号住民となった年月日、7号住所、8号前住所等、8号の2個人番号、9号選挙人名簿関係、10号国民健康保険関係、10の2号後期高齢者医療関係、10の3号介護保険関係、11号国民年金関係、11の2号児童手当関係・・等々が掲げられています。

 さらに、同法第16条以下に本籍地の「戸籍の附表」の制度(戸籍の表示、氏名、住所、住所を定めた年月日を記載)を設け、住所地の市町村長は、住民票の変更等のがあったときは、本籍地市町村長にその内容を通知し、また、本籍地での戸籍の内容に変更があったときは、本籍地の市町村長は住所地の市町村長にその内容を通知することとされています。したがって、戸籍と住民基本台帳は連動しているといえます。

 ところで、ここでいう「世帯」・「世帯主」については法律上の定義はなく、厚労省で「世帯とは、住居及び生計を共にする者の集まり又は独立して住居を維持し、若しくは独立して生計を営む単身者をいう。」、「世帯主とは、年齢や所得にかかわらず、世帯の中心となって物事をとりはかる者として世帯側から報告された者をいう。」と定義されているようです。よって、同一世帯に所属する世帯員は、必ずしも親族である必要はありません。例えば同棲カップル(婚姻届けを出していない)を世帯とすることも可能です。

 したがって、戸籍制度と住民基本台帳制度は、似て非なるものといえます。また、住民票の住所は、「人の生活の本拠」たる民法上の住所とは直結しないことになります。

 ただし、上記の住民基本台帳法第7条9号以下の社会保険等の住所は住民票によることとなり、住民税の住所も同様の取り扱いが基本となっています。また、国民健康保険の保険料(税)は、世帯主(国民健康保険の被保険者でなくても)が納付(税)義務者となります。さらに、国民年金では、世帯主が世帯員の保険料を連帯して納付する義務がありす。

 なお、住民基本台帳法第30条の45以下(第4章の3「外国人住民に関する特例」)で日本の国籍を有しない者のうち入管法の適用を受ける外国人住民(中長期滞在者、特別永住者、一時庇護許可者及び出生による経過滞在者)の住民票の記載事項等の特例が規定されています。これにより、外国人と日本人の同一世帯の住民票も可能となっています。

8 民法第772条以下の嫡出子制度と戸籍制度の問題点について

 上記の通り、住民基本台帳制度と戸籍制度では、家族の概念が違います。前者では、親族関係の有無や国籍にかかわらず住居及び生計を一にする人々を「世帯」という家族の概念で流動的に把握し、市町村という行政単位における「住民」の移動に対応した各種行政・政策や各種法律行為等による権利義務の発生・消滅に対し柔軟に対応できますが、後者では、親子を一つの単位とする戸籍の連続性による親族を家族の概念として固定的に把握することにより、日本の国籍のある日本国民を特定し、親族関係に係る扶養・相続といった固定的な法的効果を生じさせるものであると考えられます。

 昨今の民法改正の要因となった、平成25年9月4日の最高裁の婚外子の相続分差別違憲決定は、相続関係の法律概念を大きく覆す法律改正を導きましたが、婚外子の相続分差別の原因たる民法第772条以下の嫡出子制度の根本的な問題点の解決とはなっていません。

 また、様々な事情により、同条の嫡出推定を避けるために、出生届の提出をしないことにより生じた「無戸籍」・「無国籍」の問題等々、嫡出子と非嫡出子を区分し、差別につながる制度を維持する必要があるか、さらに、戸籍謄抄本という公文書で、嫡出か否か、認知、準正による子といった、その後の差別につながるような文言を公証することを、なぜ維持し続けるのか極めて疑問です。

 問題は、戸籍制度の根幹たる親子関係の認定を、どのように法律的に確保するかです。母親は、自然分娩により親子関係が認定できるとして、民法上特に規定はありません(民法第779条の「認知」の規定は、嫡出子の身分を取得する制度で、親子関係を認定するものではありません。)が、父親の親子関係の認定については、自然分娩では判定が難しい(DNA判定でも100%ではない。)ことから、民法第772条以下で父子の親子関係を法的に推定し、嫡出否認の訴えの出訴期間(夫がこの出生を知ってから1年間)の経過、同法第779条の「認知」と第785条の「認知の取消しの禁止」により法的に認定されたことになります。なお、昭和52年2月14日の最高裁判例では、婚外子である非嫡出子(推定の及ばない子)とその実父に自然的血液関係があっても、その父による任意の認知届の提出(若しくは認知の訴えによる認知の判決)がなければ、法律上の親子関係は創設されないと解されています。また、人事訴訟法第2条2号のいわゆる「親子関係存否確認の訴え」により、上記の親子の認定を覆すことは可能ですが、平成18年7月7日の最高裁判例では、血縁面で実親子関係のない者の間で実親子としての社会生活上の関係が長期にわたり形成されてきた場合には、この関係が否定されることによる関係者の精神的苦痛、経済的不利益、訴訟提起の動機その他諸事情を考慮して、実親子関係の確認請求が権利濫用と解される余地がある、としています。

 さらに、近年では、体外受精による代理懐胎による出産について、自然分娩の理にこだわったと思われる平成19年3月23日の最高裁決定では、代理出産を依頼した妻を母とすることを否定するとともに、当該夫婦の嫡出子とすることも否定し、代理で出産した女性の母子関係を認めることと解されています。また、無精子症の夫の同意のもと、第三者の精子と妻の卵子を体外受精し、妻が出産した場合においては、当該夫婦と子の関係は、嫡出親子関係になると解されています。

  また、遺棄等による母親不明児や、いわゆる内密出産による母親不明児等による特別養子縁組をどのように考えるか等の問題もあります。

 このように、自然血縁関係を戸籍の連続性で維持するという意味での、戸籍制度の目的は、すでに破綻しており、この根幹をなす嫡出子制度は、社会的にも法律的にも、無用な混乱を引き起こすだけのものとなっていると思われます。

 ただし、戸籍制度の維持は、上述のように、日本国民の国籍の証明、扶養・相続等の法的関係の確定等において不可欠な制度であり、嫡出子制度の破綻により廃止すべきものではありません。

 むしろ、親子関係を認知制度で統一(「認知」が「認知症」を連想するので適切でないなら、「親子関係の認定」と言い換えてもよいかと思います。)し、子の出生と同時に、親が子を認知することにより親子関係が生じ、子が親の戸籍に入籍する、若しくは新たな戸籍を編成する方式にすることも可能だと思います。この場合、親は父母関係なく、自然分娩による母も、法的に親子関係を創設するには、認知が必要となります。そして、出生届の提出に、認知の効果を及ぼすことができれば、親子関係のトラブルも防止できると思われます。またこれにより、女性のみに課せられた民法第733条の「再婚禁止期間」の必要性もなくなります。

 なお、再婚禁止期間を100日とすること、妻の子の嫡出否認権を認めることなどが検討されていますが、これらの議論は嫡出子制度を維持のために難しい問題を提起することになります。しかしながら、嫡出子制度をなくせばその無駄な議論は不要となります。どのように親子関係を形成し、子供に極めて不利になる不都合な親子関係が形成されるときは、子の側からの親子関係の否認の権利を認めれば、解決できる問題となります。(父親、母親は自分の確定意思で子供を認知する届を提出することととなると考えられます。禁反言の原則からも、父親、母親に否認権を認める必要はないと思います。)

 法務省法制審議会民法(親子法制)部会の議論では、「民法第772条第1項は『妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する』と規定している。同項の推定の根拠に関しては様々な理解があるが、基本的には、婚姻中の夫婦は同居義務及び貞操義務をを負っていることから、妻が婚姻中に懐胎した子は夫の生物学上の子である蓋然性が高く、また、事後的に否認されない限り、夫婦の子として養育することが相当であることを根拠とするものと考えられ、現代においても合理性を持つものと考えられる。」とし、ただただ無益な嫡出子制度の存続にこだわっているようですが、嫡出子制度の有する前時代的な根本的な問題の解決には程遠い議論がなされて続けているのが、極めて残念です。そもそも、夫婦の同居義務・貞操義務を根拠にしていること自体が、新しい家族形態を理解したうえでの議論なのか疑問です。夫婦の同居義務は履行を強制することはできないし、別居で夫婦関係を継続(単身赴任、夫婦のそれぞれの職業、考え方、趣味・志向等の諸事情で)しているカップルは、極めて多数あります。また、貞操義務は民法で義務とされていることはなく、民法第770条第1項第一号で「配偶者に不貞な行為があったとき。」が離婚原因になると規定されているだけです。自然血縁関係による旧態依然とした家族関係に縛られずにもっと柔軟な考え方を持ってもらいたいものです。

 また、上記部会では、戸籍法第6条の一夫婦一戸籍と親子同一戸籍の規定の妥当性の検討がなく、ただ漫然と民法第772条の検討をしています。

 戸籍の必要性については、上記で述べたとおり、日本国民の身分登録(国籍)と親族間の相互扶養・扶助及び相続関係の確定のために不可欠な制度ですが、一夫婦同一戸籍・親子同一戸籍である必要性はなく、戸籍は個人ごとに作成し、戸籍法第13条の戸籍の記載事項に、実親等(「父母」とするより「親」としたほうが適切かと思います。)の関係事項(養子縁組も含む)を記載するとともに、子の氏名、生年月日、記載する原因(養子縁組も含めて)等、並びに配偶者の氏名、婚姻日、離婚日等を記載事項に加えることより、戸籍の連続性が確保できます。また、これにより戸籍法第14条から第22条までは不要となります。

 したがって、戸籍法第6条を改正すれば、民法第772条の規定の必然性はなくなります。

9 マイナンバーによる個人単位の戸籍の編纂と個人情報の保護の問題点

 コロナウィルス禍の特別定額給付金がスムーズにできなかったことから、マイナンバーに個人の銀行口座を付すことが検討され、マイナンバーカードとキャッシュレス決済においてマイナポイントを給付して、マイナンバーカードの普及を図る政策が着々と進んでいます。

 ところが、電子決済サービスのドコモ口座による詐欺が多発し、マイナンバーとキャッシュレス決済による金融機関の情報等の流出の危険性が全くゼロになることはあり得ないを思われます。

 したがって、電子情報としての個人番号を金融決済へ提供するシステムを構築することは、不特定多数にアットランダムに番号を入力しヒットした番号等に係る当該個人情報の不正流出=取得につながりかねないので、極めて危険な個人情報の管理システムとなるのではないかと思われます。(完全な電子情報のセキュリティーはあり得ないことを肝に銘ずべきです。また、今更ですが、郵政民営化前の郵便貯金制度があれば、これを活用したマイナンバーによる金融決済制度を作ることが可能だった?

 マイナンバー(個人を識別する番号)は、住民基本台帳法の住民票コードを変換して生成される番号で、原則として生涯同じ番号となりますが、番号が漏洩して不正使用される恐れがあるときは本人の申請又は市町村長の職権で変更できることになっています。

 マイナンバーを管理する地方公共団体情報システム機構には、都道府県知事から通知を受けた住民票に記載されている氏名、出生の年月日、男女の別、住所、個人番号(マイナンバー)及び住民票コードが本人確認情報として記録されていますが、これら以外の住民票に記載されている個人情報は住民票コードによる権限のある者のみが当該個人情報を取得することができます。つまりマイナンバーからは、この5項目を除く、住民票記載事項を直接取得することはできないことになっています。

 戸籍は、上記7の通り本籍地において夫婦、親子単位で作成され、各人の住民票に戸籍が表示(記載)され、戸籍の付表には各人の戸籍の表示、氏名、住所、住所を定めた日(出生年月日、男女の別は後日施行)が記載事項とされています。これにより各人の過去の住所の移転の状況が把握できることになります(各種の居住要件の証明)。

 戸籍情報は、戸籍法8条2項では、正本は市町村、副本は法務局で保管することとされていますが、電子情報処理組織による戸籍の副本は、同法119条の2で法務大臣が保管するものとされています。

 戸籍を個人単位で電子情報処理組織で編纂した場合には、個人情報の漏洩を防ぐために、マイナンバー、住民票コードとは別個に、「戸籍番号」(もしくは「戸籍コード」)を設定することが必要だと思います。この戸籍番号も生涯変わらないものとなります。これにより、個人情報に関する番号制度が3種類あることなりますが、本人確認情報はマイナンバーに統一され、保護すべき個人情報は、権限のある者のみが取得できることから、個人情報流出のリスクが大幅に減ることになります。戸籍情報にはマイナンバーと住民票コードが記載事項となり、住民票にはマイナンバーと戸籍番号が記載事項となりますが、マイナンバーには住民票コードのみを記載事項とし、戸籍番号を記載事項としないことが必要と考えます。なぜなら、社会保険関係等の住民票の情報等と同様に、マイナンバーから直接情報の取得ができないようにすることにより、権限のない者への戸籍の個人情報の流出が防げることとなるからです。

 次に、戸籍に「本籍」という概念が必要か検討する必要があります。本籍は現住所とは無関係に国内ならどこでもよく、転籍も自由です。現行の夫婦親子等の最小家族単位で戸籍を編纂する場合、その家族を表示する場所としての本籍地の表示は、他者と区別するためには必要とは考えられますが、例えば東京都千代田区千代田1番を本籍地とする人は2,000人をこえるなど、同姓同名がある場合は区別の意味がないことになります。本籍は歴史的には家制度を前提にした旧戸籍法による戸籍制度を最小単位の家族として引き継いだもので、使い方によっては差別や偏見の対象になる原因を作っているものなので、このような前時代的なものは不要で無くしたほうが良いと考えられます。

 ただし、現状では、本籍地のある市町村が戸籍の編纂等の事務を担当していることから、現行の戸籍の最小家族単位の制度維持の維持のためには必要なものとなるとは思います。

 しかし、戸籍を個人単位で編纂する戸籍番号の制度では、他者との区別(個人の特定)のための本籍地の概念は不要となります。そして、その運用に関しては、戸籍及び戸籍の付表の設定変更は、住民票に関する事務に連動していることから、市町村が担当し、戸籍情報の管理は、法務省の電子計算処理システムを利用すればよいことになります。

 そして、これらが新たなデジタル庁の下に一括管理する法制度を作ればよいのではないかと考えます。

 また、戸籍を個人単位で編纂すれば、夫婦同姓の必然性はなくなりますので、夫婦別姓は任意の選択となると考えられます。

10 同性婚違憲判決と自助・共助・公助

 コロナ禍の真っ最中に、安倍首相の体調不良から政権を引き継いだ菅新首相は、その就任にあたって、不妊治療を幅広く健康保険の給付対象にすること、自助・共助・公助を強調しています。そんな中、同性間の婚姻を認める規定を設けてない民法及び戸籍法の婚姻に関する規定は、憲法14条1項の「法の下の平等」に違反するという衝撃的な判決が、札幌地裁で下されました。くしくも女性判事が、パンドラの箱を開けてしまったのではないかと思います。

 もっとも、本判決では民法及び戸籍法の規定が憲法24条1項及び2項並びに憲法13条には違反しないとしていることから、パンドラの箱が全部開いたわけではありませんが、憲法24条1項の「結婚は、『両性』の合意のみに基づいて成立し」の規定の『両性』という文言が、時代遅れになってしまい、自衛隊に関する憲法9条と同様に憲法改正にかかわる重大な問題点が浮き彫りになっているにもかかわらず、安易に憲法14条1項の法の下の平等の規定による差別的取り扱いの禁止に解決策を求めた判決であるといえます。ましてや、民法には婚姻の当事者が異性であることは要件とはされていません。ただ、民法739条でその効力発生が戸籍法の届け出となっているだけです。戸籍法については上記7の項目で述べた通りです。上記9のように戸籍を夫婦親子単位でなく個人単位で編纂すれば、婚姻の当事者が異性であることの根拠は、憲法24条第1項の「両性の合意」及び「夫婦」のみとなります。(もっとも、民法750条以下の「婚姻の効力」、「夫婦財産制」、「離婚」に関する規定では、「配偶者」ではなく「夫婦」と表現されている規定があることから、婚姻が男女間であることを前提としていることは認められます。ゆえに、憲法24条1項の「両性」を「当事者」に、「夫婦」を「配偶者」に改正し、民法等の関係法令の「夫婦」を「配偶者」に改正する必要はあるといえます。)

 この判決は、家族と私有財産というもう一つのパンドラの箱を開けることとなります。菅首相の言う自助・共助・公助は、憲法を形成する国家、その認める家族制度、その認める私有財産制度の在り方(法律制度)と切っても切り離せないものです。

 本稿でも、上記6の新しい家族の作り方で取り上げていますが、同性婚を認めるか否かは婚姻制度そのものの在り方の問題です。周知のとおり、婚姻制度は各国で一夫一婦制だけでなく、一夫多妻制が認められ、一妻多夫性も事実婚として存在しています。さらに、バイセクシャルによる多夫多妻の事実婚も存在しうると考えられます。そして、日本の刑法では、その184条に一夫一婦制を前提とした重婚罪があり、相手方を含めて2年以下の懲役という厳しい懲罰が課されています。

 また、演歌でよく取り上げられる題材の「許されぬ恋、悲恋」である、今はなくなった妾婚が事実上の重婚たる事実婚(内縁関係)として存在していること。これは上述の嫡出子制度と切っても切り離せないものです。その議論の中には「善良な風俗・社会通念」というキーワード(敢えて「概念」という言葉は使いません)による善悪判断が含まざるを得ません。

 さらにこの問題では、民法による婚姻禁止規定、特に732条の重婚禁止規定により、事実婚とならざるを得ないカップルも、同性婚のカップルと同様に民法及び戸籍法規定による憲法14条1項に反するという結論を導かなければならないと思います。当然、刑法184条の重婚罪も憲法14条1項に反し違憲だという結論になるはずです。何らかの理由で、法律上の妻と別居し、同居している事実婚の妻が、死に水をとるまで長年にわたり夫の面倒を見ているにもかかわらず、相続による夫の財産の取得権が何もなく、他方、実体のない法律婚の妻には、相続権(他に相続人がいなければ全部、子がいれば二分の一、子がなく直系尊属ならば三分の二、子と直系尊属がなく兄弟姉妹なら四分の三)があるという矛盾は、先の相続法の改正においても、特別の寄与の対象者が一定範囲の親族に限ったこと、鳴り物入りの配偶者居住権も法律上の配偶者に限られることなど、この改正自体が事実婚にとどまらざるを得ない事実上の重婚状態の配偶者に対する憲法14条1項の平等原則に反する不当な差別であることすら検討されていないことにも、真剣に向き合い、取り上げるべきです。

 さらに言うなら、イスラム教では男性は最大4人の妻を持つことができ、これらの妻を平等に保護し扶助する義務があるとされています。イスラム教徒の日本国籍を持つ者に対して、この一夫多妻婚を認めないことは憲法14条1項に違反しているどころか、日本国憲法の根幹たる第19条の思想信条の自由及び第20条の信教の自由をも侵す重大な憲法違反ということになります。

 結局、この問題は、自助・共助・公助の最小単位の共同体である家族制度を、国家・個々の国民全員がどのように考えるかということに帰結します。そして上記2,3で述べた家族間の相互扶養・扶助、財産の承継をどのように構成するかという問題そのものです。

11 性別変更により女性となった人の凍結精子により人工授精した同性カップルの相手方の子

 最近、女性カップルの元男性の凍結精子を使った子の元男性側の認知が認められなかったことに関する訴訟が提起され話題になりましたが、令和4年2月28日の東京家裁判決では原告敗訴、認知は認められませんでした。上記9で述べた通り、戸籍を夫婦・親子単位でなく、個人別に編纂すればこのような問題は起きませんが、現行法でも養子縁組を使えば同性カップルのどちらとも親子関係を形成できます。しかし、現在法務省法制審議会民法(親子法制)部会で親族法の改正の中間試案が発表され、そのパブリックコメントが求められている中で、このような問題提起は非常に重要だと思います。そして、戸籍法の問題点をほとんど検討することなく中間試案を作成した親子法制部会の審議会のメンバーの見識が問われているのではないかと思います。

12 夫婦別姓違憲訴訟最高裁が大法廷判決へ

 夫婦別姓の婚姻届けを民法第750条と戸籍法第6条等の夫婦同姓に関する規定を理由に受理しないのは、憲法第24条に違反するとの憲法訴訟が平成15年の最高裁合憲判決にもかかわらず、大法廷に移されたことは判例変更の可能性がありましたが、夫婦別姓を認めない民法、戸籍法は憲法第24条の婚姻の自由に反し憲法違反であることは認められませんでした。本稿ですでにたびたび述べているように、戸籍を個人単位で編纂しマイナンバー等で個人単位の戸籍番号を関連付ければ、夫婦の氏を同姓を必要とする家族単位の戸籍の編纂は必要がありません。判例変更による違憲判決が望まれました。とても、残念な結果です。

 また、親子法制の問題は、早急に改正が必要な子の監護関係の問題に絞り、嫡出子等の問題は家族法制全体を見直し、夫婦、扶養義務等も含めた家族法全体を見直す中で真剣に検討すべきで、結論を急ぐべきではありません。拙速な改正では意味がなく、かえって弊害ばかり残します。

13 上記10で取り上げた同性婚違憲訴訟で、今日東京地裁で、民法、戸籍法等が、憲法第24条第2項の「個人の尊厳」という文言にてらして、違憲状態という内容を含む判決がなされました。しかし、同条2項は同条1項の「両性の合意」を前提としているので、夫婦別姓については当然に違憲状態ではありますが、同性婚はいかがなものでしょうか?むしろ憲法第13条の「個人の尊重」、「幸福追求権」を侵すので違憲状態とするならわかります。憲法第24条第1項が憲法13条に反して違憲だという論法になるはずです。憲法24条2項では「個人の尊厳」と「両性の本質的平等」が並列して記載されていることが矛盾していることになります。いずれにしても、憲法改正を真剣に議論すべき問題です。まあ、裁判官としては、判決文に「憲法改正が必要だ」ということは記載できないでしょうから・・・・・・?

14 公明党の北側副代表が、「憲法24条は、同性婚を排除しているわけではない。」として、そろそろ同性婚を検討してもいいのではないかという旨の発言をしていますが、最近の同性婚の推進派の憲法学者諸先生方、弁護士の先生方に同調している状況になっています。

 確かに、同性婚の法制化については、憲法問題とはせずに、国会で法制化してしまえば、各法制局での法律の審査は憲法審査ではないので、否定すべき特段の事由がなければ、そのまま法律案として成立するのではないかと思います。党派を超えた議員団を結成して、党派を超えた国会での決議は可能だと思います。

 あとは、個々の国会議員がどう考えるかの問題です。(個々の国会議員の見識として、同性婚問題で国際的に孤立し、文化的にも習俗的にも時代遅れという認識をされることを避ける考え方も必要なのではないでしょうか?ただ、憲法問題を避けるという意味では自衛隊と憲法9条の問題も同じだといわれるかもしれませんが?)

 

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