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1 会社のオーナー経営者、賃貸アパートや貸しビルの経営者、株式等の証券、預貯金等の金融資産をお持ちの方が認知症になり、徐々に判断能力を失い、最後には意思能力を失うこともあります。
この場合には家庭裁判所で選任された法定成年後見人が付され、ご本人の財産の処分や家具その他の新たな財産の購入などの権限は、全て法定成年後見人に与えられてしまうことから、ご家族の相続対策のための財産の処分や遺言書の作成はできなくなります。
成年後見人の職務は、成年被後見人である本人の生活、療養看護、財産の管理に関する事務全般とされ、その目的は「成年被後見人の保護」のために限定されているので、ご家族のためにいろいろな相続対策を図ることが本人の財産の保護=維持に反するとされたときには、全く何もできないことになってしまう場合も生じます。特に、認知症にかかる前の本人の意思にかかわらず、現在の本人の保護を目的としているため、例えば子・孫への贈与税の基礎控除(110万円)内の金銭等の贈与、極端な話お年玉さえも、成年被後見人の財産の保護に反する(財産が減少する)ことから、できないことになりかねません。
2 したがって、認知症になる前に何らかの対策を立てておくことが肝要です。このための対策として以下のものが考えられます。
① 早めに生前贈与をしておく
② 遺言書を作成しておく(できれば公正証書遺言が望ましい)
③ 親族等のうちの信頼できる者を任意後見人とする任意後見契約を締結しておく
④ 財産の全部もしくは一部を信頼できる親族等に信託する契約を締結しておく
⑤ 一般社団法人を設立し、徐々に財産を移管し、資産管理法人とする。
3 早めの生前贈与の方法としては次のものがあります。
① 通常(暦年課税)の110万円の控除を利用した財産の贈与
② 子・孫に対する教育資金の一括贈与(最大1,500万円、信託会社等への信託が要件)
③ 子・孫に対する結婚・子育て資金の一括贈与(最大1,000万円、信託会社等への信託が要件)
④ 子・孫に対する住宅取得資金の贈与
⑤ 配偶者に対する居住用不動産の贈与
⑥ 相続時精算課税制度を使った推定相続人(通常は子)に対する財産の贈与
4 不動産を生前贈与する場合には、特に相続時に利用できる「小規模宅地等の特例」との関連を注意する必要があります。
「小規模宅地等の特例」の対象となる宅地等とは、相続人である個人が相続により取得した宅地等のうちに、相続開始の直前において、
① 被相続人等(被相続人及び被相続人と生計を一にしていた親族、以下同じ)が居住の用に供し ていた建物の敷地
② 被相続人等が事業の用に供していた建物等の敷地
③ 被相続人等が貸付事業用に供していた建物等の敷地
である宅地等で、一定の親族である相続人が取得した場合には、相続税の課税価額の算出する際の当該宅地の評価額を、①のときは80%、②のときは80%、③のときは50%減額できます。
つまり、1億円の評価額がある宅地について、①のときは2千万円、②のときは2千万円、③のときは5千万円で、評価できることになるので、多額の相続税を節税できる制度です。
問題は、「一定の親族である相続人が取得したとき」に該当するがどうかです。
②、③は、親族である相続人が取得し、事業を継続し、当該土地建物の保有を継続することが要件となっていますが、①は被相続人の配偶者の方、被相続人と同居もしくは生計を一にしている親族方、ご自分の家をお持ちでない一定の親族の方が相続することが要件となっています。
この場合の一定の親族の要件は、被相続人の方の配偶者・同居親族がいない場合の別居親族で「3年以内に自己・自己の配偶者が所有する家屋に居住したことがないこと」とされています。
それゆえ、子・孫に住宅資金の贈与や相続時精算課税を利用して、居住用住宅取得の援助をしたときは、その子・孫は、相続時に自分の家を持っているので、この特例が使えなくなるということを理解しておく必要があります。
5 相続時精算課税を選択する生前贈与は、その当事者(贈与者、受贈者)間では、暦年課税(110万円)が使えなくなるということを理解しておく必要があります。
その意味はつぎのとおりです。
相続時精算課税を選択したカップル(贈与者=尊属A及び受贈者=卑属Bとします)は、選択した年以降Aの相続があるまでの各年に、AからBに贈与した財産は、すべて相続時精算課税による生前贈与財産とされ、2,500万円を超える部分の贈与についてはその都度(年ごと)に20%の贈与税を支払わなければなります。
その後Aの相続のときに、Bが相続時精算課税によって贈与された財産の全部が贈与のあったときの申告時の価額(その当時の評価額)がAの相続財産に加算され、Bの負担する相続税から当該相続時精算課税に係る贈与税を控除するという計算になります。
したがって、経済がインフレ傾向のときには効果がありますが、デフレのときには逆効果です。
また、これを使って新築マンションなどを購入した時は、買ってすぐ3割減、建物は減価償却により価額が下がり、仮に土地の評価が上がっても、区分所有による敷地の持分割合が低ければそれほど効果はありません。
ただし、消費税が10%に増税されたときは、住宅取得資金の贈与の非課税枠が時限的に倍以上になりますので、この制度と併用すると有効かもしれません。
なお、相続時精算課税を選択した当事者A以外の方から、Bが贈与を受けるときは、Bは110万円暦年課税の非課税を使えますのでご注意を。
6 任意後見契約を利用して、将来認知症になったときに信頼できる親族に、財産管理をしてもらう方法はどうでしょうか。
任意後見について、別の項「成年後見制度について」で概要を説明していますが、その契約の効果の発生が、家庭裁判所の任意後見監督人の選任にかかっていること、任意後見人の職務が法定後見と同じ職務を負っていることから、「成年被後見人の保護」のために、ご家族のために相続対策を図ることが本人の財産の保護=維持に反することになりかねないことになります。
7 信託契約を活用した場合はどうでしょうか。
信託については別の項「信託(民事信託)について」で概要を説明していますが、ポイントとしては、受益者を委託者(信託を委託する財産の所有者)とは「別の者」としたとき(他益信託=受益者等課税信託)には、受益権が発生した時点で、贈与税(相続税)が課される、ということを理解しておかなければなりません。
したがって、認知症に備えるための信託は、自益信託(委託者本人を受益者とする信託)にしたほうが良いということになります。
相続人に対する遺産分割による争いを避けるために、遺言を活用することもできますが、ご本人が認知症を発症してからお亡くなりになるまでの期間については、財産の管理が不便になるだけでなく、処分ができず、預金を引き出すことも難しくなります。
そのために任意後見人制度がありますが、前述のように使い勝手が悪い制度ですので、このような不便を避けるため、遺言の代わりに相続人を受託者とする「信託(民事信託)」を、遺産分割する財産ごとの自益信託として設定し、信託の終了原因を本人の死亡とし、受託者を信託終了後の元本の帰属権利者(遺贈による元本受益者)とした場合はどうでしょうか。
受益者が委託者以外のときには、受益権が相続の遺留分減殺請求の対象となることは、遺贈と変わりませんが、ご本人が認知症の間の信託財産は、受託者の受託財産として、受託者が任意に管理・処分ができることになります。その後本人がお亡くなりになったときは、死因贈与として相続財産の対象となります。
8 一般社団法人を活用する方法は?
一般社団法人には持分がないので、相続の対象財産でないから、相続対策には「いいことづくめ」かというと、そうではありません。上記1「個人事業を法人成させるとき」に記しましたが、個人の財産を法人に拠出するときに、やり方を間違えると、みなし譲渡による所得税の課税、法人の受贈益の法人税の課税、持分無き法人へのみなし贈与税の課税、といった多大な税金の負担が生じることがあります。
それゆえ即効性のある相続対策として、一般社団法人を活用することはお勧めできません。相続財産を、何も考えず簡単に一般社団法人に移転させることは、非常に危険な行為だということを理解しておきましょう。
さらに、法人にその事業用の土地を貸している場合の、上記(4)の小規模宅地の活用に関して、一般社団法人は特定同族会社とはなり得ないので、80%評価減の事業用宅地ではなく、50%評価減の貸付事業用宅地とされてしまうことも理解しておきましょう。
もっとも、個人事業の法人成のメリットの効果は十分にあり、不動産、有価証券等の含み益を有する資産を除いた事業用資産を簿価で法人に譲渡することによって、個人から法人に資産の一部を移転し、その資金は、現金等による基金を拠出してあてておけば、各種の税金を発生させないこともできます。
また、同族会社の経営者の場合は、会社の経営状態のよくないときに、評価の低くなった株式を法人に譲渡することも可能です。(時価評価が難しく財産評価通達で評価せざるを得ないことになるかと思います。)
その他、法人を、上記(7)の自益信託の受託者及委託者本人死亡後の遺贈による元本受託者とすれば、その後の法人の財産は相続財産とはなりません。
したがって、一般社団法人は相続対策の一つのアイテムとして利用するのが賢明といえます。上記のように、できるだけ各種の税金の発生しない形態で、一般社団法人に事業を移転し、当該事業による利益をできる限り法人内に留保すれば、その分相続財財産が減少するということです。
ただし、一般社団法人の社員の入退社には、気を付けておかなければ、第3者に実質的経営権を奪われてしまう危険性がありますので、十分に注意してください。
担当:杉本(すぎもと)
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