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遺留分侵害額請求権と特別の寄与の課税上の問題点

 相続法の改正で、遺留分減殺請求権が遺留分侵害額請求権に改正され、新たに特別の寄与の制度が設けられました。これらはともに金銭債権(金銭の支払の請求)とされていますので、相続財産を構成する物件の物権的な帰属の請求(給付・分与)ではないことになります。

 まず前者の遺留分侵害請求権の問題点について検討します。

 遺留分とは、相続人の具体的に相続される相続財産の価額が法定相続分の二分の一(直系尊属のみが相続人のときは三分の一)を保全することができる権利で、被相続人が遺贈や生前贈与等をしたために、相続財産が減少し、具体的相続分が本来の相続財産に基づく遺留分を下回るときに、遺贈や生前贈与により本来の相続財産の一部を取得した者に対し、相続財産の給付(物もしくは金銭)を請求できる権利です。改正前の遺留分減殺請求権は、その権利の行使には物権的効果があるとされていましたが、改正後の遺留分侵害額請求権は、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求する権利として、その行使は債券的効果があるにすぎないこととされています。改正前の物権的効果説では、例えば事業承継に必要な相続財産が請求権者と共有(合有)とされ、事業承継等に問題が生じることがあることから、スムーズな事業承継を可能にするために、当該請求権を金銭の支払い請求権とし、これによる債務の支払については、裁判所は相当の期限を許与することができることとされました。

 この結果、この請求権の相手方の受贈者に金銭・預金等の当座資産がないときに、相続財産を構成する物(宝石、書画骨董品、分筆等による不動産の一部)で、当該債務の支払いに充てたときはどうなるでしょうか。特に受贈者に定期的な余剰収入がなく、金融機関から借り入れもできないときには債務の支払いを相続財産を第三者へ売却した売却収入を当該債務の支払いに充てるか、相続財産を構成する物件で支払いに充てる(いわゆる代物弁済に類似した方法)しかないことになりますが、売却に関する費用を鑑みると、後者のほうが有利となります。また、形見分けとして、特定の物や不動産が欲しいということもあります。

 同じような財産の分与に関する請求権に、離婚による財産分与請求権がありますが、夫婦の居住している夫が所有している自宅を、妻に財産分与として妻に所有権を移転した場合には、財産分与請求権を対価とする不動産の譲渡として認定される判例(最高裁昭和53年2月16日判決)があり、所得税基本通達33-1の4で財産分与のときの時価で譲渡したものとして取り扱われています。この取り扱いは妻に受贈者として高額の贈与税を負担させるよりは、夫に譲渡所得を認定して、少なくとも取得費・譲渡費用を経費として、さらに居住用の財産の譲渡の特例(3000万円控除)の適用を受けることができれば、負担する税金が少なくなり、妥当な結果となるとされています。

 しかし、民法の夫婦財産制から夫名義で取得した唯一の居住用の財産等は、夫婦の相互扶助により形成した財産と認められ、夫が単独で保有する財産と認めることは妥当でないとしたならば、妻の潜在的な共有持分が離婚による財産分与により顕在化したものと認めるべきであるから、判例、所得税基本通達の考え方は妥当でないとも考えられます。(そもそも課税に適さない。)

 遺留分侵害額請求権は侵害に相当する金銭の支払いを請求する権利であることから、離婚の財産分与に関する判例、所得税基本通達にならえば、当然、相続財産を構成する物で債務の支払に充てて給付した場合は、代物弁済として譲渡所得と認定されることになると考えられます。

 この場合、初めから遺留分権利がある相続人に遺産分割により同じものを給付した場合は、自己の取得相当額の相続税の支払いで済むにもかかわらず、たまたま遺留分を有する相続人が不明であったことから遺留分侵害請求に応じざるを得なかった相続人は、同一の相続物件において、相続税を負担したうえに、譲渡による所得税を負担することとなり、二重課税となる可能性が認められます。(この場合、遺留分侵害請求権の行使に係る相続税の一部は、遺留分権利者が負担することとなり、、相続人は更正の請求により当該相続税の一部を減額することはできますが、遺留分権利者に渡した相続財産を構成する財産の現物の譲渡所得の課税は逃れません。)

 次に、特別の寄与について検討します。

 相続人以外の者で、被相続人と生計を一にしていた者、被相続人の療養看護に努めた者等は、特別縁故者として、相続人がいないときには相続財産の精算後の財産を与えてもらうことができ、これをみなし相続財産として相続税が課されることとなっています。

 この特別縁故者のうち、無償で被相続人の療養看護その他の労務の提供をして被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与をした被相続人の親族に限って、特別寄与者とし、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭の支払いを、相続人に請求できる制度が、今回の民法改正で創設された特別の寄与の制度です。

 なお、親族とは、民法725条に掲げられた①6親等内の血族、②配偶者、③3親等内の姻族であり、また、特別寄与者は、民法730条で「直系の血族及び同居の親族は、互いに扶け合わなければならない。」等の民法の扶養関係の規定の相互扶助・扶養義務の範囲を超えた親族も対象としていますが、親族でない事実婚パートナーや同性パートナー等の親族以外の同居世帯の世帯員は対象とはなっていません。よって、これらの親族でない同居の世帯員の寄与に関しては、贈与、遺贈により対応せざるを得ないことになります。

 特別の寄与者を親族に限定したことには、上記の扶養義務の履行と贈与税の課税対象の関係がかかわっていると考えられます。特別の寄与とは、例えば寄与者の帰属所得である労務(帰属所得については本ホームページの「帰属所得の課税関係」をご覧ください。)を無償で他人に移転(提供)したしたことです。そしてこの帰属所得の移転は、対価がないので、所得税の収入金額がないことにより所得税の課税対象ではありませんが、他人の労務(帰属所得)の提供を受けるという経済的利益は受けています。そして、相続税法第9条は「・・・対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で利益を受けた場合においては、・・・当該利益を受けた者が、・・・当該利益の価額に相当する金額を贈与により取得したものとみなす・・・」(みなし贈与)の規定を設けています。この帰属所得については、極めて主観的なもので、客観的な当該利益の価額の評価が難しいため、贈与税の課税に適するかという問題はありますが、おおむね贈与税の暦年課税の非課税枠(110万円)におさまると考えられますので、相続税法基本通達9-1では、労務の提供がみなし贈与となる経済的利益から除外されています。なお、相続税法基本通達9-10(無利子の金銭貸与等)や最近新設された同通達9-13の2(配偶者居住権が合意等により消滅した場合)では、対価性の認められる帰属所得について贈与の経済的利益があるとしているようです。

 ところが、扶養義務の履行については、民法上の義務であり、対価性の認められる帰属所得である労務の無償提供ではありませんので、贈与税の課税対象ではありません(贈与税法第21条の3第1項第2号の扶養義務者相互間の贈与の非課税は、通常必要と認められるものを超えるものをみなし贈与とした規定と考えられます。)。

 そして、親族間で扶助義務・扶養義務の履行が相互にあり、被相続人と相続人間では、具体的相続分(遺産分割、遺留分)の中で、この関係が精算される関係にあるが、相続人以外の扶養義務を履行した親族には相続分がないことから、特別の寄与による相続人に対する請求によって精算を認める必要があったと考えられます(法制審議会民法(相続関係)部会では、なぜか民法上の扶養義務と特別の寄与が関連付けられることを嫌った議論があり、あえて扶養義務の範囲と特別寄与者の範囲を一致させていないようです。)。

 他方,事実婚パートナー等の親族以外の同居世帯員には、扶養義務が課されていないので、この帰属所得たる労務の無償移転(提供)は、相続税法基本通達9-1により、贈与税の課税対象にはなりませんが、被相続人が、この労務の無償提供に応えようとするなら、その都度報酬を払うこと、相続にあたり遺贈(遺言書を作成する)するといったことが、必要になると考えられます。

 また、事務管理・不当利得での精算も考えられますが、事務管理は報酬請求権が認められていないので、相続債務としての認定は難しいと考えられます。

 特別の寄与料は、今後の相続税法の改正でみなし相続財産とみなされて相続税の課税対象となりますが、この場合も遺留分侵害額請求権と同様の問題が生じます。

 相続人に現金・預金等の当座資産がないときには、相続財産を構成する物件で特別寄与料の請求に充てざるを得ないことが生じます。また、形見分けや、被相続人と同居していた被相続人所有の家を離れたくないという事情がある場合も同様に相続財産の現物を給付せざるを得ません。この場合同一物件に相続税と譲渡による所得税の二重課税の問題が生じることになります。

 従ってこのような二重課税を防ぐためには、遺留分を有する相続人がいないか十分に捜索し、特別寄与者がいる場合には、あらかじめその者に生前贈与か遺贈をしておくことが必要で、金銭の請求権を有するものを残さないようにすることが肝要です。

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