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2020年4月には改正民法の大部分が施行されます。債権法等の分野では、通説とされた特定物ドグマ等の我妻理論から解放された結果、担保責任が契約不適合責任に集約されたこと、消滅時効が主観的な場合5年(人の生命身体の損害賠償10年)、客観的な場合10年(人の生命身体の損害賠償20年)等に集約されたこと、錯誤無効が取消権となったこと、連帯債務における履行の請求や免除・消滅時効完成の効果が絶対的効果から相対的効果へと変更されたこと(一人だけ免除・時効完成しても、全部弁済した他の連帯債務者から求償されることとなった)等のドラスティックな改正が行われ、さらに、判例理論の条文への法文化のための改正が総則、債権の分野でなされます。また相続法の分野では、自筆証書遺言の様式の緩和、遺言執行者の権限の強化等の遺言関係の条文改正、遺留分の物権的効果から債券的効果説への解釈変更(遺留分減殺請求から遺留分侵害請求権へ変更)による条文改正、特別縁故者のうち労務の提供等により特別に寄与した(相続人以外の)親族を特別寄与者とする特別寄与分(金銭による請求権)の創設及び配偶者居住権並びに配偶者短期居住権の創設が順次施行されることとなっています。
これらのうち今回は、配偶者居住権の課税関係の考え方について検討してみたいと思います。
配偶者居住権とは、被相続人の所有の建物(及びその敷地)に相続開始時に居住していた配偶者が、その居住建物を無償で使用・収益する権利で、遺贈、遺産分割及び審判で建物等の相続人に対して配偶者が有する権利です。
権利の性質としては、賃借権類似(登記が義務付けられている)のものであることから、配偶者居住権は、建物使用権及び敷地利用権として財産的評価をされ、配偶者の平均余命によってそれぞれ数値化され、財産権として相続財産に加えられたことになり、その反射的効果として、当該居住用建物等を取得した相続人の土地建物の相続税評価額から配偶者居住権の評価額が減額されることになります。(配偶者居住権の存続する期間は所有者が使用収益できないことから評価減される。)
配偶者居住権は、物件ではなく債権(使用・収益権)であることから、相続の形態としては、従来の代償分割に類似していると考えられます。代償分割とは、複数の相続人にうちの一人に相続財産の全部(もしくは一部)を相続させ、他の相続人が相続分に応じた債権を、相続財産を取得した相続人に対して取得させる形態の遺産分割で、相当の猶予期間のある金銭債権を相続分として取得させるものです。
但し、配偶者居住権は譲渡が禁止され、所有者の承諾なく第三者に使用収益させることができず、用法違反等があったときは所有者から消滅権の行使ができること、配偶者が死亡したときは消滅すること等で、通常の代償分割とは相違するところがあります。(なお、法務省ホームページの「残された配偶者の居住権を保護するための方策が新設されます。」Q&AのQ8では、配偶者居住権の対象となっている「建物を賃貸住宅として第三者に賃貸しようとする場合には、あなたは建物の所有者の承諾を得なければなりません」とされ、Q9では、「あなたは、建物の所有者の承諾を得れば、第三者に居住建物の使用又は収益をさせるっことができますので、例えば、使用しなくなった建物を第三者に賃貸することで、賃料収入を得て、介護施設に入るための資金を確保することもできます。」されています。よって、配偶者居住権の配偶者の居住は、設定の際の要件とはなりますが、その存続のための要件ではないということになります。)
従って、平均余命より前に配偶者居住権が消滅したときに、未経過年数分の配偶者居住権の残存価額がどのように評価され、その反射的効果として所有者の建物等の財産評価額が増加するとした場合の課税関係が問題となります。
上記のように配偶者居住権の消滅は、死亡による消滅と所有者の消滅権行使による消滅のほか、居住建物の全部滅失等による消滅、配偶者居住権に期間の定めがあるときにはその期間の満了により消滅、の4形態があります。
まず、期間満了及びほぼ平均余命での死亡による配偶者居住権の消滅について検討します。
この場合、所有者は配偶者居住権のある期間の使用収益ができないので、その分の帰属所得(インピューテッドインカム)が得られないことになります。そして、この所有者が帰属所得を得られなかった期間の評価額が配偶者居住権の評価額そのものですので、その期間の帰属所得分が期間の経過により居住建物及びその敷地の評価額に転化されるものと考えられます。さらに、現行の日本の税法では帰属所得は所得と認識されないので、所得税は課税されず、居住用建物及びその敷地は期間の経過により順次配偶者居住権の評価額の転化により増加し、最終的に相続時の評価額に戻ることから、配偶者居住権の消滅による課税関係は生じないものと考えられます。当然価値の無償移転はありませんので贈与の関係は生じません。
次に、平均余命前又は期間満了前に死亡により配偶者居住権が消滅した場合はどうでしょうか。
この場合、未経過分の帰属所得としての配偶者居住権の評価額が居住建物及びその敷地に転化し、相続時の評価額に戻ると考えられますので、増加した評価額を経済的利益として認識することができます。しかし、二次相続として評価すべき配偶者居住権は配偶者の死亡により消滅しているので、相続財産を構成することはありません。また、贈与による経済的利益の移転ではないので、贈与税の課税対象とはならないと考えられます。それではこの経済的利益の移転はどのように考えればいいのでしょうか。
この経済的利益は、あくまで居住建物及びその敷地の使用収益による帰属所得であり、これを自己の居住の用に供せば、所得税法上の収入金額は認識されず、転貸して賃料収入を得れば 不動産所得の収入金額となり所得税の課税対象になります。
思うに、配偶者居住権によって得られる経済的利益は、その存続期間の合計として評価された評価額が、一次相続の相続財産として相続税の課税対象となっており(もっとも相続税法の配偶者控除の適用で相続税の発生することはほとんどないと思われます)、居住建物及びその敷地は配偶者居住権の評価額を控除した評価額で相続税の課税対象となっていることから、この帰属所得としての経済的利益の消滅に基づく(転化による)居住建物及びその敷地の評価額の増加については、一時所得等の所得税法の収入すべき金額とは認識できないと考えられます。
この考え方は、例えば貸家及び貸家建付地の相続税の評価の際に、その家屋及びその敷地の相続税評価額算定につき30%の評価減をしていますが、相続後に貸家の賃借人の退去(契約満了、用法違反による解除等)があった時にも生じる評価額の増加を、収入金額として課税していないことからも、妥当と考えられます。(貸家についても帰属所得の考え方は妥当していると思われます。)
また、居住建物の滅失による配偶者居住権の消滅も、上記と同様に考えられます。
それでは、所有者の消滅権の行使及び配偶者の返上により配偶者居住権が消滅した場合はどうでしょうか。
上記のように、配偶者居住権は居住建物及びその敷地の使用収益権たる帰属所得として考えられ、一次相続の際その居住建物及びその敷地から控除されるものとして、別個に相続税の課税対象とされます。そして配偶者の二次相続のときには消滅して相続税の課税対象となることはありません。
さらに使用収益権たる帰属所得としての配偶者居住権は、賃貸による収入金額として実現される場合には、所得税の不動産所得の課税対象となり、居住建物及びその敷地を譲渡したときには、その評価額の増加分は譲渡収入として実現され譲渡所得の課税対象となるものと考えられます。
配偶者居住権は民法の規定により譲渡できないことから、譲渡所得の対象とはなりません。仮に配偶者居住権を有する者がその消滅に関して金銭を受け取ったときは、負担付贈与もしくは一時所得となる収入金額と考えられます(所得税法34条参照「一時所得とは、利子所得・・(各種所得)以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。」)。
但し、所得税基本通達33−6の8は、「・・・配偶者居住権に基づき使用する権利の消滅につき対価の支払を受ける場合における当該対価の額は、(所得税法施行)令95条(・・・譲渡所得の起因となるべき資産の消滅・・・に伴い、その消滅につき一時に受ける補償金その他これに類するものの額は、譲渡所得に係る収入金額とする。)に該当することに留意する。」としています。またこれによる譲渡所得は、分離課税ではなく総合課税の所得とされるとのことです(所得税基本通達逐条解説参照)。しかしながら、たとえ所有者の承諾があっても民法上譲渡することができない配偶者居住権には、この消滅する資産としての性質が認められるのかは極めて疑問です。ちなみに借家権等の賃借権は賃貸人の同意・承諾があれば譲渡できるのでこの資産性は認められると考えられます。もし配偶者居住権を「譲渡所得の起因となるべき資産」とするなら、通達ではなく、施行令に「みなし規定」を入れる改正をすべきです。通達は民法の規定を破る特別法ではありません。
従って、配偶者居住権消滅による経済的利益の所有者への移転は、帰属所得の未実現利益の移転にすぎず(いわゆるキャピタルゲインも認識できない)、所得税の課税対象となる収入金額は認識できないものと考えられます。
なお、令和元年7月2日の相続税法基本通達の改正により、相続税法基本通達9-13の2(配偶者居住権が合意等により消滅した場合)が新設され、配偶者居住権の合意解除、放棄並びに建物所有者の消滅請求により配偶者居住権が消滅したときはは、残存する配偶者居住権の価額の贈与があったものとして取り扱われることになりました。しかしながら、その注書きで、期間満了、死亡、建物の全部滅失による消滅は贈与とはしないこととされました。なお、配偶者にとって配偶者居住権が不要となった場合には、所有者の同意を得て賃貸する(不動産所得が生じる。)方法がまず考えられますが、所有者に配偶者居住権を放棄する代わりに対価を求めることが可能であることを前提として、本通達は新設されたものと考えられます。ただし、この場合に対価を支払わないで、贈与を認定されたときは、その取得価額は贈与の引継価額とされますので(贈与で認定された経済的利益の価額を取得価額に加算できない。)、極めて不利となります。
また、改正された相続税法第23条の2により、配偶者居住権の価額の算出方法が規定されました。
建物については、耐用年数通達を1.5倍した建物の耐用年数から築年数を差し引いた残存耐用年数と、生存配偶者の平均余命等の配偶者居住権の存続年数の比率によって、建物の時価を按分し、これに、配偶者居住権の存続年数による、法定利率3%の複利現価率を乗じて算出した価額(=建物所有者の算出された時価?)を、建物の時価から差し引いた価額が配偶者居住権の価額となります。建物所有者の取得する価額は、建物価額から配偶者居住権の価額を差し引いた残額とされます。この結果、建物の「時価」と「価額」に乖離がある場合、注意を要します。
敷地については、建物で使用した複利現価率をその敷地の時価に乗じた価額(=敷地所有者の算出された時価?)を、敷地の時価から差し引いた価額が配偶者居住権の価額となります。敷地所有者の取得する価額は、敷地の価額から配偶者居住権の価額を差し引いた残額とされます。建物と同様に「時価」と「価額」に乖離があるときは注意を要します。
この結果、配偶者居住権の発生する居住建物及びその敷地を有する被相続人は、一次相続の際、配偶者居住権を利用して、配偶者居住権評価減後の建物及びその敷地の所有権はご子息に遺贈もしくは遺産分割し、配偶者は配偶者居住権を取得し、相続税の配偶者控除により相続税を軽減することが可能となり、配偶者の二次相続の際はこの配偶者居住権が相続財産となることはなくなります。
よって、配偶者居住権を利用することは、配偶者に当該土地建物を相続させて二次相続の際の相続税の課税対象となることと比べて、とても有利になることがわかります。
ここでご注意いただきたいのは、配偶者居住権が相続税の課税対象ではなくなることではなく、あくまで配偶者の相続税額が、相続税法の配偶者控除の範囲内で減額されるということです。
相続税の計算は、課税される相続財産(配偶者居住権を含む)を各相続人の法定相続分に分配し、各相続人に分配された課税相続財産額に応じて相続税の税率をかけて算出します。そして、各相続人の相続税を合計して、課税される相続財産に係る相続税額が算出されます。この相続税額に各相続人の具体的相続分の割合(遺産分割等により具体的に各人に帰属する相続財産の割合)を乗じて、各相続人の相続税額を再計算し、各相続人の相続税額を算出します。相続税法の配偶者控除は、配偶者のこの相続税額を対象とするものです。
従って配偶者居住権に相続税が課税されることはないということではありません。配偶者以外の相続人は、配偶者居住権部分の税額について、その相続分に応じた部分を必ず負担することとなります。
なお、配偶者居住権の敷地の居住用小規模宅地(80%の評価減)の適用については、居住が適用要件となっていることから、配偶者居住権の敷地利用権の割合に応じた面積のみが対象となります。残りの割合に応じた所有者の居住用小規模宅地の適用については、所有者の居住が適用要件となります。(租税特別措置法(相続税関係)通達69の4−1の2並びに国税庁資産税課情報17号令和2年7月7日及び同9号令和3年4月1日参照)
次に、上記相続税法23条の2の配偶者居住権の評価について、問題点を検討したいと思います。
配偶者居住権のある土地建物の所有者は、民法1034条1項により通常の必要経費を負担する必要がないことされ、2項では583条2項を準用するとされており、また、賃貸借の規定を準用しているのは605条の4、599条1項、2項、621条、597条1項、3項、600条、613条、616条の2だけで、賃貸人の通常の使用収益させる義務がないことから、固定資産税の負担義務(土地建物とも所有者は使用収益できなくなる。)、マンションの管理費・修繕積立金の負担は配偶者の負担となり、壁面塗装等の経年劣化等による修繕(必要な修繕)は配偶者がすることができるとされ、相当期間に配偶者が修繕しないときは所有者が修繕できるとされているので、通常の使用収益させる義務を所有者は負わないこととされています。
したがって、配偶者居住権の評価について、これらの費用を所有者が負担しなくなることによる経済的利益を、どのように評価減するかについての規定が全く欠如しており、例えば、東京湾岸にある超高級マンションや都内の一等地にある住宅と、地方にある地価の低い地域の土地建物の通常の必要費等が全く考慮されていないため、極めて不公平な規定となっています(逆に言えば、タワマンを取得して配偶者居住権を使えば、かなりの相続税の節税効果が生じることになります。)。ゆえに、固定資産税、管理費、修繕積立金等の、帰属所得に関する家事費用の面についても考慮されるべきものと考えます。
また、登録免許税については、土地、建物の所有権移転の相続登記は、固定資産税の評価額に、所有者、配偶者居住権者それぞれの相続税の評価額の割合で按分した金額で負担すべき(配偶者居住権の設定登記にかかる登録免許税は配偶者居住権者のみが負担する。)と考えられます。
相続税基本通達9-13の2は、贈与税に関する相続税法第9条に関する通達ですが、譲渡できない権利であるところの配偶者居住権の移転については、経済的利益による所得税の収入金額は認識できないが、対価性のあるべき配偶者居住権の消滅によるその帰属所得の移転については贈与税の課税対象となる旨を規定したものと考えられ(法務省「残された配偶者の居住権を保護するための方策が新設されました」Q9参照)、同基本通達9-10(無利子の金銭貸与等)とあいまって、対価性のあるべき帰属所得の無償移転が贈与税の対象となる可能性があると解されることになります。(対価がある帰属所得の移転は、譲渡所得・一時所得等の所得税法の各種所得の収入金額となります。)
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