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帰属所得の課税上の問題点

1 帰属所得とは

 帰属所得とは、「自己の財産の使用もしくは占有から生ずる利益、又は自己もしくは家族のためにする役務提供(自家労働)によって生まれる利益」と定義されています。(インピューテッドインカム(imputed income) ヒト、モノそれ自体に帰属(それ自体が持つ)する内在的な収入もしくは所得。モノには有体物のほかに、各種の債権、通貨、仮想通貨、各種の知的財産権等の有形・無形の財産権を含む。)

 自家労働に関しては、炊事洗濯掃除等の①主婦の家事労働のほか、②家庭菜園、③日曜大工、④育児や病気高齢の家族への療養看護、介護等、が考えられます。

 自己の財産の使用もしくは占有から生ずる利益に関しては、⑤土地家屋を自宅、別荘として使用すること、⑥乗用車やバイク、自転車等を利用してドライブやツーリングをすること。⑦家庭用電気器具を家族の生活のために使用すること、⑧ピアノやドラムギター等の楽器を趣味の音楽演奏に使用すること、⑨絵画や骨とう品,宝石等を鑑賞したり身に着けたりすること、⑩貴金属や金、現金等を保有(タンス預金)すること等が考えられます。

2 帰属所得は公平か?

 資産を持つものと、持たざる者の公平性の観点からは、例えば上記⑤場合において、土地家屋を持っていない者は、雨風をしのぐために家やアパートを借りるか、宿泊施設に泊まる必要があり、家賃、宿賃の支払いが必要であるのに対し、(土地)家屋を持つ者はその必要がない。⑥の場合においては、自動車等を持っていなければ、タクシー、バス、電車の乗車料金や自動車等のレンタル料金の支払いが必要になり、持っている者にはその必要がない。⑦、⑧、⑨も同様です。

 また、広い土地(自分で持っていても、他者から借りていても)使って、田畑を耕し、牛豚鶏を飼って、自作自農し、家族の一切の飲食を賄っているときはどうなのか?。自分や家族の労力で、土地を開墾して、自宅や別荘を建てたりした場合はどうなのか?。 前者は家庭菜園が大規模になった場合で、後者は日曜大工の延長であるに過ぎないのか?。普通のサラリーマン家庭であれば、家族の飲食はスーパーやコビンエンスストア、各種飲食店で代金を支払って飲食を賄い、家は工務店や大工等に代金を支払って自宅を取得することになります。

 さらに、家族に療養看護、介護することができる者がいなければ、病院や介護施設に入る必要があり、入院費が必要となります。

 以上のように帰属所得を有するか否かで、不公平感が生じることは明らかです。

3 帰属所得は課税すべきか?

 持てる者と持たざる者の公平を図る課税の方法としては、資産の保有自体に対する課税として、固定資産税(土地、家屋、償却資産)、自動車税等があり、資産を保有する個人の代替り(相続・贈与)のときに資産に課税する相続税及び贈与税があります。資産を保有しいていない者はこの税を負担することはないので、この意味で、資産課税で上記の不公平感の是正がなされていると思われます。

 税の基本は担税力に従って税を負担するということであり、この資産課税のほかには、所得課税の考え方があります。ある一定の期間の損益計算と資産負債の増減の結果である純利益と純資産の増加(この2つは一致する)を担税力としてとらえる、これに課税するのが所得課税の考え方で、個人所得税と法人税、住民税、事業税等があります。(健康保険等の社会保険の負担も同様の考え方を基本としています。)

 さらに、財貨をもって物や役務の提供の対価とする取引を担税力の把握方法とする消費税等の間接税、人・物の国家間の移動に着目して担税力を把握する関税があります。

 帰属所得は、これらの担税力の観点からすると、その把握が難しい面があります。資産課税はその価額(資産価値)に着目し、所得課税は収入、経費の価値(価額)に対する着目ができ、間接税は取引価格、関税は輸出入価額(価値)に着目できますが、帰属所得には着目すべき客観的価値(価額)がないということです。確かに持っていることで使用収益をすることができるので、持たない人に比して経済的利益があるのは確かですが、これが客観的な担税力ある価値(価額)を発生させ具体的に現象しない(以下、「発現」という。)限り、つまり観念的なものにとどまる限り、具体的な担税力の把握ができないと考えられますので、課税になじむものではありません。

 客観的・具体的な担税力の発現とは、例えば不動産・動産を保有している時に、何にも使用していないときや自己使用しているときは担税力の発現はありませんが、これを他人に賃貸すれば、賃貸料金という担税力が発現しますし、譲渡すれば譲渡代金という担税力が発現します。また、趣味や、自分で消費・使用するために労力(自家労働)を投下して、農作物・絵画や器具等の何かしらのものを作って、保存・自己使用・消費しているときは担税力の発現はありませんが、これを他人に売却すれば、売却代金という担税力が発現します。労力を有償で他人のために提供すれば、労賃という担税力に発現します。(ボランティア等の対価のない役務の提供には担税力の発現はありません。)また、個人の発想・アイデア・技能力(技術力)がアマチュアの自己満足にとどまれば、担税力は発現しませんが、これによる報酬(特許権使用料、印税等の知的財産権等の報酬、対価等)を得ることができれば、これが担税力に発現します。

4 所得税法での帰属所得の課税

 法人税法第22条では、益金の額から損金の額を控除した金額を所得と規定し、益金に算入すべき金額は資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受その他の取引で資本取引以外のものとされています。他方、所得税法では、各種所得金額で若干の相違はあるものの収入金額から必要経費、給与所得控除等の金額を控除した金額を所得とし、収入金額とはその年に収入すべき金額(金銭以外のもの経済的利益を含む)とされており、法人税は流出概念、所得税は流入概念といわれているところです

 従って、所得税法では、何らかの収入という概念が必要なので、収入される金額の発現のない帰属所得は、収入すべき金額がないことになります(支出することがないということは他者から経済的利益を受けていることにはならない。)。法人税法では、資産の無償貸し付け、無償譲渡が益金とされているので、その限りでは帰属所得が益金として把握されることになります。しかし、法人税法は、主として営利法人としての会社を対象としているので、営利性の認められない無償貸付、無償譲渡は、その相手方に対する対価を時価で寄付する行為(売上対価の請求権を放棄=寄付)したとして構成されることとなります(無償での流出はあり得ない)。また、法で擬制された人格なので、生活や趣味のための家事費用の支出はありえません。

 所得税法でも、帰属所得が収入金額とされる例があることとされています。

 所得税法39条、40条では棚卸資産の自家消費及び贈与を収入金額とし、同41条では農作物の収穫(いわゆる収穫基準による標準課税))を収入金額にすることとされています。また、所得税法施行令80条では、定期借地権の設定が認められた新借地借家法の施行にあわせて、定期借地権の設定時の預り保証金について、その使途が資産の取得、預金運用に充てときを除き、家事使用したり、タンス預金にしていた時は利息を認定することとされています。

 棚卸資産は、元々、事業(事業所得・山林所得・雑所得を生ずべき業務)の成果で必要経費とすることを予定していたものを自己使用したものであり、農作物の収穫等は事業の成果である果実等の取得(農業所得は農業所得標準が廃止され収支計算とされていることから、収穫基準は有名無実化している)等であることから、客観的な担税力のある価値の発現の把握が可能であると考えられますので、帰属所得ではありません。

 しかし、定期借地権の預り保証金に関して、その使途によって、利息を認定することについては、客観的な担税力の発現を認識することができないことから、収入金額を認定することには無理があると思われます。また、預金等の金融資産等に運用したときに、二重課税を避けるため、利息認定をしないということは、金融資産の運用益が客観的な担税力のある価値の発現そのもののであり、そのような発現が認められないような使途は、収入金額を認定できないことに帰結します。例えば、当座預金として、事業資金に運用した場合は、利息収入が得られないにもかかわらず、利息を認定しないことになりタンス預金や生活費に利用したときにだけ利息を認定すると課税には、課税の公平という観点から無理があるといわざるを得ません。(同族会社の役員への無利息貸し付けの際の認定利息と混同してはならないと考えます。これはあくまで、同族会社の行為計算の否認の適用において、無償の資産の貸付による認定利息を流出概念で益金と認識し、この認定利息を役員給与で処分したという理論の話で、帰属所得の話ではありません。

 また、定期借地権設定以外の不動産賃貸借に係る高額な保証金や敷金については、この取り扱いがなく、同じ経済行為に対する課税がこのように差別される合理的理由はないと考えられます。むしろ、贈与税の課税対象となる経済的利益(みなし贈与)となるかを検討すべきと思います。

5 相続税の財産評価における帰属所得による調整機能と贈与税の課税

 不動産の賃貸借の場合は、自己の財産の使用もしくは占有から生ずる利益(帰属所得)を賃借人に有償で移転させていることから、貸家の場合は建物の30%が評価額から減額されますが、これは、借地借家法による借家権・借地権の保護により解約が難しくなっていること等から、所有者の帰属所得たる使用収益権が制限されていることによると考えられます。また、貸家建付地は借地権割合に借家権割合を乗じた割合が同様に評価減されます。但し、借地権は独立の資産として、別個に取引対象とされ、底地権と借地権が別個に評価されてます。

 平成32年4月に施行される相続法で新設される配偶者居住権も同様に、配偶者の居住建物の無償使用収益権(帰属所得)を所有者である相続人から被相続人の配偶者に移転させ、これに対応する評価額を不動産の評価額から減じることとされる見込みとなっています。

 また、同じく相続法で新設される特別の寄与に関して、親族間の相互扶養義務者のうち、法定相続人になれなかった者の療養看護介護等の自家労働としての帰属所得については、相続法上の評価されるべき特別の寄与額として認められる請求権であると考えられます。従って、この請求権を労働の対価の精算とみて所得税の課税対象とすべきではなく、みなし相続として相続税の規律対象とすべきと考えられます。

 なお、相続税基本通達9−10(無利子の金銭貸付け等)、同9−13の2(配偶者居住権が合意等により消滅した場合)では、対価性の認められる帰属所得の移転(提供)には、相続税法第9条のみなし贈与となる経済的利益が認められる場合があるとしているようです。

 

 

 

 

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